名誉記者団

2022.04.14

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『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(大月書店)=吉岡香織撮影

『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(大月書店)=吉岡香織撮影


[東京=吉岡香織(日本)]

昨年7月15日に大月書店から発行された、『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』という本が注目を集めています。タイトルを見て、私もモヤモヤしている!知りたかった!気になってた!という方が多いのではないでしょうか。同年秋、日韓の歴史問題についてたいへんわかりやすく理解が深まると評判の同書を執筆した、一橋大学社会学部、加藤ゼミナール有志の学生の方々にお話を伺う機会を得ました。

お話を伺った5名の方々は、韓国コスメが好きな朝倉希美加さん、韓国からの留学生の李相眞さん、日韓交流団体への参加が歴史問題について考えるきっかけとなった牛木未来さん、多文化共生に興味があった沖田まいさん、スタディーツアーで出会った在日朝鮮人参加者との出会いで勉強をはじめた熊野功英さんです。

さまざまなきっかけで「日韓」への問題意識を持った5人。コロナ禍でたまたまこのメンバーが加藤ゼミに集まり、毎週、日本軍「慰安婦」問題や、日本人の朝鮮観に関する文献を読んで議論する中で、韓国文化は流行っているけれど、それを好きな人々の中に歴史認識がしっかりあるか?植民地支配の歴史を見つめることができているか?などのモヤモヤについて話し合ったことから、「韓国文化は好きだけど歴史についてはよくわからないという人にも伝わる大学生視点の入門書」を作ろう!となったそうです。

タイトルに含まれる「モヤモヤ」は、単純に一つの意味に定義できないが、「歴史問題について語りにくい、どう考えたらよいか分からないけど誰にも聞けない」という気持ちを代弁する言葉を探していて、ふっと浮かんだものとのことでした。

本の内容・手に取りやすい学習書になるよう工夫した点

本書は第1章〜第4章から成ります。彼らがどう「日韓」の歴史に出会い、最初は戸惑いながらも問題と向き合い認識を深めてきたかを再現し、彼らの歩いてきた道を一緒に体験できるような構成になっています。

第1章の「わたしをとりまくモヤモヤ」では、「推しが反日かもしれない」「何を信じたらいいかわからない」というような、日常で歴史と直面する場面やその時感じたモヤモヤを振り返ります。そして、彼らが「日韓」の問題を「自分ごと」として気づいたきっかけなどを「言語化」しながら、あなたにもそんな体験はないですか?と語りかけるように問題提起しています。

第2章「どうして日韓はもめているの?」では、「韓国の芸能人はなんで『慰安婦』グッズをつけているの?」「なんで韓国は『軍艦島』の世界遺産登録に反対したの?」など、多くの人が直面しやすい疑問を足がかりに「日韓」がもめている背景について説明しています。第3章「日韓関係から問い直すわたしたちの社会」では、「韓国のアイドルはなぜ兵役にいかねばならないの?」「歴史が問題になっているのは韓国との間だけじゃない?」といった疑問を通して、南北分断や天皇制、在日朝鮮人など日韓にとどまらない日本社会を問い直すような歴史問題を考えます。2つの章を通して、モヤモヤについて考えたり議論するために必要な、歴史の事実的な部分を解説しています。

第4章「『事実はわかったけれど…』,その先のモヤモヤ」では、この先、歴史にどう向き合い生きていけば、彼らが一番大事にしている「被害者中心主義」が叶う行動になるのか、自分達の体験を紹介することで、問題と向き合う姿勢について考えていきます。

李さんが、「一方的に押し付けないように上から目線な言葉を用いないことや、『わたし』という個人の経験を通して、一緒に考えましょうというメッセージを伝えることに心を配った。」というように、植民地支配の被害者に対してはもちろん、本のページをめくる私たちにも寄り添ってくれているような、温もりや優しさを感じます。同時に「歴史問題は事実を確かに伝えることが重要なので、歴史学の中での共有財産をしっかり盛り込み、多くの文献や論文を参照しながら何度も繰り返し検討した。」との言葉からは、本書が学術研究の成果を基盤にした信頼できる情報を提供していることがわかります。難しく感じがちな歴史問題と親しみやすさが融合するという類い稀な入門書は、こうして誕生していったそうです。

彼らも日本社会の中で体験した!「日韓」モヤモヤあるある

熊野さんのモヤモヤ:K-POPなどが好きな人はたくさんいて、周囲でももはや韓国文化を楽しむことが特別なことじゃなくなりつつあるのに、日本の朝鮮植民地支配の歴史のことは話されない。それどころかBTSや韓国文化を好きな人の中でも、韓国人、韓国という国は嫌いという人もいる。

沖田さんのモヤモヤ:ゼミで日韓関係や朝鮮近現代史をやると言ったら、友達から、「え?すごいね、私はそんな重いことできない」と言われた。歴史を学ばないこと、話さないことが、中立でいることかのように、そこから距離を置いてしまう心理というのは、実は、かつての日本の加害に加担していることではないだろうか。

朝倉さんのモヤモヤ:日本人でもBlack Lives Matter(略称,BLM)について投稿している人がたくさんいたけれど、「日本の差別」には向き合えていない場合が少なくないのではないか。黒人差別は「遠いところで起こっていること」だと考え、他人事と考えるから、「日本の差別」に無関心な人でも投稿できるのではないか?人種差別に向き合う時は、その前提として自分自身の加害や特権ということに向き合う必要があるのではないか。

牛木さんのモヤモヤ:「歴史問題に対して二つの見方がある」とか、植民地支配や教科書問題で、「韓国側の見方と日本側の見方を両方書くべきだ」と言われることが多いが、被害については実証的に明らかにされていて、もはや良かった悪かったと判断するまでもない。同じ過ちを繰り返さないよう過去から学ぶ時、被害をなかったことにするような見方をしてはいけないし、被害者の人権をどう回復していくかと考えることが一番大事ではないか。

李さんのモヤモヤ
:広島は原爆被害の展示館や資料館があって、戦争が繰り返されないように、日本が被った被害について強調されていると思う。その一方で、戦艦大和の展示館では戦争で使った船を誇らしい歴史として展示しているのを見て、矛盾しているんじゃないかと感じた。

日本で暮らしていると、彼らと同じように、さまざまな「日韓」のモヤモヤを感じたことがある方は多いのではないでしょうか。

本書を執筆した大学生のみなさん(左)。もくじ(右、大月書店ホームページより)

本書を執筆した大学生のみなさん、本のもくじ=大月書店ホームページ


韓国LOVERSが、モヤモヤLOVERSに


出版されるや否やあらゆる書店で品切れになり、私もいろいろ探して何とか購入することができました。その反響には本人たちも驚いたようです。「歴史問題を外交問題っぽく考えていたけれども、国と国との駆け引きの問題じゃなくて人権問題だとわかった」などたくさんの反響が寄せられ、また、BTSのファンであるARMYをはじめ、本を読んでくれた人たちが自分の知り合いに勧めたりソーシャルメディアで丁寧に紹介するなど、読者それぞれの「言語化」の連鎖が起きているそうです。そうした人たちと連帯を広げていくことで、絶対に何か社会は変わっていくはずだと、彼らも元気をもらっているといいます。また、残念ながら今の日本に散見される、ネット上での誹謗中傷や攻撃がないかを尋ねたところ、ないわけではないけれど、読者の方が反論してくれるなど、応援のほうが多く感じられ、勇気付けられているそうです。

発売から7カ月が経ち、5刷、累計1万部が決定したとのこと。また、韓国の出版社から依頼があり、韓国語の刊行が予定されているそうです。今後の活躍にも期待が持たれますが、熊野さんは、「読者の方と直に意見や感想を共有しながらモヤモヤを語り合ってみたい。この本は大学生が読めるように書いたけれど、中高生でもBTSやNiziUが好きな人はいっぱいいるので、その世代に読んでもらえるような取り組みをできたらいいな」と考えているそう。李さんは、「タイトルで「日韓」にカッコがつけてあるように、日本と韓国だけではなくて、日本と韓半島全体を念頭に置いている。韓国には「韓国史」という科目があり、私が学んだのは韓半島の南半分、いまの大韓民国が形成された歴史だった。日本に来て感じたのは、歴史認識が甘かった、在日朝鮮人の問題や、朝鮮民主主義人民共和国を全く念頭に置かずに歴史を見ていたこと。この本が韓国で翻訳されるということで、在日朝鮮人や、朝鮮民主主義人民共和国の問題なども韓国の人々に知ってもらい、考えてもらうきっかけになればいいな」と期待しているそうです。

もちろん、第4章にあるように、事実を知ってもモヤモヤは続いていくのだと思います。卒業後は就職しようと考えている沖田さんは、「朝鮮近現代史を学ぶ機会があったからこそ社会に出ても問題についてしっかり話せるし、意見を持てる自分でいたいと思っている。小さい行動でも少しずつ社会の空気を変えていくことができるのではないかという希望を胸に、一つひとつ自分の行動を選択していきたい」。熊野さんは、「民族差別、ジェンダー、階級の問題は、植民地支配の問題とすごく結びついている。真に人権の尊重された社会に日本を作り替えていくためにも、日本の植民地支配や加害の歴史が普通に語りあえるくらいに、人々の認識を変えていくことができたらと思う。日本社会に向けた本だけれど、外交問題や政治的問題としてではなく、まず「人権問題」として考えていただけたらうれしい。韓国文化が流行り日韓交流が盛んになれば、問題は解決されるという人もいるが、根本にある問題、特に日本の加害の歴史に向き合わない限り、なかなか真の日韓友好や日朝国交回復もできないと思うので、この本を通して、一緒にモヤモヤを語り合いながら考えていけたらと思う」と抱負を語ってくれました。

この本の放つ特別な魅力の一つは、多くの人が受け入れやすいところではないでしょうか。「K-POPアーティストが着た原爆Tシャツ」「インスタ映えスポット景福宮」など、BTSや王宮のような身近な話題を通して歴史の問題を考えていけるような伝え方の上手さもありますが、何より、歴史問題と被害者側の痛みだけではなく、これまで「知らなかった、向き合ってこなかった」人の後悔や痛みにも手を差しのべる優しさに私は惹きつけられます。彼ら自身の失敗や気づきの体験を率直に述べて、あなただけじゃない、これからが大切、モヤモヤしながら一緒に歩もうと伴走してくれているようです。包み込むような柔らかさが、人への勧めやすさとなっているのかもしれませんし、誰にも言えず胸に抱えていた人には、やっと話し相手を見つけられた喜びのようなものを感じられるのかもしれません。

そして、膝を打つとはまさにこのこと。一字一句にうなずき共感できるのもうれしく、こんな素敵な若者たちがいれば、これから前に進んでいけるのではと、読みながらワクワクしてきます。

きっかけというのは本当にありがたいことではないでしょうか。『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』との出会いというきっかけを得ただけでとても素晴らしく、「あやふや」で終わらせず、モヤモヤしながらも自分が変わっていこうという姿勢は、きっと平和な社会に続いていくと思います。今回お話しを伺った以外にもたくさんの大切なことが詰まった一冊です。ぜひ読みたい方はすぐに!巻末の主要書籍一覧も知識や視野を広げる参考になります。気にはなるけど、今は忙しかったり辛いことがあったりして読めない人も、この本の存在を知っただけでもきっかけです。少し時間や心に余裕ができた時にはぜひ手に取ってみてくださいね。

*注:本書では、「朝鮮」「韓半島」という用語を用いますが、これは大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国の総称です。どちらか一方の国家のみを指すものではありません。(書籍より)

*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。


km137426@korea.kr