ひと

2015.02.19

数年前まで韓国のクラシック音楽のレパートリーは欧州中心だった。そして、韓国の音楽は古い伝統にとらわれていた。クラシックと国楽は、互いに異質の分野とされてきた。そうした中で1月、KBS交響楽団は交響詩「龍飛御天歌(Songs of the Dragons Flying to Heaven)」から「龍たちの飛翔(Rising Dragons)」を初めて演奏した。
 
작곡가 임준희 교수는 한국적이지만 세계적인 어법으로 작곡한다는 평을 받고 있다.

韓国らしくありつつも世界的な語法で作曲するという評価を受ける 作曲家のイム教授


「龍飛御天歌」は、朝鮮の建国を賛美した韓国伝統の叙事詩だ。この曲を作曲したのは、韓国芸術総合学校韓国音楽作曲科のイム・ジュニ教授だ。彼女の作品の世界は、朝鮮時代の男女間の愛を表現したオペラ「天が定めた縁」や国楽カンタータ「漁夫四時詞」、カンタータ「漢江」、国楽協奏曲「魂の火」シリーズ、管弦楽「ダンシング・アリラン」、舞踊曲「バリ」、室内楽「タラ」「ダンシング散調」、歌曲「恋しいあなた」「虹」、エレクトロニック・ミュージックとサムル遊びのための「トゥドゥリ」など、多様で幅広いという評価を受けている。また、東洋と西洋を網羅した、最も韓国らしくありつつも世界的な語法で作曲しているとも評価されている。

150216_Lim_Junehee_album1.jpg

임준희 교수의 작품 앨범. ‘댄싱 산조’(위)와 임준희 가곡집. 전통음악 창작곡인 ‘댄싱산조’는 일본 소니뮤직에서 발매돼 주목을 끌었다.

イム教授のアルバム「ダンシング散調」(上)とイム・ジュニ歌曲集(下)。伝統音楽創作曲「ダンシング散調」は、日本のソニーミュージックから発売され、注目を集めた


特に、2006年にドイツのフランクフルト歌劇場で初演されたオペラ「天が定めた縁」は、「豊かな韓国文化と欧州らしい要素の理想的な融合」という評価を受けた。このオペラは2007年に日本、2008年には北京五輪記念音楽会(Meet in Beijing)、2014年にシンガポールなどで上演され、好評を受けた。また、2011年に「大韓民国作曲賞」の最優秀賞を受賞した国楽カンタータ「漁夫四時詞」は、国楽と洋楽の融合を通じてグローバル創作の新たな扉を開いたという評価を受けた。

임준희 한국가곡집 ‘그토록 그리움이’. 대표작 21곡을 담았다.

イム・ジュニ韓国歌曲集「恋しいあなた」。イム教授の代表作21曲が収録されている


イム教授は、延世大学音楽部作曲科を卒業した後、米インディアナ大学で西欧の現代音楽の語法を熱心に学んだ。留学時代、教授と学生たちに「あなたの国の音楽を聞かせてほしい」といわれショックを受けたという。韓国人が韓国の音楽についてあまりにも知らないことを痛切に反省し、韓国の伝統音楽を知ろうと努力してきた。伝統的な素材を基に、独自のカラーを持つ作品を生み出す方法を模索した。韓国の音楽の現代的な再解釈と再創造、そしてコミュニケーションを目指し、創作活動を送ってきた。

創作の世界について、イム・ジュニ教授に話を聞いた。

1981年12月2日付の京郷新聞に、大学歌曲祭で「風に乗せた調べ」で金賞を受賞した23歳のイム・ジュニさんが、副賞として贈られたピアノ1台を京畿道一山長老教会に寄贈したという記事が掲載された。ずいぶん太っ腹だと思うが、正直言って惜しいとは思わなかったか。

1981年の大学歌曲祭に初出場し、金賞を受賞して副賞としてピアノをもらった。惜しいとは全く思わなかった。そのピアノで教会の多くの人が恩恵を受けた。正直言って、太っ腹だと思う。それは今も変わらない。

임준희 교수는 음악, 예술의 효용은 타인에게 주는 데 있다고 강조한다.

音楽、芸術の効用は、他人に与えることと強調するイム教授


歌が上手なので声楽家になると思っていたが、作曲の道を選択した。お母さんの影響が大きいのでは。

家族の中に音楽を専攻した人は誰もいない。家族は、音楽ではなく美術を専攻した。一つの分野を専門的に研究するようになったのは、母の影響が大きい。女性として初めて延世大学国文学科を卒業した母は、女性も自分の考えと哲学を持たなければならないといつも強調し、それがモチベーションになった。おかげで自分が行くべき道と方向は何かについて深く考えることができた。

1998年の金大中大統領の就任式のときに祝歌として歌われた「東の朝の国」は、そうした気持ちをしっかり込めた歌だ。通貨危機などの困難を乗り越えて立ち上がろうという意気込みと、大衆に向けては潜在力のある人々が力を発揮して輝いてほしいという願いを表現した。この曲の歌詞の基になった詩は母が書いたが、他にも母は愛国心を高める詩をたくさん書いた。好きな作品は、修道女のイ・ヘインさんの詩集や詩人のカン・ウンギョさん、チェ・ヨンミさん、コ・ウンさん、キ・ヒョンドさんの作品などだ。

ソウル市立少年少女合唱団で活動し、高校時代は歌で宣教活動をした。幼少の頃からすでに作曲をしていたのか。

幼少時代の私はとても活発で、好奇心旺盛な少女だった。高校時代に友人たちと一緒にミニスカートをはいてギターを弾きながら歌った。踊るのも好きだった。高校2年生のとき、米国を巡回する宣教師に選ばれ、練習に没頭していたため勉強は後回しだった。

中学時代から声楽を学んではいたが、あくまで歌は趣味だった。作曲を学び始めたのは高校3年生になってからだ。当時、担任だったチェ・フンチャ先生に延世大学への入学を勧められた。私の適正と才能を見抜いていたようだ。

コツコツ積み重ねた経験にはかなわないとしても、音感など持って生まれた才能も必要だと思うが。

音楽を専攻する人は音に敏感な人が多い。私もそうだ。米国で学んでいるとき、よく耳が良いといわれた。敏感な耳が創作に役立つのは確かだ。入ってくるものがあってこそ出て来るものがあるのだから。

時間と物理的な制限を乗り越えて創作品を生み出した。最も困難だったことは。

女性作曲家なら誰でも共感すると思うが、女性作曲家の半数以上は結婚しない。作品づくりに相当な時間を要するからだ。私は結婚したが、今振り返ると家庭を持ってからのほうが音楽の勉強を一所懸命したようだ。他人よりも時間が足りないと思うと欲が生まれ、より没頭することができた。時間を賢く、大切に使うよう心がけた。それに、育児をしながら感じた辛い気持ちと長く義理の母と同居した経験が曲に全て表れ、共感してもらえたのではないかと思う。

音楽、芸術は根本的に人のためになる学問だと個人的に思う。「人に必要な曲とは何か」と深く考えることがある。芸術は日常との深い関わりなくしては生まれてこない。私が持っているものを多くの人と分かち合いたい。芸術家の多くは、名声と人気を得られなかったらどうしようと不安を感じる。私は常に「芸術は与えるもの」と思っている。だから、不安とストレスを感じることは少ない。

日常生活は、舞台の上の華やかさとはほど遠い。曲を書くために本を読み、悩み、考えながら日々を過ごす。毎日同じことの繰り返しのような日常が一番楽しくて幸せだ。

歌曲と文学は切っても切り離せない関係だと思う。感動する作品は、韓国の古典文学がモチーフになっているようだ。創作につながっているものとは。

米国で現代音楽を学び、世界の文学と宗教にも関心を持っていた。両親と同じ世代の人たちの話と痕跡を残したかったのが一番の理由だ。その貴重な痕跡に私たちがスポットを当てなければいけないという一種の責任感のようなものだった。

特に、作家のチェ・ミョンヒさんの大河小説「魂の火」を読んでとても残念に思った。彼女は約17年かけてたった一つの作品を完成させ、40代で生涯を終えた。その中に込められた貴い精神に誰かが必ずスポットを当てるべきだと思った。女性作曲家として新たな観点から自分のやり方でスポットを当てたいという思いに駆られ、伝統楽器と組み合わせれば良いものができると思った。そうして2003年から「魂の火」シリーズの制作を始めた。これまで計5部が制作されたが、1部の伽耶琴から5部の奚琴まで様々な協奏曲が完成した。新鮮だという評価が相次ぎ、それをきっかけに西洋人作曲家らも国楽に関心を持つようになった。現在書いている6部は、コムンゴ協奏曲だ。

국가와 민족성을 넘어 보편적인 주제로 창작의 외연을 확장하겠다는 임준희 작곡가.

国と民族性を超え、普遍的なテーマで創作の幅を広げたいというイム教授


「漁夫四時詞」や「龍飛御天歌」「天が定めた縁」など、朝鮮時代をモチーフにした作品が多い理由は。

朝鮮時代の漁夫たちの暮らしを描いたユン・ソンドの時調「漁夫四時詞」は、国立国楽管弦楽団の芸術監督だったファン・ビョンギ先生に薦められた。とても素晴らしい作品なのにあまり脚光を浴びないと残念がっていた。春夏秋冬の4部作の2時間の作品を制作した。そのとき知った。一つひとつの言葉に込められた意味を。シェークスピアのような世界的作品だけを注目するのではなく、韓国の作品でも知らないものが多くあり、学ぶことがたくさんあることを実感した。

限りなく創作意欲を刺激する原動力とは。

宗廟祭礼楽や文廟祭礼楽、寿斉天、與民楽など伝統雅楽を指導するには、自ら経験し、学ばなければならない。学べば学ぶほど分かち合いたくなる。特に、楽器の編成を研究していると、韓国の伝統楽器には良い要素がたくさんあることに気づく。打楽器 の「編磐」や「編鐘」「敔」「缶」「拍子木」、管楽器の「壎」など、世界のどこにもない独特な音を出す楽器が多い。音節の間に即興で入る非常に特異な音だ。

他にも、素材に関する交流も続けたい。今年1月からはミュージカル・オペラ・アカデミーで劇作家と作曲家のネットワークを指導する支援を行っている。そこでも主に韓国らしい素材を取り上げている。「赤い自画像」という作品は朝鮮時代のソンビ(学者)のユン・ドゥソが肖像画を描くまでの過程を再構成したもので、「天井のアリア」は作曲家のユン・イサンにスポットを当てたものだ。3月にワークショップが予定されており、約1年間の練習期間の後、舞台で披露する予定だ。数多くのオーケストラと創作家が良きパートナーに出会えずに順番待ちの状態だ。マッチングの重要性を感じている。

作品から論理と感性の調和が感じられる。連作として生まれる作品の構成力にも優れており、似通った楽器を使っているにもかかららず、それぞれの作品から全く違う雰囲気が感じられるのは戦略と計算があるからだと思われるが。

作曲を意味する「コンポジション」は、「構成」を意味する。曲を完成させるには構成力とそこに伴う計算が必要なのは確かだ。どれだけ時間をかけて準備するかという時間の管理も重要だ。

1月の室内音楽会でKBS交響楽団とともに演奏した「龍飛御天歌」は、2年間の準備期間をかけて完成させた作品だ。不十分な部分もたくさんあったが、国楽器を初めて目にした多くの人に新鮮な演奏を聞かせたことが大きな成果だといえる。韓国を代表する交響楽団が新年音楽会で初めて韓国人作曲家が書いた正楽を演奏すること自体が意味のあることだった。当然のことだが、これまでなぜそうしたことが行われなかったのか不思議に思った。

사람을 좋아하고 아낄 줄 알고 평화를 사랑하는 한국인의 정을 작품에 담아보고 싶다는 작곡가 임준희 교수.

人が好きで人を大切にし、平和を愛する韓国人の人情を作品の中で表現したいというイム教授


交響詩「漢江」は、まるでスメタナの「我が祖国」を連想させる。それを生み出したのは韓国の歴史と現実か。

「漢江」はスメタナの作品をベンチマーキングした。朝鮮民族が心をひとつにし、世界に溶け込んでほしいという願いを込めた。平和と融和のメッセージを世界に伝えたいという思いだった。

これらの曲を通じ、朝鮮民族の情緒と人類愛を伝えることができると思った。ベートーヴェンは音楽を通じて人間の尊厳性と愛と平和を伝えようとした。その気持ちに大きく共感した。作品を通じて愛と平和のメッセージを伝えたかった。その延長線上で国楽「カンタータ」5部作や「ソング・オブ・アリラン」などを書いた。

特に、国楽を通じて朝鮮民族の最大の特徴である「人情」を伝えられると思った。韓国人の「人情」は、人が好きで人を大切にし、平和を愛する気持ちではないかと思う。でも、矛盾したことに韓国は分断国家だ。イデオロギーを超え、ただ音楽的なメッセージで交流したい。

昨年、国立オペラ団で上演された「天が定めた縁」を拝見した。両班は両班同士結婚し、僕は僕同士結婚するストーリーが単純すぎるという批評もあった。敢えて変化を選択した理由は。

原作は両班と僕、両班と召使の女が結婚するが、今回のオペラでは脚色を変えて天が結んだという「天が定めた縁」のメッセージをシンプルに強調したストーリーにした。

全ての作品と脚色は、時期との関わりがある。その時期の作品は、暗く悲しいものが多かった。演出家や劇作家との会議で、多くの人が幸せを感じるハッピーエンドにしようという意見が多く、テーマである「絆の貴さ」に集中することにした。その代わり、内部の構成要素を充実させ、楽しさと感動を与えようと思った。でも、私自身も、劇的でなくどんでん返しのない単純な内容に多少の心残りはある。

150216_Lim_Junehee_Professor_KARTS_08.jpg

창작오페라 ‘천생연분’은 ‘풍부한 한국 문화와 유럽적인 요소의 이상적인 결합‘ 이라는 평을 받았다. 사진은 지난 2014년 10월 싱가포르에서 이뤄진 ‘천생연분’ 공연.

創作オペラ「天が定めた縁」は、「豊かな韓国文化と欧州らしい要素の理想的な融合」という評価を受けた。写真は、2014年10月にシンガポールで上演されたときの様子


作品はクラシックと国楽の垣根がないようだ。国楽と西洋音楽、伝統と現代を網羅する創作活動を展開する理由は。また、目指す価値とは。

作曲は創作だ。基本的には全て経験から新たな作品が生まれてくる。モチーフは伝統的なものもあれば、現代生活の中から見つけることもある。個人的には自分だけのカラーを表現できるモチーフを見つけ出したい。これまで私は伝統的な要素からモチーフを見つけ出し、それを現代風に解釈してきたと思う。

奚琴や伽耶琴といった伝統楽器も、解釈によっては現代風になる。自然でありつつも新鮮なサウンドで垣根を崩そうと心がけている。

現在作業中の作家のコ・ジェギさんの「パンテオン」もそうした脈絡から理解することができる。4月の発表を目処に準備しているところなので、現段階で説明することはできない。時空のない東の国で展開する物語で、私は誰なのか、なぜ生まれたのかなど、自身のアイデンティティ、存在、現実に関するテーマを盛り込む予定だ。そこに私ならではの語法を最大限に生かしたい。国と民族性を超えた普遍的なテーマを取り上げるつもりだ。

あなたにとって音楽とは。

一言で言えば、「音で解いた人間の愛情」だと思う。
感動を分かち合い、音楽の美しさを楽しむには、人を思う愛情が根底になければならない。それが欠けた音楽は生命のない音楽だと思う。

コリアネット ウィ・テックァン記者、イ・スンア記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者、ウィ・テックァン記者
whan23@korea.kr