ひと

2026.06.12

サトピークに到着する前、標高5850メートルの地点で撮影した写真。(左から)アン・チヨン隊長、イ・ウィジュン、イ・サングク隊員=5月2日(現地時間)、ネパール、アン・チヨン隊長

サトピークに到着する前、標高5850メートルの地点で撮影した写真。(左から)アン・チヨン隊長、イ・ウィジュン、イ・サングク隊員=5月2日(現地時間)、ネパール、アン・チヨン隊長


[平沢=イ・ジヘ]

地球上には、いまだ人類の足跡を拒み続ける未知の山が存在する。その一つが、ネパール・ヒマラヤのカンチェンジュンガ地域にそびえ立つ「サトピーク(SAT Peak、標高6220メートル)」である。標高だけを見れば、世界最高峰のエベレスト(約8849メートル)より低いものの、これまで誰一人として登頂に成功していない。垂直に切り立つ氷壁、ナイフのように鋭い雪稜、そして岩壁と氷河が複雑に入り組んだ過酷な地形が、行く手を阻んでいるためだ。2022年には、登山界で実力のあるイタリア遠征隊ですら、標高6100メートル地点で無念の撤退を余儀なくされている。

この難攻不落の「高い壁」を、韓国の遠征隊がついに打ち破った。アン・チヨン隊長が率いる大韓山岳連盟の遠征隊が、先月2日(現地時間)に世界で初めてサトピークの頂上に立った。4月28日にベースキャンプを出発してからわずか4日で成し遂げた快挙だった。

特筆すべきは、今回の登頂が「アルパインスタイル」で成し遂げられた点だ。あらかじめルート上に固定ロープを張らず、酸素ボンベの支援も受けず、現地のシェルパ(登山案内人)の手も借りない。最小限の装備と自らの肉体だけで迅速に登るスタイルでの世界初登頂は、世界から注目を浴びた。

コリアネットは先月29日、京畿(キョンギ)道・平沢(ピョンテク)市でアン・チヨン隊長を取材し、生と死の境界線をさまよった緊迫した当時の状況を聞いた。

コリアネットとのインタビューを終え、ポーズを取るアン・チヨン隊長=5月29日、京畿道、イ・ジヘ

コリアネットとのインタビューを終え、ポーズを取るアン・チヨン隊長=5月29日、京畿道、イ・ジヘ


ー「一歩間違えれば、ここで死ぬかもしれない」と感じた瞬間はあったのか。

標高6000メートルの雪壁を登っていた時だった。アイスアックスを打ち込んだ瞬間、凄まじい爆音とともに、すぐ横の斜面全体が崩れ落ちた。雪崩が発生したのだ。当時、私たち3人の隊員は1本の細いロープで互いの身体をつなぎ、岩に打ち込んだアンカー(支点)だけを頼りに絶壁にしがみついていた。

幸いにも雪崩の中心から外れた境界付近にいたため、流されることはなかった。傾斜70度の壁面で足に体重をかけ、かろうじて体勢を立て直したが、すぐ下には隊員2人が同じロープにぶら下がっている緊迫した状況だった。1本のロープに身を委ね、吹雪が収まるのを待つ間、「本当に死ぬかもしれない」と直感的に感じていた。

ー最も恐怖を感じた瞬間は。

一日の登山を終え、それぞれテントで休んでいた時のこと。漆黒の静寂を破るかのように、突然、巨大な氷河が崩落する音が響き渡った。言葉では表現できないほどの圧倒的な破壊音だった。暗闇のなか、無防備な状態でごう音を聞く恐怖は、実際に経験した者にしかわからないだろう。大自然の前で、人間がいかに無力な存在であるかを、骨の髄まで思い知らされた瞬間だった。

標高6100メートルの地点で雪稜を登るアン・チヨン隊長=5月2日(現地時間)、ネパール、アン・チヨン隊長

標高6100メートルの地点で雪稜を登るアン・チヨン隊長=5月2日(現地時間)、ネパール、アン・チヨン隊長


ー標高6000メートルで人間の身体はどう反応するのか。

標高の高い所では、低体温症や凍傷、雪眼(紫外線による角膜炎)との過酷な戦いを強いられる。体温を維持するため、一日中お湯を飲み続ける必要がある。濡れた靴下や手袋もこまめに交換しなければならない。少しでも気を緩めれば、すぐ凍傷につながってしまうからだ。

その中でも、特に警戒すべきが雪眼である。目の痛みや視界のかすみを引き起こすため、登山中に発症すると、非常に危険だ。標高が高くなるほど、大気は薄くなり、降り注ぐ紫外線が強くなる。その上、高山の雪は、紫外線の80~90%で照り返してくる。これは、街中の、アスファルトの反射率(10~20%)を遥かに上回る数値だ。そのため、高山用あるいは氷河専用のサングラスを常に着用しなければならない。紛失を防ぐため、帽子の紐にサングラスをしっかり固定していた。

ー荷物の重量との戦いだったと思うが、食事はどうしていたのか。

食事は、主にフリーズドライした米とスープだった。水分を完全に取り除いたものなので、とても軽い。お湯を注ぐだけで食べられるが、荷物の重量を減らすためにおかずの類いは一切持参しなかった。一番の生命線である水は、周囲の雪を集め、ガスバーナーで溶かして飲んだ。雪を溶かすと、細かな土や岩石の粉が浮いてくるが、ある程度沈殿させた後、上澄みだけを飲んでいた。

ー危険を冒してまで山に挑むのはなぜか。

山が好きだからだ。登頂した時の喜びと、無事に下山した時の達成感は、何ものにも代え難い。どれほど周到に準備を重ねても、山では自然の力に圧倒され、人間は無力な存在になる。しかし、その無力感や極限の環境こそが自分をさらに追い込み、気持ちを奮い立たせてくれる。その刺激がまた、私を山へと向かわせるのだ。

アン・チヨン隊長がサトピークの山頂付近(標高6220メートル)から撮影した山の様子=5月2日、ネパール、アン・チヨン隊長

アン・チヨン隊長がサトピークの山頂付近(標高6220メートル)から撮影した山の様子=5月2日、ネパール、アン・チヨン隊長


jihlee08@korea.kr