ひと

2014.04.09

「私にとって踊りとは、人間の本性とその多様な面を理解するための挑戦である」

フィンランドの振付師テロ・サーリネン(Tero Saarinen)氏にとって、踊りは単なる舞踊にとどまらない。踊りは彼の人生そのものであり、彼は踊りに無限の可能性を見出している。サーリネン氏が振り付けを務めた国立舞踊団の新作「渦巻き(Vortex)」が、16日に初めて上演される。国立舞踊団が外国人振付師に作品を依頼したのは創立52年以来初めてのことだ。

サーリネン氏は同作品に自身の経験と韓国の伝統を組み合わせた。互いに異なる文化の出会い、経験と知識の組み合わせを彼は「渦巻き」と表現した。彼は、「過去のものにアイデアを見出し、新しいものを創造することが好きだ。これは、過去、現在、未来が同時に存在することを意味する」と語る。  
          

국립무용단의 '회오리'를 안무한 테로 사리넨 (사진: 국립무용단)

国立舞踊団の新作「渦巻き」の振り付けを務めたサーリネン氏(写真提供:国立舞踊団)


彼は、フィンランドの自然から多くのヒントを得た。夏は日が沈まず、冬は日が昇らないフィンランドの神秘的な自然が彼を目覚めさせた。彼は、「暗闇と凍てつく寒さ、広大な海と森、自然の音。私の幼少時代は、とてもリアルでドラマチックだった。その極端な自然が私を敏感にした」と説明する。

サーリネン氏は踊りの社会的役割も強調し、「踊りは人間に内在する原初的なものを刺激する。踊りは私たちの想像を超えるものだ。現代社会を生きる私たちは、魂と体が分離している。すべての人は精神的に健康になるために踊る必要がある」と話す。

彼はクラシックバレエを専攻した元バレリーノだが、現代舞踊の他にも日本の伝統舞踊を研究するなど、古典と現代、東洋と西洋の枠にとらわれない作品を制作している。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)やイスラエルのバット・シェバ舞踊団などとコラボレーションしたことがある。1980年代にフィンランド国立オペラバレエ団でソリストとして活動していたサーリネン氏は、2011年にLGアートセンターで上演されたフランスの現代舞踊家カロリン・カールソン氏振り付けの「ブルー・レディ」に出演するなど、韓国の舞台にも何度か立ったことがある。2012年下半期に国立舞踊団から振り付けを依頼される前、すでに韓国の地域伝統祭りで接したパンソリや三鼓舞などに深い印象を受けた。サーリネン氏は、昨年6月に国立舞踊団のダンサーらとのワークショップの席で今回の共演を確信したという。

国立バレエ団の芸術監督のユン・ソンジュ氏は、「西洋舞踊は上体重視で、ジャンプなど空に向かって踊るのに対し、韓国舞踊は地を基盤とし、下半身を中心にして踊るという特徴がある。サーリネン氏は、韓国舞踊と同じく地を重視する傾向が強い」と説明する。


サ-リネン氏に国立舞踊団の新作「渦巻き」と彼の芸術の世界について聞いた。

‐「渦巻き」はどんな作品か。また、この作品の振り付けで強調したことは。

- 私の作品は、多様な面を持っている。その一つが韓国の伝統との出会いだ。私の経験と韓国の伝統を組み合わせて表現している。これも一つの「渦巻き」だといえる。古い伝統と音楽と振り付けを組み合わせて私たちの中にある原初的なものを刺激するのだ。韓国の作曲家らは、そうした伝統を基盤に新しい音楽を創造した。

私は自然の力からヒントを得た。そうした力と欲求が私の振り付けにエネルギーを吹き込んだ。私は無意識の動きと韓国の伝統から多くのヒントを得た。ダンサーが踊り、振り付けを創り出すことは、一緒にお祈りをすることに似ている。韓国は素晴らしい伝統を持っている。私たちはお互いにいろいろなことを学び合っている。ダンサーは、私の振り付けを通して動きをどう解釈すべきかを学んでいる。

踊りは私たちの想像を超えるものだ。現代社会を生きる私たちは、魂と体が分離している。振付師とダンサーは社会において重要な役割を持っている。踊り自体の役割もとても重要だ。踊りは私たちの内面にある原初的で不可欠なものを刺激して感興をそそる。現代人は魂と体が分離しているので、窒息状態のようなものだ。すべての人は気分を良くするために、また精神を健康にするために、躍る必要がある。

- 国立舞踊団は、伝統を再創作する芸術団だ。韓国舞踊を現代的にアレンジする過程はどうだったか。また、今取り組んでいる作業はコンテンポラリー・ダンスか。

- 私たちが今取り組んでいるのは、あるものをアレンジするというよりも、独自のものを創造するほうに近い。国立舞踊団は、伝統から新しいものを創造し、動きと伝統の解釈をさらに発展させている。私は国立舞踊団の伝統をさらに発展させる新たな方向性を提示している。その過程で私の知識よりもはるかに古い伝統を理解することができた。私たちは伝統をアレンジしつつも、精神的・哲学的につながっている。

コンテンポラリー・ダンスなのかモダンダンスなのか定義する必要はない。私は、そういった分類を好まない。モダン、コンテンポラリー、ポストモダン、ではその次はポスト・ポストモダンなのか。全く興味がない。大切なのは、自分自身に正直であることで、一緒に作業する人たちとの接点を見出すことだ。私たちが成し遂げたいことは何か、舞踊を通して伝えたいことは何か、それが最初の質問でなければならない。あまりにも先を行っているようだが、私を古い人間だという人もいる。

안무가 테로 사리넨은 핀란드의 극한 자연에서 많은 영감을 얻는다고 말했다. (사진: 국립무용단)

振付師のサーリネン氏は、フィンランドの極端な自然から多くのヒントを得るという(写真提供:国立舞踊団)



- 韓国舞踊とその他の国、フィンランドの舞踊との類似点と相違点は。

- 各国それぞれ互いに違う伝統があり、特徴、個性、傾向がある。私は舞踊のこういうところが違うとか説明できるほど、韓国の伝統についてよくわからない。私はアジアの舞踊だけでなく、各国の伝統舞踊に関心を持ち続けてきた。日本の革命的な踊りである舞踏を学んだり、様々な国を訪問したりしてきた。

しかし、韓国の伝統は、非常に独特で洗練されている。視覚的にもとても美しく、とても精巧だ。ダンサーらは表現力に優れている。初めてパンソリを聴いたときはとても感動した。声の使い方に感動した。無意識に歌っているかのようだった。単に音階を読んでいるという感じではなかった。みなぎる大きな力に深い印象を受けた。三鼓舞にも感動した。踊りながら太鼓を叩くというのはとてもユニークだ。奚琴の音もとても印象的だった。

- 自然からヒントを得たオーガニック(organic)な踊りを追求しているそうだが、その真意は。

- 言葉で表現するのは難しい。私はフィンランドで生まれた。私の精神世界は、驚異的な自然現象から影響を受けた。夏は日が沈まず、ずっと明るいままで、反対に冬は日が昇らない。こうした極端な自然が私を敏感にした。私は当然のごとく自然や季節の変化、草木の成長などに関心を持つようになった。野生からも感動を受けた。そうしたすべてのことが私の作業に影響を与えた。自然の変化と生涯周期はいつも興味深く感じられる。


국립무용단 무용수들과 연습중인 테로 사리넨 (사진: 국립무용단)

国立舞踊団のダンサーらと稽古するサーリネン氏(写真提供:国立舞踊団)


- マルチメディアを駆使して「ブルー・レディ(Blue Lady)」といった型破りの作品を制作した。そうした作業を通じて伝えようとしたメッセージとは。

- 進化といった新たなトレンドに関心がある。舞踊になぜマルチメディアが必要なのか説明する必要があった。十分な理由がなければならない。技術的な革新のための革新を見せるためではなく、その作業との接点がなければならないし、その作品の目的に合ったものを加えることができなければならない。そうした方法を通じて新たなアイデアと革新を引き出すことに関心がある。これも「渦巻き」だといえる。

踊りも重要だ。作品を通してある儀式(ritual)を創り出すのだ。私は常に人の良い面を考える。自分自身をより高いレベルに引き上げることができ、もう少し前進できる。そうした平和主義が私の作品に込められている。作品のほとんどは、個人の進化、社会の進化、そして理想に関するものだ。   

- 作品の中で衣装や照明など視覚的な面を重視してきたわけは。

- 私は踊りこそ素晴らしい資産だと思う。踊りには非常に多くの知識と経験が含まれている。踊りには美しさが込められている。私は全体論的な公演や舞踊を制作しようという意志を持っている。いろいろな知識と経験を組み合わせたい。私は常に視覚的なことに多くの関心を持ってきた。必要であれば、照明や衣装、マルチメディアなどをもっと加えるつもりだ。すべてデザインに関するものだが、そこにはいかなる限界も存在しない。

結果的に美しい作品ができる。なぜなら、技術、工芸、様々な経験が組み合わせられているからだ。感性を呼び起こし、質問を投げかけ、共感を得るには、クリエイティブな人たちと一緒に作業することが大切だ。私は多くの人との出会いを楽しんでいる。私は他の人の意見を聞き、情報を共有する。いろいろなアイデアを持って討論するのが好きだ。他の人と意見を共有することで自分のアイデアと作業をもっと発展させることができる。



핀란드 안무가 테로 사리넨은 무용수들은 직감, 관찰, 느낌으로 통역의 한계를 극복할 수 있다고 말했다. (사진: 국립무용단)

フィンランドの振付師サーリネン氏は、ダンサーは直感、観察、フィーリングで言葉の壁を乗り越えられるという(写真提供:国立舞踊団)


- 海外の舞踊団と一緒にする作業は、すべて通訳を介さなければならない。通訳を経る過程で失われることはないか。また、文化的な違いをどう乗り越えたのか。

- とても良い質問だ。私も似たような疑問を持っている。母国語ではない他国の言語でコミュニケーションをとるとき、いつも同じ疑問が湧いてくる。しかし、ダンサーというのはとても直感が優れている。言葉がなくても、多くのことを理解することができる。耳で聞くよりも、直感、観察、フィーリングで理解できる。だから、踊りは美しい芸術だ。国境を越えることができる。優秀な通訳者に恵まれてラッキーだった。彼らは創作の一部だ。彼らは私の口なのでとても重要だ。コミュニケーションはとても繊細な作業で、容易なことではない。

もちろん、文化的な違いはあるが、それは多様性と見るべきだ。韓国に来た私がフィンランドと同じだと思っているとしたら、むしろそれがおかしいだろう。すべてが違う。なぜなら、韓国のほうがはるかに古い伝統を持っているからだ。私は伝統を尊重する。そこに新たなアイデアを加えたい。そのためには、双方ともに機敏でなければならないし、精神を集中しなければならない。そして、初対面で共感できなければならない。そして、お互いを尊重し、何よりも互いに学び合うことができなければならない。私は初日から尊重とインスピレーションを感じた。だから、大きなカルチャーショックはなかった。形式的に言っているのではなく、心からそう感じだ。   

- オーディションを通じて25人の出演者を選抜したが、練習生を大抜擢した。とても大胆なことだと思うが。

- 正直言って、オーディションという言葉は好きではない。オーディションを受けるのも嫌いだし、オーディションを主管するのも嫌いだ。オーディションは効果的ではない。私は数日間、ダンサーらとワークショップを行った。すべての人をキャスティングすることはできなかった。何よりも十分な時間がなかった。50人全員を起用することはできないし、もし全員をキャスティングするとしたら、もっと多くの時間がかかってしまう。私は半分の25人をキャスティングすることを決めた。オーディションでは直感が大きく働く。3~4週間前にキャスティングが完了した。私は彼らと長い期間一緒に作業をした。ある人は、成長が遅いため、十分に時間を与えれば大きく成長するかもしれない。反対に、ある人は、初日に素晴らしい踊りを見せても、それ以上発展しない。そんな彼ら全員にチャンスを与える必要がある。もちろん、時間的な制限や様々な障壁がある。ダンサーにとっても、これまであまりしたことのない経験だ。私はクラシックバレエから始めたが、多くの場合、1カ月前に自分の役が決まる。だから、自分がどんな役なのか事前に知ることができる。でも、私はそのやり方が好きではない。

システム自体に反対しているわけではない。大きな舞踊団体にはそうしたシステムが必要だ。しかし、今回の作品に関していえば、私は50人のダンサーについて何も知らない状態だった。だから、彼らを観察し、どれだけ献身的なのか、私の振り付けをどれだけうまくこなせるかを判断したかった。     

     

국립무용단 단원들과 연습중인 테로 사리넨 (사진: 국립무용단)

国立舞踊団の団員らと稽古するサーリネン氏(写真:国立舞踊団)



- 舞踊を始めたきっかけは。

- 私の家族はみんなスポーツが好きだ。私はサッカーやアイスホッケー、スキー、卓球、テニスなどほぼすべてのスポーツを体験した。幼いときは、とにかく多くのスポーツをした。体操競技にも打ち込んだ。でも、ある瞬間からスポーツが嫌になり、油絵を描くようになった。ある日、父に誘われて舞踊教室に一緒に行った。私は気が進まず、舞踊は嫌だと言ったが、結局その教室に参加した。

比較的遅い年齢で舞踊を始めた。初めて舞踊に接したのは16歳のときだった。父に誘われて舞踊教室に行ったとき、とても衝撃を受けた。最初の稽古で直感的に悟った。動作か音楽からだったと思う。その瞬間、これこそ自分が望んでいたことだと思った。300人の女性の中で男性は私一人だけだった。これこそ自分が生涯かけてやっていきたいことだと思った。ダンサーという職業があることを誰も教えてくれなかったが、私にとっては全く新しい世界だった。

私も時に自分の力に驚くことがある。私はこんな職業があることすら知らなかったが、ぜひこの職業に就きたいと思った。私の心の奥深くを揺さぶられてしまったようだ。私の先祖にとても優秀なダンサーがいたのではないかと思う。ここまで魅かれたのは、肉体的なものと芸術的なものが融合しているからだと思う。とても素晴らしい経験だった。私は今もこの道を歩み続けている。   

- あなたの人生にとって舞踊とは。

- 舞踊は私の人生そのものだ。私は舞踊を職業とは思っていない。舞踊は私の生活そのものだ。私は今も公演を続けており、他の舞踊団のために振り付けを考えている。一言で言えば「マルチタスキング」だ。とても興味深いことだ。今後、舞踊はもっと尊重されるべきであり、普遍化されるべきだ。すでにその方向に向かいつつある。いろいろな舞踊が生まれ、観客は少しずつ増えている。フィンランド政府も多くの支援を行っており、フィンランドの多くのダンサーが海外に進出している。コンテンポラリー舞踊自体が総合芸術になりうる。私は振付師として、常に舞踊をもっと広い視点から見ようとしている。自分を舞踊のメッセンジャーあるいは宣教師と思っている。舞踊は自分の考えを伝えるが、強要はしない。舞踊には何か美しいものがあり、多くの可能性を秘めている。

국립무용단의 작품 '회오리'의 포스터 (사진: 국립무용단)

国立舞踊団の新作「渦巻き」のポスター(写真提供:国立舞踊団)



コリアネット イム・ジェオン記者
jun2@korea.kr