オピニオン

2026.06.04

国会議事堂駅付近で行われた、尹錫悦前大統領の弾劾を求めるキャンドル集会=2024年12月6日、ソウル、聯合ニュース

国会議事堂駅付近で行われた、尹錫悦前大統領の弾劾を求めるキャンドル集会=2024年12月6日、ソウル、聯合ニュース


Professor Lee KS


イ・グンセ 国民大学教養大学教授(哲学専攻)

今年2月初め、韓国の国民全体が「Citizen Collective(市民共同体)」としてノーベル平和賞候補に推薦された。憲政上の重大な危機であった 「12・3非常戒厳」を、暴力に訴えることなく、市民の連帯と法的・制度的な手続きによって事態を収拾した韓国国民の姿が、世界的な民主主義の模範事例として評価された。こうした認識のもと、世界の政治学者らは韓国国民をノーベル平和賞候補としてノーベル委員会に推薦した。

しかし、こうした対外的評価とは切り離して、今回の事態は、手続き的民主主義の背後に潜む脆弱性を直視し、韓国政治文化の深層を改めて省察することを求めている。

歴史共同体としての韓国は、日本の植民地支配下の抑圧、韓国戦争、そして軍事独裁による統制を経て、個人を国家に従属させようとする全体主義的な危険に幾度となく直面してきた。2024年12月3日に発生した非常戒厳は、権威主義への後退にとどまらず、韓国の歴史に潜む全体主義の危険性を改めて浮き彫りにした。

自由民主主義の基盤である多元主義とは、異なる意見を持つ権利や対立への寛容、思想や芸術の多様性を通じて、多面的な社会の実現を目指す理念である。また、思考や言論の統制によってもたらされる平穏よりも、対話から生まれる葛藤に公共的な価値を見いだす考え方でもある。

しかし、「12・3事態」の主導者たちは、一見すると非効率にも見えるこうした多元主義に耐えられず、あたかも自らだけが正当性を持つかのように、反対勢力を力で排除しようとした。戒厳司令部の布告令に明記された「国会・政党活動の禁止」や「表現の統制」は、国家を絶対的な権威として位置づけ、多様性を排除しようとする全体主義的イデオロギーの兆候であった。

権威主義への回帰が目前に迫るなか、「K-民主主義」は憲政中断の危機を乗り越え、さらに一歩前進した。

市民の結集に始まり、国会による非常戒厳解除要求決議の可決、大統領弾劾訴追と憲法裁判所の認容決定、早期大統領選挙と政権交代に至る一連の過程は、徹底して制度的手続きに基づいて進められた。その後、主導者らに対する司法判断も行われ、国政は安定を取り戻したとみられる。

この一連の過程は、韓国の国民に民主主義の精神が深く根付いていること、そして韓国の「手続き的民主主義」が強固に機能していることを改めて示した。

しかし今後問われるべきは、制度の問題を超えた「文化としての民主主義」である。

歴史の中に潜んでいた全体主義的な傾向を反面教師としながら、社会全体に多元主義的な民主主義を支える文化的基盤が形成されているのかを見極める必要がある。民主主義は権力の乱用を抑制する制度的装置にとどまらず、共同体の進路をめぐる「真の討論の場」を前提とする。

人間の行為には誰もが共有できる絶対的な確実性など存在せず、常に不確定な余地があり、意見の対立や多様な判断の可能性が開かれている。

民主主義とは、確信と不確実性という相反する要素を共存させなければならない営みでもある。ある信念が唯一の真理ではなく、多様な見解の一つとして受け止められ、多様な考え方が歴史的文脈の中で議論されるとき、社会は活力を得る。国家もまた、開かれた議論の場を認めることで、自らに一定の制約を課しながら民主主義文化を支えることになる。

それは対立を抑え込むのではなく、社会の活力として受け入れる態度である。民主主義は対立を悲観するのではなく、対話を通じて新たな可能性を切り開く営みであり、無限に開かれた地平なのである。

内乱事態の危機を経て発足した「国民主権政府」は、明確な民主主義の理念に基づいている。李在明大統領は、憎悪と対立に基づく政治に終止符を打ち、多様性と批判を活力とし、様々な声が共存する民主主義を実現すると表明した。また、対立から目を背けない対話と公論化を通じて、国家と国民を最優先とする脱イデオロギー・脱陣営の実用政治を推進し、国民統合と成長を実現していく考えを示した。

発足1年目の政府は、実用主義路線を基盤に行政・経済分野で目覚ましい成果を上げた。強力な行政力を発揮して国政の立て直しを進めるとともに、政策が国民生活に浸透するよう力を注いだ。また、AI産業や資本市場の活性化に向けた様々な施策を通じて、KOSPIの上昇を支える環境整備に取り組んだ。

しかし行政が「決められたことを実行する営み」であるのに対し、政治とは「まだ存在しない道を切り開く営み」である。短期的な成果に終わらせないためには、制度の整備だけでなく、民主主義文化そのものの深化が不可欠となる。

民主主義を支える文化的基盤が伴わなければ、いかに制度が整っていても、権力の不透明性の前では再び脆弱になり得る。歴史的にも、権威主義の信奉者たちはこうした権力の不透明性の隙を突き、民主主義を損なってきた。

「K-民主主義」は、民主主義文化を育む力強い対話を目指さなければならない。最近の韓中首脳会談で李在明大統領が提案した「ソウル―平壌(ピョンヤン)―北京高速鉄道構想」などの協力構想は、固定化した対立構造の中で対話の糸口を探る試みとして意義深い。過去の権威主義体制が内部の危機を隠すために外部の敵をつくり出してきた悪弊を克服するためには、最も立場の異なる相手であっても対話の場へ包摂できる文化的な力が求められる。国民がこうした権力の自己省察的な対話の過程を目の当たりにするとき、民主主義は文化として社会全体に浸透していく。

政府が実効性のある対話を続けるとき、多元主義的な民主主義の環境が形成される。政府自らが開かれた討論の場を認め、それを維持することが、国家権力の濫用や恣意性を抑制する根本的な予防策である。反対勢力との実効的な対話を通じて民主主義の文化的基盤を築くことこそが、韓国で再び内乱のような悲劇的事態が起こるのを未然に防ぎ、世界から称賛される「K-民主主義」を強化する道である。

イ・グンセ教授は、ベルギーのルーヴェン大学で哲学の博士号を取得し、ブリュッセル通訳翻訳大学で教鞭を執った。現在は国民大学教養大学教授を務め、東西文化哲学、西洋近代哲学、フランス哲学を担当している。また、国民大学教養教育設計研究所長およびモンクラール韓国戦争研究センター長を兼任している。