「自分を他の人の基準に合わせて評価しないこと」。映画よりも劇的な人生を送るオペラ歌手のポール・ポッツ(Paul Potts)さん(43)の言葉だ。ポッツさんは、自身の物語を題材にした映画「ワンチャンス(One Chance)」の韓国公開を前に先日来韓した。
苦難を乗り越えた彼の物語は、世界の人々を感動させ、希望を与えた。太った体格とぱっとしない性格で携帯電話の販売員をしていた彼は、2007年に英国のスターオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント(Britain’s Got Talent)」で見事グランプリに輝き、視聴者を感動させた。彼が同番組でプッチーニのオペラ「トゥーランドット」のアリア「ネッスン・ドルマ(Nessun Dorma:誰も寝てはならぬ)」を歌った動画は、ユーチューブで再生回数が1億6千万回に上り、瞬く間にスターになった。2007年に発売された彼のデビューアルバム「One Chance」は、世界で500万枚以上をセールスする大ヒットとなり、彼はこれまで500回に上るワンマンコンサートのステージに立った。
映画「ワンチャンス」の試写会に出席したポッツさん(写真:イム・ジェオン記者)
ポッツさんは4日に開かれた記者会見で、「成功とは、世界的なスターになることではなく、自分の目指す分野で自分の好きなことをすることだ。この映画が伝えるメッセージは、夢を叶えるために、愛する人のためにあきらめないこと」と強調した。
普段から歌うことが好きだというポッツさんは、ぱっとしなかった幼少時代、「歌は一種の逃げ道」だったと話す。また、韓国だけでなく、世界を股にかけるとは夢にも思わなかったとして、オーディション番組で優勝して一番変わったことは、自分の好きなことができるようになったことだという。
ポッツさんは本日午後6時30分に永登浦タイムスクエア広場のステージで、自身がオーディション番組で歌った「ネッスン・ドルマ」を歌う予定だ。
4日に開かれた記者会見で、映画「ワンチャンス」に関する取材陣の質問に、彼は次のように答えた。
‐「ワンチャンス」で主人公を演じたジェームズ・コーデン(James Corden)さんの演技についての感想は。
コーデンさんはとてもうまく演じていた。コメディとドラマを同時に演じるのは大変なことだが、2つのジャンルの特性を十分に生かしていた。コーデンさんのほうが私よりもハンサムだ。特に、青い目が魅力的だ。
- 自叙伝を出版したが、この映画のシナリオも書いたのか。
自叙伝と映画の脚本は全く違う作業だった。映画の脚本の一部に参加してはいるが、書いたのは基本的に脚本家だ。脚本が完成した後、2~3カ月ほど脚色に参加した。大きな挑戦ではあったが、楽しかった。自叙伝と脚本は違うが、テーマは同じだ。目標を達成すること。そして愛する人のためにあきらめないことだ。
- この映画のテーマは、自信を取り戻すことだと思うが、どうやって自信を取り戻したか。
幼い頃は一人で歌を歌った。歌は逃げ道だっただけで、人前で歌う自信はなかった。でも、人前で歌おうと思ったとき、自信が必要になった。大衆の前で歌うと、批判されることもあるからだ。私にとっては大きな挑戦だった。
「ブリテンズ・ゴット・タレント」への出演を決めたのも、コインを投げたら表が出たからだ。グランプリなんて全く期待していなかった。7年経った今、私は映画をPRするステージに立って歌を歌っている。14歳のときに誰かが、10年後の私はこうなっているという話をしたら、私はばかげていると信じなかっただろう。
自身の物語を描いた映画「ワンチャンス」の公開を前に来韓したポッツさん(写真:イム・ジェオン記者)
- 映画では新たなことに挑戦するたびに不幸なことが起こっているが、実際は。
トロント映画祭でも同じようなことを聞かれたが、実際はもっとひどかった。何度も倒れ、壁や障害にぶち当たった。私は不器用だが、それが映画でよく表現されている。韓国に来てからも、日本料理を食べていたとき、醤油をシャツにこぼしてしまった。幸い、ホテルできれいに染みがとれたので、その後のスケージュールに支障はなかった。
幼い頃の私は、私にも何かができるという自信がなかった。でも、成長する中で自分自身を過小評価しているのではないかと思うようになった。それで、悟ったのは自分自身を制約してきたこと、そしてそのような壁など必要ないということだ。時には、足の向くまま人生を託すことも必要だ。
- 映画ではルチアーノ・パヴァロッティ(Luciano Pavarotti)にひどく批判されているシーンがあるが、実際は。
映画とは違い、パヴァロッティとの出会いは良かった。映画でドラマチックに描かれていることは理解する。彼は私の歌声が良いとも言ってくれた。でも、それだけだった。パヴァロッティに出会った後は声楽を続けることができず、職場に復帰した。自信がなかったし、適切な時期ではないと思ったからだ。自信を取り戻したのは、「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出演したときからだと思う。
- これから韓国の「オーディション・スター」たちに会うと思うが、彼らに伝えたいことは。
「楽しんでやること」「一日一日ベストを尽くすこと」「当たり前だと思わないこと」とアドバイスしたい。多くの人は、世界的なスターになることが成功だと思っている。自分が目指す分野で仕事をすること、自分が好きな仕事をすることが成功だ。それ以上の成功はない。私は幼い頃からの夢だったことをしているのでとても幸せだ。
- まだ「ブリテンズ・ゴット・タレント」のようなチャンスに巡り会えていない人に伝えたいことは。
一番大事なのは希望を失わないことだ。あきらめないで努力し続ければ、いつかは夢を叶えることができる。他の人の基準で自分を評価してはいけない。挑戦し続けることが大事だ。
映画「ワンチャンス」のワンシーン(写真提供:NEW)
- 幼いときからオペラが好きだったそうだが、そのきっかけは。また、オペラ歌手としてロールモデルにしている人は。
幼いときに映画「E.T.」を見てジョン・ウィリアムズ(John Williams)の映画音楽を聴くようになり、やがて他のクラシック音楽を聴くようになった。ドボルザークやチャイコフスキー、ブラームスなどの音楽を聴いてオペラに関心を持つようになった。
ホセ・カレラス(Jose Carreras)の「ラ・ボエム」を聴いてオペラ歌手になりたいと思うようになった。彼が白血病で抗がん治療を受けながらステージに立っていることに感動した。がんを乗り越えてドイツで開いた白血病撲滅に向けたチャリティ公演に2回も参加できたことを光栄に思う。
- 今回が11回目の来韓だ。韓国でそれほど支持される理由とは。
なぜ韓国人が私をこれほど支持してくれるのかよくわからないが、とても光栄に思う。こうした機会を与えてくれたことに感謝している。私も韓国が好きだ。欧州の友人たちは、韓国の美しさについてあまり知らない。韓国人はとても親切だ。多くの人に韓国の魅力を伝えたい。韓国に来ると、まるで「故郷」に帰ってきたような親しみを感じる。
映画「ワンチャンス」のポスター(写真提供:NEW)
コリアネット イム・ジェオン(林在彦)記者
jun2@korea.kr