韓国の街を歩いていると、よく目にするのが製菓店だ。よく焼けたパンとコーヒーなどの飲み物を楽しむ人々の姿は見慣れた光景だ。古くから米を主食としてきた韓国人の食生活に、いまやパンは欠かせないものとなった。

小麦粉を原料とするパンが韓国で普及したのは、わずか50年ほど前のことだ。パンを誰でも楽しめる庶民の食べ物にする上で大きな役割を果たしたのがサムリプ(三立)食品だ。

三立食品の創立は、韓国が独立した時期にさかのぼる。1945年10月、故ホ・チャンソン名誉会長は、ソウル乙支路に三立食品の前身である製菓店「賞味堂」を設立した。ホ会長は、1959年に社名を「三立製菓公社」に変更し、企業の基礎を築いた。彼は、1964年の東京五輪観戦を機に日本の先進的な製パン産業の現場を目の当たりにし、クリームパンの開発に没頭した。三立食品は同年、国内で初めて自動化設備を備え、大量生産による「クリームパン」を誕生させた。

三立食品の「クリームパン」は、1964年の発売と同時に小売の製菓店が中心だった韓国のパン市場に画期的なブームを巻き起こした。三立食品の大方洞工場は、「クリームパン」を買おうという人で早朝から長蛇の列ができるほどで、「クリームパン」の売上は三立食品の供給量全体の3分の1を占めていた。砂糖が貴重品だった当時、ポツポツ空いた穴から口の中に入り込むとろけるような甘くて白いクリームは、食べる人の舌を魅了し、国民のおやつに定着した。発売当時10ウォンだった「クリームパン」は、今も800ウォンというリーズナブルな価格で販売されており、ボリュームもたっぷりだ。

三立食品の「クリームパン」は、発売から2013年までに17億個以上販売され、一日平均の販売量は約15万個に上る。これまでに販売された「クリームパン」17億個を一列に並べると、地球を5回り以上できるほどだ。「クリームパン」は、幼い頃を懐かしむ30代以上の消費者だけでなく、10代など若い年齢層も含め、幅広い年齢層の消費者から半世紀以上にわたって愛されている韓国のベストセラーとされている。




一方、三立食品は、「クリームパン」の他にも多様な製品を研究・開発した。その一つが「ホパン」だ。ホ会長は、粉食屋の当時の人気メニューだった蒸しパンを家庭でも食べられる方法を研究し、蒸し器で蒸すだけで食べられる「ホパン」を開発した。湯気を「フーフー(ホーホー)」冷ますことから名づけられた「ホパン」は、1971年10月の発売と同時に爆発的な反響を呼んだ。発売直後から翌年の2月までの「ホパン」の売上高は、三立食品の売上全体の15％を占め、冬の3カ月間に限っては三立食品の総売上の半分近くを占めた。「ホパン」は、冬のおやつの定番となった。

「ホパン」の発売から2013年までの累積販売量は55億個を超えた。43年間にわたって年平均約1億3千万個以上のホパンが販売されており、これは毎年冬に韓国人1人が3個の「ホパン」を食べた計算になる。

三立食品は、現在も「ホットク」や「ポルムタル」など、大量生産されたパンを国民のおやつとして販売している。「ホパン」も発売当時の小豆味から野菜味やビザ味、ミルク味など、種類が豊富になった。原料も韓国産の米を使用するなど、品質と風味に関する研究を続け、消費者のニーズに応えている。






三立食品の子会社として成長したSPCグループの昨年の売上は、3兆4500億ウォンだった。SPCグループが1987年に進出したベーカリー加盟店事業「パリバゲット」は業界1位に躍進し、今や米国や中国、ベトナム、シンガポールなどに数多くの店舗を出店するグローバル企業に成長した。

コリアネット　ユン・ソジョン記者
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