[文・写真=坪井由美子]
韓国の郷土料理が生まれた場所を訪ね、その土地の文化を感じながら味わう地方の旅シリーズ。釜山編の2回目では、活気ある伝統市場や地元で人気のローカル食堂を巡り、名物グルメやストリートフードを食べ歩きます。
釜山は「市場の街」といわれています。旅先での市場探検を何よりの楽しみとしている私にとって、これほど魅力的な街はありません。チャガルチ駅付近には釜山を代表する三大市場が集まっていると聞き、はりきって出かけました。
◆なんでもありの国際市場
ありとあらゆる物が集まる国際市場。掘り出し物がみつかるかも?
まず向かったのは、釜山の市場として真っ先に名前が挙がる国際市場。韓国戦争後の混乱の中、避難民たちが米軍の物資を売って生計を立てた闇市がルーツの市場で、映画『国際市場で逢いましょう』の舞台としても知られています。
「ここに無いものは無い」といわれる国際市場は、まさに何でもありの市場。入り組んだ路地にお店がぎっしりと並び、まるで巨大な迷路のようです。一応は商品のカテゴリーごとにお店が集まっていて、古着市場、照明通り、化粧品通り、寝具通り、グルメ横丁にかき氷通り等あるようですが、目的地にたどりつくのは簡単ではありません。このごちゃまぜ感が楽しくて、気の向くままに歩いて積極的に迷っていると、だんだん愉快な気分になってきました。
種類が豊富な釜山式おでん。あっさり魚介だしのスープがおいしい
屋台が並ぶ通りでは、地元の方たちに交じっておでんをいただきました。韓国のおでんは、市場や駅中には必ずある屋台の定番おやつ。オムクと呼ばれるすり身の練り物を串に刺したものが基本ですが、釜山式おでんは種類がとても豊富で、魚介のうまみがきいたスープがとてもおいしかったです。
この街では、お店で隣り合った人たちと自然と会話が始まることが多く、心が温まりました。こういう何気ない交流が、一人旅をしているととても嬉しく、韓国地方旅の最大の醍醐味でもあります。
◆ストリートグルメの宝庫、富平カントン市場
トッポキやキンパ、麺類等が楽しめる富平カントン市場の軽食屋
国際市場に隣接するのが、グルメで有名な富平カントン市場。「カントン」とは英語の「Can」のことで、戦後に米軍の缶詰が多く取引されたことから名付けられました。ここは韓国初の常設夜市としても有名で、夕方からはナイトマーケットに変身し、国際色豊かな屋台が並び、若者や観光客で賑わうそうです。私が訪れた昼間は、乾物やお惣菜、トッポッキやキンパといった韓国でおなじみの市場フードが並び、昔ながらののんびりとした雰囲気が漂っていました。
◆宝水洞本屋通り
そこだけ時が止まったような古本屋街。日本語の本もちらほら
賑やかな国際市場のすぐ近く。大通りから一歩入った路地裏に、小さな古本屋街がひっそりとあります。本のある場所に行くといつも幸福度が上がるのですが、そこには私の琴線に触れる雰囲気が充満していて、静かに興奮してしまいました。
古めかしい書店や写真館が軒を並べる一角は、まるでタイムスリップしたかのよう。最近はレトロブームにのって、インスタ映えスポットとしても人気なようです。
レトロな一角は写真スポットとしても人気
店頭に積まれた様々なジャンルの本の中には、日本語の本もあります。終戦を迎え、日本人が引き揚げる際に残していった本を売ったのが始まりと言われるこの本屋街。その後、韓国戦争の際に釜山に押し寄せた避難民が古本の露店を始め、現在のような本屋通りが形成されたそうです。勉強したくてもできず、生きのびるのに必死だった厳しい環境のなか、古本は爆発的な人気を集めました。
どんなに厳しい状況であっても、いや厳しい世の中だからこそ、人には本が必要なのだと思います。昔も今も、これからもきっと。
◆海鮮天国、チャガルチ市場
見ているだけでも楽しくなってくる巨大な魚市場
港町釜山の顔ともいえるチャガルチ市場は韓国最大の魚市場。大きなビルが丸ごと市場になっていて、碁盤の目のような通路にぎっしりと鮮魚店が並ぶ光景は圧巻です。カニやエビ、タコにイカ、まぐろ、鯛、ヒラメ、ウナギ、サザエにアワビ……くらいはなじみがあるものの、名前がわからない珍しい魚介もたくさん。どれも活き活きと新鮮そうで、呼び込みをするアジュンマ(おばさん)たちも元気いっぱい。パワフルな活気に圧倒されながら歩いていると、こちらのテンションもどんどんアップ。この活気を体験すること自体が、極上のエンターテインメントといえそうです。
一階で買った魚介は、2階の食堂で調理してもらいその場で味わうこともできるのですが、今回はひとり旅だったので、次回のお楽しみにとっておくことにしました。
港町の風情たっぷりなチャガルチの場外市場
市場棟だけでなく、露店が並ぶ場外市場も見逃せません。路上に並ぶ色とりどりのパラソルの下で、魚をさばくアジュンマたち。そこはかとなくローカルな雰囲気が漂っていて、初めてなのに懐かしさで胸がいっぱいになりました。
◆釜山ならではの小麦の冷麺、ミルミョン
人気店「ハルメ伽耶ミルミョン」のミルミョンは韓方香るスープが特徴
見ごたえのある三大市場を夢中で歩き回り、気がついたらお腹がペコペコ。釜山で絶対に味わってみたいと思っていた郷土料理、ミルミョンを食べに行くことにしました。
ミルミョンとは、小麦粉の冷麺。ふつうの冷麺はそば粉やじゃがいもから作られますが、朝鮮戦争の際に北から避難してきた人たちが、当時は食糧難だったために、代わりに小麦粉で作ったのが始まりと言われています。
釜山にはミルミョン専門店がいくつもありますが、今回はチャガルチ市場の近くにある1974年創業の老舗店へ。中途半端な時間にもかかわらず、店内は地元の常連客と旅行者で賑わっています。
席に着くと、大きなやかんに入ったスープが登場。ここのミルミョンは、牛骨や韓方食材から作られたスープがおいしく、そのままゴクゴク飲めるほど。お店のアジュンマのアドバイスにしたがい、お酢やからしをよく溶かし、薬味と混ぜていただくとこれまた絶品!小麦粉と澱粉で作られたのど越しのよい麺と半凍りの冷たいスープが絡み合い、すっきりとしながらも滋味深い味わいです。疲れた心身のすみずみにまで、じんわりと優しく染みわたるようでした。
伝統市場に古本屋街、小麦の冷麺……釜山を代表する観光スポットや名物たちが生まれた背景には、辛い時代を乗り越えて、たくましく生きる人々の姿がありました。その歴史を知り、地元の人たちに交じって感じた釜山の風や空気は、少し切なく、すべてを温かく包んでくれるようなおおらかさに満ちていました。そんな貴重な体験ができたことを、とても嬉しく思います。
*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
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