[ファン・ジュンミン]
東国大学校文化芸術大学院 責任教授(専攻:グローバル音楽産業)
2026年は、韓国の文化産業が一過性のブームにとどまらず、グローバル市場における「持続的な標準」として定着できるかの試金石となる年だ。韓国ドラマやK-POPはすでに世界的な地位を確立し、 グローバルプラットフォームを通じて空前のスピードで波及している。しかし、今まさに問われているのは、過去の成功体験ではない。その成功を恒久的なものとする「持続可能なシステム」が構築されているかという、本質的な問いである。
この10数年、K-コンテンツは急成長のロールモデルを提示してきた。短期間で膨大な海外ファンを獲得し、グローバルチャートや授賞式でも顕著な成果を残した。しかし、こうした「量的な成功」は同時に新たな課題も浮き彫りにした。制作本数や投資規模は増えたものの、収益分配の仕組みはいまだ不安定であり、クリエイターが背負う負担は限界に近い。現在、K-コンテンツが直面している課題は、量的拡大の先にある「質の伴った持続的成長」への転換である。
現在、K-コンテンツは好調と課題が交錯する状況にある。かつて韓国の制作会社はグローバルプラットフォームの下請けにとどまっていたが、今や対等な共同企画者であり、強力な競合相手としての地位確立した。しかし、これは産業の成熟を示す一方で、制作費の高騰や収益性の低下といった構造的な負担を伴っている。特に、グローバルなインターネット動画配信サービス (OTT)を軸とした 流通構造は、安定した資金供給という利点を持つ反面、知的財産(IP)の所有権や収益配分を巡る課題を抱えている。
さらに、2026年を境に本格導入が進む人工知能(AI)は、コンテンツ産業の構造を根本から変えつつある。生成型AIは制作効率を劇的に向上させ、参入のハードルを下げる一方で、創作の独自性や著作権の在り方にも新たな問いを投げかけている。世界市場はもはや、韓国コンテンツの「洗練された完成度」だけでは満足せず、その背後にある倫理観や人間的価値、さらには物語が内包する哲学までも重視するようになった。
K-コンテンツが直面する持続可能性の課題は、IPの在り方にあるグローバルプラットフォームがもたらす巨額資本は、短期的には産業全体を押し上げる原動力となるが、長期的には韓国の創造的資産が海外の収益構造に組み込まれ、依存を深めてしまうリスクをはらんでいる。 作品自体は 残っても、資産としての価値や運営権が手元に残らない状況が繰り返されてきた。 その象徴的な事例が、昨年公開された、 ソニー・ピクチャーズ制作、ネットフリックス配信の『K-POPデーモンハンターズ』である。世界的なメガヒットIPとなった一方で、韓国側にとっては手放しで喜べない、ほろ苦い結果となった。
こうした状況に対する方策としては、IPを中核に据えた産業構造の再設計が求められる。ウェブトゥーンやウェブ小説、ゲームなどの原作IPを基盤に、ドラマや映画、公演、ライセンシングへと展開する多層的な収益モデル(One Source Multi-Use=OSMU)を、韓国内主導で構築する必要がある。また、ファンダムを単なる消費者としてではなく、産業を共に支えるパートナーと位置づける「愛着資本(Attachment Capital)」戦略も欠かせない。ファンとの情緒的な結びつきこそが、 一過性のヒットに終わらず、長期的な市場の安定やブランドへの愛着の形成につながる。
韓国政府も文化産業の戦略的価値を重視している。新年記者会見で、李在明(イ・ジェミョン)大統領は、K-カルチャーを国家ブランドであると同時に将来の成長戦略の中核と位置づけ、文化を経済と外交を結びつける重要な資産として明言した。文化体育観光部の2026年業務計画でも、文化産業を独立した成長エンジンとして育てる方針が示されている。約7兆8000億ウォン規模の予算と、コンテンツ分野への大幅増額は、このようなた政策の意図を象徴している。
K-コンテンツは、外交の場で韓国を「魅力ある国」として印象づける重要なソフトパワーである。しかし、文化の普及には常に両面性がある。一方的な発信は文化的反発を招きかねない。したがって、現地文化との共存を前提とした超現地化(hyper-localization)戦略と、気候危機や人権、多様性などの普遍的価値を反映した包摂的な物語の形成が求められる。
2026年は、K-コンテンツが次の段階にへと飛躍するための絶好の機会だ。この転換期において韓国に求められるのは、三つの条件がそろっていることだ。
第一に、技術と人間のバランスである。AIは創作を支援するツールとして積極的に活用すべきだが、韓国コンテンツが培ってきた感情の深みや、人間中心の視点を置き換えることはできない。
第二に、産業全体のバランスである。大作偏重の構造を乗り越え、中小規模のコンテンツや独立系の創作が共存できる「中核的な産業構造」の整備が不可欠となる。
第三に、グローバルな感受性の強化である。世界の情緒を読み取る力がなければ普遍的な共感は生まれない。同時に、韓国的な個性を損なわないための繊細なバランス感覚も求められる。
K-コンテンツはすでに、世界中の人々が共有するひとつの「文化の言語」となった。残された課題は、その言語の品格と持続性である。コンテンツの深みを質的に高めることができれば、韓国文化の影響力は単なる流行を超え、構造となり、現象を超えて標準として定着するだろう。2026年が、次の段階へ飛躍する元年となることを期待したい。
ファン・ジュンミン教授は、中央日報の記者を経て、JYPエンターテインメントで広報理事を務めた。2022年からは東国大学文化芸術大学院でグローバル音楽産業を教えている。