ひと

2014.02.04

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ニュージーランド人のロジャー・シェパード(Roger Shepherd)さんは北韓の白頭山(ペクトゥサン)から南韓の智異山(チリサン)までを繋ぐ韓半島の脊梁山脈を縦走した人物。「韓半島の背骨」ともいわれる白頭大幹(ペクトゥデガン)を歩いたシェパードさんは自らの経験を2冊の本にまとめた。2010年には登山家向けの英語版ガイドブック『白頭大幹トレイル(Baekdu Daegan Trail)』を、2013年には白頭大幹を縦走しながら撮影した写真を集めた写真集『コリア白頭大幹:南と北の山々(Baekdu Daegan Korea: Mountains of North and South Korea)』を発刊した。

そんなシェパードさんに会って、彼の山に対する愛情と彼の著作について話を聴いてみた。

- コリアネットの読者に白頭大幹を紹介してほしい。

白頭大幹は韓半島の根幹を成すものといえる。中国北東部に位置する満州との国境地帯にある韓半島最高の山、白頭山(2,744m)から始まり南方向へと約1,700kmも続き智異山(1、915m)の天王峰(チョノァンボン)まで繋がる山脈主稜線を意味する。途絶えることなく延々と続く白頭大幹の稜線は韓半島の主な河川の噴水嶺となる。

そのうち2つの河川が白頭山から始まる。それが鴨緑江(アムノッカン)と豆満江(トゥマンガン)だ。鴨緑江は南から南西方向に、豆満江は北から北東方向に流れている。白頭山を流れるこの川筋は韓国と中国の境界を成しており、韓国とアジア大陸と欧州、遠くはアフリカまでを繋ぐ橋の役割をしている。

韓国人は昔から白頭大幹のことを「韓国の気の源」と考えた。まるで巨大な神経組織のように繋がっている山々が、自然の精気が流れる背骨の役割をすると思ったのだ。その気の流れを妨げるのは、韓国人の気運を遮断する行為だと考えている。

 シェパードさんはカメラを首にかけて忠清北道・俗離山の頂上、天王峰に立った。天王峰は他の山にも存在する名称だ(写真:ロジャー・シェパード) )

シェパードさんはカメラを首にかけて忠清北道・俗離山の頂上、天王峰に立った。天王峰は他の山にも存在する名称だ(写真:ロジャー・シェパード)



- 白頭大幹を自然のまま保存する最善の方法は何だろうか。最近になって都心に造成されているような公園と、あるがままの自然を保っている白頭大幹。どうすればその現代と伝統のバランスをとりながら保存することができるだろうか。

韓国は領土の35%に5千万の人口が集まっており、残りはすべて山岳地帯となっている。こんなに多くの山を保存して管理するのは容易なことではない。そのため、自然を毀損しないのはもちろん、周辺の自然と共存する方法を上手く見つけなければならない。それが私たちに与えられた課題だ。

私は、韓国が人間と自然がバランスよく共存する持続可能な環境を作り、それを活かして自然の保全における世界各国の「手本」になることもできると考えている。白頭大幹を韓国の伝統と現代を象徴する登山コース、または自然保全地域として保存することもできる。ただ、「韓国の生態系の源」という名声を維持するには国家レベルの努力が欠かせない。

- 白頭大幹を縦走して最も記憶に残る美しい場所は。

忠清北道(チュンチョンブクト)の俗離山(ソンニサン、1,057m)から東へと続く江原道(カンウォンド)の太白山(テベクサン、1,567m)までの区間が一番美しい。また、智異山から北へ続く全羅北道(チョンラブクト)の徳裕山(トギュサン)に向かう途中に出会った登山客らや地元住民と交わした会話も記憶に残る。

標高1,708メートルの雪岳山・大青峰から眺めた日の出(写真: ロジャー・シェパード)

標高1,708メートルの雪岳山・大青峰から眺めた日の出(写真: ロジャー・シェパード)



- 最も険しく、大変な登山コースは。

最も大変だったのは智異山の最高峰、標高1,300mの天王峰に登ったときの初日だ。白頭大幹のコースは非常に大変で険しい。平らな道がほとんどない険しいコースだ。韓国の山はその多くが2千メートルを越えないが、傾斜は急だ。韓国で初めて登山を経験する外国人はその急な傾きに大変驚くくらいだ。ただ、険しくても山を登るとその苦しさは一瞬で消えてしまう。白頭大幹に沿って歩いていると韓半島全体の美しい風景に巡り合える。周りには多くの山稜が果てしなく波を打っている。巨大な稜線を歩くと、自分の足元で世界が回っているのを見ることができるのだが、そのときの気分は実に素晴らしい。

- 写真集『コリア白頭大幹:南と北の山々』について紹介してほしい。

5年に渡り白頭大幹を縦走しながら撮影した写真を集めて編集した写真集だ。この本を出すことを決めたとき、韓半島南側の山だけだと意味がないと思った。運良く北韓の山に登るチャンスに恵まれ、2011年と2012年の間に3カ月ほど北韓に滞在しながら24余りの山に登った。個人的にはこの本は「遺産」だと思う。いつか白頭大幹の全体像を初めて記録した資料として認められるであろう記録遺産なのだ。

 シェパードさんの写真集『コリア白頭大幹:南と北の山々』は2013年末、韓国で出版された。本作は韓半島の山筋を縦走しながら撮影した写真を収録している。(写真: ロジャー・シェパード)

シェパードさんの写真集『コリア白頭大幹:南と北の山々』は2013年末、韓国で出版された。本作は韓半島の山筋を縦走しながら撮影した写真を収録している。(写真: ロジャー・シェパード)



- 韓国で初めて登山に挑戦する人々が週末に登るのに良い、お勧めのコースはあるか。

ガイドブック『白頭大幹トレイル』を参考にすれば良いだろう。まず、その本に紹介された白頭大幹の各コースを勉強すればかなり役に立つはずだ。季節を問わずいつでも楽しめる。どこに住んでいるかによってスタート地点も変わる。2人以上の同行がいるとさらに良く、車がある人は登山が終了する地点に車を止めておいて山に登ればより楽しく負担も少ない。週末に活動する登山同好会に加入するのも良いだろう。登山は実に素晴らしい経験で、話題もたくさんできる。

 2012年6月、北韓の白頭山(2,750m)を上る途中のシェパードさん(写真: ロジャー・シェパード)

2012年6月、北韓の白頭山(2,750m)を上る途中のシェパードさん(写真: ロジャー・シェパード)



2012年6月、シェパードさんが撮影した百頭山の天池(写真: ロジャー・シェパード)

2012年6月、シェパードさんが撮影した百頭山の天池(写真: ロジャー・シェパード)



- 北韓当局の協力を得た過程を聞かせてほしい。

マスコミに報道される北韓のイメージはあまり良くないが、私が会った北韓の人々は非常に親切で「韓国らしい」感じだった。親切で、謙虚で、上品で、非常に礼儀正しい。一度した約束は絶対破らない人たちだった。それに自分が立てた目標を達成するために一所懸命働き、実際にそれを実現してみせる。このような傾向は北韓だけでなく南韓の人々からも感じ取れる。

- 南北韓の文化に共通する特徴は何だろうか。

外国人の目で韓国を見るときにはっきり理解しておかなければならないのは、韓半島の分断は韓国人のイデオロギーを2つに分裂させたということだ。つまり、南韓と北韓は異なるイデオロギーをもつ2つの国だ。韓国や韓国人を理解する一番の方法は彼らの過去に注目することだと思う。言い換えると、「ひとつの国」だった過去を理解することにある。それは北韓も南韓も否定できない韓国の歴史であり、南北韓両方が認める歴史だ。

南北同士で会話をする機会があれば、「ひとつの国」だった時代の話をしてみるのも良いと思う。そこから共通して 持っている「韓国らしい」特徴を導き出すことができるからだ。分断から60年という年月は、最後の氷河期以来同じ言語と伝統を継承してきた国家からすればそれほど長くない。南北が「本当の意味での」韓国人としての姿を取り戻せるようにサポートするのが、外国人として我々に与えられた仕事だと考えている。資本主義であれ社会主義であれ、南北が現在持っている「韓国らしくない」イデオロギーは「本当の意味での」韓国人の姿ではないと思う。

- 南韓と北韓の違いはどこにあると考えるか。

違いに気付くのはいつの時にも興味深いことだ。この質問で気になるのは「全体的に実際の韓国人はどうなのか」について聞いているのか、「南韓人なのか北韓人なのか」だ。それとも「南北が『ひとつ』だったとき、当時の歴史・芸術・文化の中での韓国人を意味しているのか」。シャーマニズムや三国時代、韓国戦争を全く知らない、地下鉄でスマホをいじっている南韓の生徒がスマホのない北韓の生徒たちより「韓国らしい」といえるだろうか。

一個人を判断する基準はその人が所有する物ではなく、使っている言語や文化の影響を受けた内面の特徴だ。西洋諸国と積極的に政治的同盟を結ぶ南韓に比べれば、北韓は異文化を受け入れるのを躊躇っていること以外は南韓との特別な違いを感じなかった。

- 今後の計画は。

いくつか面白い計画を考えている。その1つが南北韓関連事業だ。南韓から北韓、または北韓から南韓を連携する多様な観光ツアービジネスに挑戦したい。まずは江原道の雪岳山(ソラクサン、1,708m)を出発して北韓の金剛山(クムガンサン、1,638m)まで自転車で移動するツアーだ。また、白頭山とその周辺地域の自然や野生動物をテーマにしたドキュメンタリーを制作することに北韓側と合意している。制作と編集は南韓側が支援し、撮影は外国人の専門家を含め北韓のスタッフが担当する。南韓の放送局MBCと連携して放送通信委員会から制作費の支援を受けるために取り組んでいる。南北韓の皆が楽しめ、誇りに思える素晴らしいプロジェクトになりそうだ。

韓国に対する関心は自然に高まった。とくに白頭大幹縦走により「ひとつの韓国」を自分の目で確認した。今は分断という混乱を強いられているが、この苦しみはいつか平和に、そして自然な形で終わることになると確信している。外国の政府や外国人も、政治的に自分に有利な方向に今の南北の状況を利用しようとするよりは、韓国がひとつの国になれるように共に努力していかなければならない。

 北韓の咸鏡南道・白岩郡のトゥリュン山(標高2,309m) (写真:ロジャー・シェパード)

北韓の咸鏡南道・白岩郡のトゥリュン山(標高2,309m) (写真:ロジャー・シェパード)



コリアネット グレゴリー・イーヴス記者
翻訳:コリアネット ソン・ジエ記者、イム・ユジン
gceaves@korea.kr