名誉記者団

2026.06.22

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[文・写真=後藤祐希]

最近、韓国旅行のお土産として注目されているものの一つに、韓国ダイソーの「伝統シリーズ」があります。

螺鈿(らでん)をモチーフにしたステッカーや文具など、韓国の伝統美を日常の中で楽しめる商品が登場し、日本人旅行者の間でも話題になっています。

手に取りやすい雑貨として螺鈿の模様を目にする機会が増える一方で、実際の螺鈿漆工芸はどのようなものなのか、どのように作られているのかまでは、なかなか知る機会がありません。

そんな時に知ったのが、東京・新宿にある駐日韓国文化院ギャラリーMIで開催中の「螺鈿匠の図案室」でした。

駐日韓国文化院ギャラリーMIの展示風景。花器や螺鈿家具などが並び、作品を間近で鑑賞できる空間になっていました。

駐日韓国文化院ギャラリーMIの展示風景。花器や螺鈿家具などが並び、作品を間近で鑑賞できる空間になっていました。


本展の開催期間は6月4日(木)から8月8日(土)まで。

韓国の螺鈿漆工芸を牽引した匠たちの仕事を、「図案」という新たな視点から紹介する展示です。

「螺鈿漆工芸」という言葉を見たとき、雑貨やお土産として目にしていた美しい模様の背景には、どのような技術や物語があるのだろうと気になりました。

これまで韓国文化に触れる機会は多くありましたが、漆工芸を間近で見るのは初めてです。

華やかな完成品だけでなく、その裏側にある制作の過程まで知ることができる展示だと知り、開催中に足を運んでみることにしました。

貝の光が宿る、静かで華やかな美しさ

螺鈿漆工芸とは、アワビや貝殻を薄く削って切り取り、器や家具の表面に貼り付け、その上に漆を重ねて仕上げる伝統工芸です。

写真で見るだけでも美しいですが、実物を前にすると印象はまるで違います。

黒や赤の漆の深い艶の中に、貝の光が宿り、見る角度によって青にも緑にも金色にも変わっていきます。

赤と黒の漆に螺鈿が施された器。漆の深い艶と、繊細に輝く螺鈿の対比が印象的でした。

赤と黒の漆に螺鈿が施された器。漆の深い艶と、繊細に輝く螺鈿の対比が印象的でした。


ギャラリーには、ほんのりと漆の香りも漂っており、作品を見るだけでなく、空気ごと韓国の伝統工芸に触れているようでした。

会場には、韓国人の方が写真を撮りながら展示を楽しんでいる姿もありました。

また、日本人の来場者からも「素敵だね」という声が聞こえ、螺鈿漆工芸の美しさは国を越えて伝わるものなのだと感じました。

静かなギャラリーの中で、来場者がそれぞれ作品の前で足を止め、角度によって変わる貝の光を眺めている様子が印象に残っています。

完成される前にある「図案」という世界

会場で展示されていた螺鈿漆工芸の図案資料。完成品の前には、構成を考えるための緻密な図案があることが分かります。

会場で展示されていた螺鈿漆工芸の図案資料。完成品の前には、構成を考えるための緻密な図案があることが分かります。


この展示で特に印象に残ったのは、完成された作品だけでなく、「作品が生まれる前」の世界に光を当てているところです。

図案、制作工程、匠たちの工夫が丁寧に紹介されており、螺鈿漆工芸の美しさが、緻密な計画と長い手仕事によって生まれていることが伝わってきました。

図案に合わせて細かく加工した螺鈿を配置し、器物へと写し取っていく工程を知ると、完成品を見る目が変わります。

図案と小さな漆器が並ぶ展示。図案から実際の作品へとつながる過程を想像しながら鑑賞できる点が、本展の魅力でした。

図案と小さな漆器が並ぶ展示。図案から実際の作品へとつながる過程を想像しながら鑑賞できる点が、本展の魅力でした。


目の前で輝いている貝の一片一片には、匠の計算、集中力、そして積み重ねられた時間が込められているのだと感じました。

ただ「美しい」と眺めるだけでは気づけない、作品の奥にある物語。

それを感じさせてくれるのが、この展示の大きな魅力だと思います。

匠たちの線に宿る、それぞれの美意識


細かな螺鈿が施された八角形の漆器。光を受けると貝の模様が細かく輝き、匠の繊細な技術が伝わってきます。

細かな螺鈿が施された八角形の漆器。光を受けると貝の模様が細かく輝き、匠の繊細な技術が伝わってきます。


展示では、全成圭(チョン・ソンギュ)、金奉龍(キム・ボンリョン)、宋周安(ソン・ジュアン)、沈富吉(シム・ブギル)、閔種泰(ミン・ジョンテ)、金泰熙(キム・テヒ)など、韓国螺鈿漆工芸を支えてきた匠たちの歩みも紹介されています。

力強く生命力あふれる線を生み出した匠、絵画のような奥行きを作品に宿らせた匠など、それぞれの表現に個性がありました。

同じ螺鈿漆工芸であっても、作品や図案を見比べると、線の使い方、余白の取り方が少しずつ違います。

その違いを知ることで、螺鈿漆工芸が決まった様式で成されているのではなく、作り手の感性や時代の変化を映し出す表現でもあることが伝わってきました。

螺鈿漆工芸は、単に貝を貼って装飾する工芸ではありません。

どの線で、どのように光を見せるのか。

その一つ一つに、作り手の思想や美意識が表れているのだと感じました。

茶室で使われる道具にも韓国の螺鈿漆工芸が取り入れられていたことを知りました。

茶室で使われる道具にも韓国の螺鈿漆工芸が取り入れられていたことを知りました。


また、展示の中では、韓国の螺鈿漆工芸が日本の茶道文化とも関わりながら発展してきたことも紹介されていました。

茶室で使われる道具や香合などに韓国の螺鈿ならではの輝きが取り入れられ、工芸を通じて日韓の文化がつながっていたことを知り、とても興味深く感じました。

韓国文化を見る目が変わった時間

黒漆の家具に螺鈿で鳥や花が表現された作品。実用的な家具でありながら、装飾性と芸術性を兼ね備えている点が印象的でした。

黒漆の家具に螺鈿で鳥や花が表現された作品。実用的な家具でありながら、装飾性と芸術性を兼ね備えている点が印象的でした。


これまで韓国を訪れるとき、私は観光地やカフェ、ショッピングを中心に楽しむことが多くありました。

しかし今回の展示を見て、韓国にはまだ私の知らない美しい文化が沢山あるのだと改めて感じました。

完成品の美しさを眺めるだけでも感動しますが、その背後にある図案や制作過程、匠たちの並ならぬ努力を知ったうえで向き合うと、受け取るものがまったく違います。

知識が増えることで、作品の見え方が変わり、文化への理解も深まるのだと実感しました。

これまで何気なく「きれい」と感じていたものの中にも、作り手の技術や歴史、文化の積み重ねがあるのだと思うと、工芸を見る楽しみが広がったように感じます。

次に韓国に行くときは、観光地だけでなく、美術館やギャラリー、工芸に触れられる場所にも足を運んでみたいと思います。

今回の展示は、私にとって韓国文化の新しい一面に出会うきっかけになりました。

手のひらサイズの小さな記念品

展示の帰り際にいただいたK-ARTSのキーホルダーと展示パンフレット。今回の展示を思い出す記念品になりました。

展示の帰り際にいただいたK-ARTSのキーホルダーと展示パンフレット。今回の展示を思い出す記念品になりました。


帰り際には、パンフレットとK-ARTSのキーホルダーをいただきました。

「갓(帽子)」「고려청자(高麗青磁)」と四つ葉のクローバーが付いたデザインで、手のひらに収まる小さなものですが、展示で感じた温かい時間をそのまま持ち帰れたようで、とても嬉しかったです。

「螺鈿匠の図案室」は、韓国の伝統工芸に初めて触れる人にも、工芸や美術に関心のある人にもおすすめしたい展示です。

図案から作品へと至る過程に目を向けることで、螺鈿漆工芸の魅力がぐっと近く感じられます。

そして何より、あの貝の光は、実物でしか味わえません。

静かに輝く螺鈿の美しさを、ぜひ会場で感じてみて欲しいです。

*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。

hjkoh@korea.kr