共同記者発表後、握手を交わす李在明大統領とベトナムのトー・ラム共産党書記長兼国家主席=22日(現地時間)、ハノイ、大韓民国 青瓦台
挑戦にさらされる国際情勢と李在明政権の実用外交
超大国である米国が世界戦略を一方的に転換したことで、国際社会は大きな混乱に見舞われている。これまで米国との協力を対外戦略の中核に据えてきた韓国も、かつてない厳しい環境に直面することとなった。「米国第一主義」により、韓米同盟の信頼は揺らぎ、同盟の性格も変質を余儀なくされている。特に、米国による一方的な高関税措置は、韓国の貿易に深刻なダメージを与えた。
李在明(イ・ジェミョン)政権は、韓米同盟を安定的に維持すべく、米国による同盟見直しの要求に前向きに対応し、高関税問題についても粘り強く妥協点を模索してきた。対日関係においては、指導者間の強固な信頼関係を背景に協力基調を固めている。また、前政権下で停滞していた対中関係も、今年1月の李大統領による訪中を経て全面的に正常化した。これらの外交努力により、ロシアを除く韓半島周辺の主要国との間で、平和と相互繁栄に向けた協力基盤を整えることに成功した。
しかし、イランとの戦争による原油高やサプライチェーンの混乱は、対外依存度の高い韓国経済に深刻なリスクをもたらしている。この状況を乗り越えるため、政府は実用外交の領域を一層拡大した。
李大統領のインド・ベトナム訪問
李大統領は、4月19日にインドを国賓訪問し、モディ首相と共に両国関係をさらなる高みに発展させることで合意した。世界第4位の経済大国であるインドは、14億人を超える世界最多の人口を抱え、人工知能(AI)やソフトウェア分野において世界トップレベルを誇る。年7%という力強い成長を背景に、2050年には、「第3位の経済大国入り」することが予想され、生産やサプライチェーンの多角化において中国に代わる中核拠点として注目されている。インドは、領土問題で中国と対立しつつも、経済面では協力関係を模索している。また、米国と友好的な関係を維持する一方で、ロシアとは準同盟の関係にある。特にインドは、第2次世界大戦以降、一貫して「非同盟」グループを掲げ、現在は「グローバルサウス」の盟主を自任する独特の立ち位置を築いている。そのため、インドとの関係強化は、生産やサプライチェーンなどにおける経済的利益に加え、韓国の国際的な地位の向上やグローバルサウス諸国との緊密なネットワーク構築に向けた重要な戦略の一環となる。
両首脳は、多国間主義を推進することで一致し、2010年に発効した「韓国・インド包括的経済連携協定(CEPA)」の格上げに向けた改定交渉の再開で合意した。また、約250億ドルの両国間の貿易額を2030年までに500億ドルへと拡大するという目標も設定した。
さらに、首脳会談の共同宣言の付属書として「韓国・インドエネルギー・資源安保共同宣言」を発表し、これに基づき「韓国・インド産業協力委員会」を新設した。これを通じて、ナフサなど、石油化学製品の原料を安定的に調達するための供給網を構築するほか、造船・海洋分野にまで協力の範囲を広げることにした。また、インドの「規模の経済」と韓国が強みとする「スピード」を融合させ、現在の自動車や家電中心の協力を金融やAI、国防・防衛産業にまで拡大することで合意した。
続いて、李大統領は、1992年の国交樹立以降、経済同盟に準ずる関係へと発展してきたベトナムを訪問した。昨年8月、李在明政権は、ベトナムの最高指導者で共産党トップのトー・ラム書記長を政権発足後の初の国賓として迎えた。また、トー・ラム書記長も4月の国家主席兼任後、李大統領を初の国賓として招待し、手厚くもてなした。現在、両国は互いに第3位の貿易相手国であり、韓国はベトナムにとって最大の投資国だ。現地には1万社以上の韓国企業が進出している。今回の訪問を契機に開催された「ビジネスフォーラム」では、計73件の覚書と契約を締結した。両国は貿易額を現在の946億ドルから、将来的に1500億ドルまで拡大することで合意した。あわせて開催された輸出商談会では、韓国企業が過去最大となる約8200万ドルの輸出契約を締結するなど、実利面でも大きな成果を上げた。
両国関係は今や、単なる量的拡大を超え、質的成長の段階へと進んでいる。ベトナムは、産油国であると同時に、中国に次ぐ第2位のレアアース埋蔵量を誇り、尿素水の生産量も多い。韓国にとってベトナムは、貿易相手国以上の意味を持つ存在である。エネルギーやサプライチェーンなど、産業のエコシステムを共に構築できる理想的な経済パートナーといえる。2045年までの先進国入りを目指し、年7%の高度成長を続けるベトナムに対し、韓国は高度な技術と資本を提供することで、相互補完的な互恵関係を構築できる。原発や電力インフラ、高速鉄道、新都市開発、水資源管理、AIデータセンターといった大規模なインフラ構築に韓国が参加し、デジタル・科学技術分野を支援することにしたのは、その代表的な例といえる。結果として、李大統領は、インドとベトナムへの訪問を通じて、経済・貿易の不安定やサプライチェーンの混乱を克服するための国際協力基盤を成功裏に構築した。
韓国外交の今後の課題
韓国は、米・日・中の主要3カ国に加え、南アフリカ、ブラジル、インド、ベトナムといったグローバル・サウスの主要国とも相次いで首脳会談を行い、「グローバル責任国家」としての地位向上と実用外交の拡充を進めてきた。一方で、ウクライナ戦争を契機に関係が複雑化した北朝鮮・ロシアとの関係正常化や、戦時作戦統制権の移管が今後の課題として残っている。ロシアによる侵略戦争の継続や、北朝鮮の大量破壊兵器開発により、対話の糸口すら見えない状況が続いている。こうした中、各国との関係正常化は、韓国の国家安全保障や国民生活の安定の観点から、重要な課題となっている。
現状の停滞を打破し、外交の突破口を見いだすには、次の三つの視点が不可欠である。韓国としても、これら諸国との対話再開に過度に配慮する必要はない。第二に、対話が進まない背景には、韓国の対外戦略や軍事指揮における独立性不足が指摘されている。このため、防衛力の強化に注力するとともに、戦時作戦統制権の早期移管を前倒しする必要がある。第三に、ロシアは韓国との関係正常化と経済協力の拡大を積極的に望んでおり、北朝鮮も韓国との経済協力が経済回復と発展に不可欠であると認識しているとされる。こうした状況を踏まえ、韓国は経済・技術・防衛産業・文化などの分野で国力を高め、より主体的に各国へ働きかけていく必要がある。安全保障上の制約に過度にとらわれることなく、各国の現実的な外交上の立ち位置を見極め、創造的かつ前向きな経済協力を追求することが、残された課題の解決につながる。
洪鉉翼(ホン・ヒョンイク)ユネスコ韓国委員会事務総長は、1997年より世宗(セジョン)研究所で、北朝鮮の核問題、南北関係、韓米同盟、韓ロ関係、韓半島の和平体制の構築など、韓国の国家安全保障および国家戦略に関する研究に従事してきた。また、国立外交院長と国政企画委員会の外交安保分科長も歴任した。