名誉記者団

2026.06.15

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[文・写真=えむらしげみ]

色、結び、祈りでたどる韓国の手仕事
横浜で出会う「韓国 手仕事の美事」展から

横浜ユーラシア文化館で開催された企画展「韓国 手仕事の美事 ― 刺繍、ポジャギ、メドゥプ・・・」は、韓国の伝統工芸を通して、暮らしの中に息づく美意識と祈りの文化を伝える展覧会でした。横浜市と釜山広域市のパートナー都市提携20周年を記念して開かれた本展では、刺繍、ポジャギ、メドゥプなど約300点におよぶ作品が紹介されました。華やかな色彩や繊細な手技に目を引かれながらも、それぞれの作品には、日々の暮らしを整え、家族の幸せを願う思いが丁寧に込められていることが伝わってきます。韓国の手仕事は、単なる工芸ではなく、生活と祈り、美しさがひとつに溶け合った文化なのだと、あらためて気づかされる時間となりました。

第1章 展示について

この建物は1929年竣工の旧横浜市外電話局です。現在は「横浜ユーラシア文化館」と「横浜都市発展記念館」の2つが入る複合文化施設として活用されています

この建物は1929年竣工の旧横浜市外電話局です。現在は「横浜ユーラシア文化館」と「横浜都市発展記念館」の2つが入る複合文化施設として活用されています


この展覧会は、2026年4月25日から7月5日まで横浜ユーラシア文化館で開催されています。会場には、刺繍、ポジャギ、メドゥプなど、韓国の伝統的な手仕事に関わる多彩な品々が並び、韓国の暮らしと美意識を立体的にたどることができる構成となっていました。

展示の中心となったのは、鈴木光男・千香枝夫妻が長年にわたり収集してきたコレクションです。

これらの品々は、豪華な美術工芸品としてだけでなく、生活の中で実際に使われ、受け継がれてきた手仕事としての魅力を今に伝えています。

さらに、大韓民国国家無形文化遺産「刺繍匠」韓尚洙氏の作品や、千香枝氏による再現作品も紹介され、伝統技法の精緻さと、それを継承しようとする現代の営みの両方を見ることができました。

街路樹に囲まれた横浜ユーラシア文化館。横浜の歴史的建造物が並ぶみなとみらいエリアの一角に静かにただずむレンガ建築の中で韓国の手仕事文化に出会うことができる

街路樹に囲まれた横浜ユーラシア文化館。横浜の歴史的建造物が並ぶみなとみらいエリアの一角に静かにただずむレンガ建築の中で韓国の手仕事文化に出会うことができる


横浜と釜山という二つの都市の交流を節目に、このような展覧会が開かれたことにも大きな意義があると思います。文化交流は制度や行事だけでは伝わりきらず、人の手から生まれたものを通してこそより柔らかく深く届くのだと感じられました。

第2章 色に込められた意味 ― 五行と象徴の世界

横浜ユーラシア文化館の入り口。ガラス扉の奥に企画展「韓国 手仕事の美事」のポスターがかすかに見える。一歩足を踏み入れれば、約300点の刺繍、ポシャギ、メドゥプが静かに来訪者を待っていた

横浜ユーラシア文化館の入り口。ガラス扉の奥に企画展「韓国 手仕事の美事」のポスターがかすかに見える。一歩足を踏み入れれば、約300点の刺繍、ポシャギ、メドゥプが静かに来訪者を待っていた


会場でまず目を引かれたのは、韓国の手仕事に見られる豊かな色彩でした。赤、青、黄、白、黒といった鮮やかな色は、単に装飾のためのものではなく、東アジアに広く見られる五行思想とも結びつきながら、それぞれに固有の意味を帯びています。展示資料でも、こうした色には吉祥や守護、繁栄への願いが重ねられてきたことが示されていました。龍や鳥、花などの文様が刺繍や装飾に取り入れられているのも、その象徴性の表れと言えるでしょう。

色や文様は、日用品に美しさを添えるだけでなく、持ち主や家族を守り、幸福を願う小さな祈りのかたちでもありました。実際の展示では、色はただ華やかなのではなく、布の素材や糸の光沢と重なり合いながら、作品に奥行きと静かな気品を与えていました。多色使いでありながらも全体として落ち着いた調和が保たれているところに、韓国手仕事ならではの美意識を感じます。

ひとつひとつの色が、飾りとして並んでいるのではなく願いや象徴をまとってそこに置かれているように見える。そう思って眺めて見ると韓国の手仕事における色とは、見た目の美しさと意味の両方を担う「文化の言葉」なのだと気つかされました。

第3章 結びという祈り ― メドゥプの世界

韓国の伝統工芸の中でも、特に心を引かれたのがメドゥプでした。メドゥプは、絹の紐を結び、房を添えてつくられる韓国伝統の結びの装飾で、その繊細な造形は美しいだけでなく、ひとつひとつの結びに願いが込められているところに大きな魅力があります。長寿、幸福、繁栄、守護といった人々の思いが結び目の形となってあらわれ、衣服や袋物、室内装飾などに添えられてきました。

日本にも水引という結びの文化がありますが、韓国のメドゥプはより立体的で、結びそのものが独自の造形美を持っているように感じられました。展示を見ながら、結ぶという行為そのものが、目に見えない願いをかたちにする営みなのだとあらためて思いました。

中でも、蝶を思わせる結びは強く心に残りました。日本の水引を思い出しながら見ていると、似ているようでいて、韓国の結びには願いそのものを形に編み込んでいくような豊かさがあることに気づかされます。軽やかで優美な形の中に、祈りの重みが静かに宿っているように見えたからです。メドゥプは単なる装飾ではなく、人々の気持ちや願いを結びとめてきた文化でもあるのだと感じられました。

第4章 暮らしに宿る美 ― ポジャギと刺繍の魅力

ポジャギと刺繍は、韓国の手仕事が暮らしの中でどのように息づいてきたのかをよく伝えてくれる存在でした。ポジャギは、物を包み、覆い、守るための布ですが、その役割は実用性だけにとどまりません。色布の組み合わせ、縫い目の美しさ、素材の透け感が重なり合って、静かな品格をたたえています。

限られた布をつなぎ合わせて新しい美を生み出すポジャギからは、ものを大切にする心と、日常の中に美を見いだす感性が伝わってきました。

展示を見ながら、日本でもかつて身近にあった、物を覆い、守るための布の使い方をふと思い出しました。

包むという行為に込められた感覚は、韓国と日本の暮らしの中でどこか響き合っているようにも感じられます。

一方、刺繍には、龍、鳥、花などの吉祥文様が糸で丁寧に表現され、幸福や繁栄、守護への願いが布に縫い込まれていました。

刺繍は装飾であると同時に、祈りを視覚化する手仕事でもあります。細やかな針仕事の積み重ねによって、一枚の布が単なる生活用品を超えた存在になっていくこと自体が印象的でした。

ポジャギが暮らしを包む布だとすれば、刺繍はその暮らしに意味と祝福を添えるものだと言えるでしょう。

実用と美、日常と祈りがひとつの布の上で結び合っているところに、韓国手仕事の深い魅力があります。

横浜ユーラシア文化館の近くに立つ案内標識。中華街、山下公園、赤レンガ倉庫など横浜を代表する文化拠点が徒歩圏内に広がる。4言語の表記の案内が多文化都市・横浜の姿を静かに伝えている

横浜ユーラシア文化館の近くに立つ案内標識。中華街、山下公園、赤レンガ倉庫など横浜を代表する文化拠点が徒歩圏内に広がる。4言語の表記の案内が多文化都市・横浜の姿を静かに伝えている


この展覧会を通して強く感じたのは、韓国の手仕事が「過去のもの」として保存されているのではなく、今へとつながる文化として生きているということでした。朝鮮王朝時代の女性たちが積み重ねてきた針仕事や結びの技法は、近代以降の社会の変化や教育の広がりの中で、家庭内の手芸からより広い意味を持つ手工芸へと展開してきました。

展示で紹介されたコレクションや再現作品、伝統技法の継承の姿は、こうした文化の流れを静かに物語っています。

横浜市と釜山広域市のパートナー都市提携20周年という節目に、このような展示が日本で行われたことは、韓国文化を理解するうえでも象徴的な意味を持ちます。手仕事は、時代や国境を越えて、人の暮らしや願いに触れることのできる文化の入口です。

色、結び、布に込められた思いを見つめることで、韓国の伝統工芸は、現代を生きる私たちにとっても身近で豊かな文化として感じられるはずです。


*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。

innocence@korea.kr