ダマニ氏へのインタビュー
- あなたが韓国に来るきっかけになったのはトッポッキの香りだと聞いた。トッポッキの魅力とは?
アングレームで学んでいるときに出会った韓国人留学生たちがトッポッキを作ってくれた。初めて食べたが、とても美味しかった。彼らは、韓国でよく食べていた料理だと紹介してくれた。それ以前から留学生たちには強い好奇心を持っていたので、彼らとはすぐ親しくなった。彼らはよくトッポッキを作り、私はその香りが気に入っていた。本のタイトルを『トッポッキの香り』にしようかと考えたほどだ。今でも頻繁にトッポッキを作って食べている。韓国人の友人に出会う前は、韓国について知っていることといえば、2002年のサッカーW杯の開催国ということぐらいだった。
- 韓国文化に親しみを感じるようになったきっかけは。また、韓国文化の中で特に関心のあることは。
以前はニューヨークのような大都市に関心があったが、韓国人の友人に出会ってから韓国に興味を持つようになった。アングレームで学んでいるとき、「都市」を修士課程の論文のテーマにしてソウルを取り上げた。ソウルを取り上げる芸術家があまりいなかったのも理由の一つだ。モダニティと過去の伝統が共存する中で発展してきたソウルに魅力を感じた。
- 絵を描くために頻繁に訪れる場所は。また、韓国で最も気に入っている場所は。
特に気に入っている場所はないが、地下鉄のリアル感が好きだ。地下鉄の外では互いに話をし、共感を形成して生きているが、階段を下りた地下鉄の中は、店と通路、足早に歩く人々で全く違う別世界が広がっているからだ。地下鉄の中と外で見られる全く違う姿、特に周りの人と距離を置こうとする韓国人に興味があった。人の後頭部しか見えないバスとは違い、地下鉄は人の表情を観察でき、スケッチしやすいことももう一つの理由だ。
絵を描くために特に訪れる場所はない。気の向くままに行動するのが好きだ。地下鉄に乗り、何となく気の向いた駅で降り、新しい場所を発見するのが好きだ。そんな見知らぬ場所では嗅覚をはじめとする五感が研ぎ澄まされ、良い絵が描ける。絵を描くときは、そうやって見つけた場所に座って1時間ほど思いにふける。そうして絵の構想が思い浮かんだら描き始めるという感じだ。何の計画もなく、1枚の地図を片手に歩き回り、新しい場所を見つけて絵を描く。それがとても楽しい。
- あなたの絵には赤い顔の人物や赤いマルトゥギ仮面、赤いマントをかぶった鼻が頻繁に登場する。その人物とは。もしかしてあなた?また、その人物が意味するものとは。
その人物は私ではない。鼻を描いたのは、以前初めて手掛けた「鼻プロジェクト」に起因する。ロシア人作家のニコライ・ゴゴール(Nikolai Gogol)の小説『鼻』を再解釈したものだ。小説の主人公が失った鼻を探してさまよう内容をモチーフにした。物語の背景を韓国にし、赤で強調してマントを着せた。韓国文化で「鼻」が持つ象徴性も興味深かった。韓国人にとって鼻はアイデンティティ(identity)を象徴していると思う。「ソウルは一瞬にして鼻をもぎ取っていく」ということわざや高い鼻に対する東洋人のコンプレックス、西洋人を「鼻高」と呼ぶことも知った。
仮面は私の絵の中でストーリーを展開させる役割を果たしている。韓国文化について学んでいるとき、伝統仮面でマルトゥギがストーリー展開において重要な果たしていると聞いた。私の絵でもマルトゥギ仮面をかぶった人物は同様の役割だ。
- 挿絵集を通して伝えようとしたメッセージとは。
韓国人が日常生活の中で平凡に、当たり前に思って見逃している些細なこと、平凡なことを描くことによって忘れ去られたことの大切さを知ってほしかった。もちろん、そうした視点は私が外国人だからできることだ。反対に、フランスでは私が忘れていることを韓国人が見つけて同じことを言うだろう。韓国人は周りに宝石が散らばっていることに気づいていないと思う。だから、私は本で、絵を通してそれに気づいてほしかった。
- これまでの韓国生活で一番記憶に残っていること、または出来事は。
今手掛けている「キョンスク・プロジェクト」だ。「鼻プロジェクト」の主人公が鼻を探して韓国を訪れ、キョンスクという通訳者に出会うという内容だ。彼女はフランスに留学した後、韓国に戻って暮らす。キョンスクを中心とした物語が今回のプロジェクトの中心だ。このプロジェクトのために韓国人留学生や韓国人女性に会ってインタビューしているところだが、とても興味深い。実際に、フランス留学から戻ってきた韓国人学生、特に女子学生は韓国社会への適応が容易ではないことを知った。このプロジェクトのために情報を得ようと韓国人学生、特に女性留学生にインタビューした内容を集めて本を出版したい。また、ソウルや韓国文化についてもっと深く知りたい。
- 絵のヒントがひらめく場所は。
特別なヒントがひらめくことはないが、特定のテーマで作業することは好きだ。芸術家や作家、映画監督、カメラマンなど、他の分野の人々のアドバイスを聞くように心がけている。芸術的感性(sensitivity)を高めるには、そうした人々の言葉を聞くのが一番だ。
- 自分自身をどんな芸術家だと思うか。
私は、自分自身を芸術家というよりも、研究する人だと思っている。あらゆることに好奇心を抱くからだ。好奇心によってもっと自分の作品を発展させることができる。アングレームで学んでいるとき、漫画やビデオ、メディアなどの関係についていつも研究していた。そうした研究がコンテンツ生成において重要であることが証明された。
- 次の作品、または計画は。
今手掛けている「キョンスク・プロジェクト」として、韓国人のガールフレンドと一緒に「交差する視線」をテーマに作業中だ。ガールフレンドはフランス人にインタビューし、私は韓国人留学生にインタビューするといった具合だ。
もう一つの計画は、フランス人のドキュメンタリー監督のジーザス・カストロ(Jesus Castro)氏のプロジェクトに参加することだ。カストロ氏は、私の制作過程をすべて収録し、ドキュメンタリーを制作する予定だ。
- 今後、挑戦してみたいことは。
特に考えていない。今後もずっと絵を描き続けるかどうかもわからない。教えることも好きだからだ。絵を描くことも好きだが、人と話すことも好きなので、絵の指導にも挑戦してみたい。
- あなたにとって絵とは。
絵は旅だと思う。旅は、見知らぬ場所で、時間が経つのも忘れ、一つのことに没頭させるからだ。私にとって絵は、自分が思いついた言葉やアイデアを自らに問いかけ、紙の上に表現することだ。私は、多くの人が私の絵を見てその中に表現されたそれぞれの些細な物語を通して自分自身に問いかけてほしいと思う。そうした問いかけは社会を発展させることができると思う。韓国社会は、過去の伝統と現在の新しさが共存する重要な転換期を迎えていると思う。伝統と新時代がぶつかり合う時期である今こそ、まさに問いかける絶好の時期だと思う。