ひと

2014.09.19

声楽家で構成された6人組男性コーラスグループがトロットアルバムをリリースし、人気を集めている。このアルバムに収録されている「ヌンコッピンス(雪の花のカキ氷)」と「三拍子」は、重厚で明るい歌声にトロットのメロディが加味されており、聞いているだけで元気で楽しい気持ちになる。

30代から40代後半の海外留学経験者の声楽家らで構成されたフェリーチェ・シンガーズは、一家の大黒柱である中年男性の哀歓を歌った「三拍子」とラブスソング「ヌンコッピンス」を親しみやすいメロディと軽快なリズムで解釈した。特に、三拍子は、「財布の中は空っぽなのに、なぜこんなに重いの/この峠さえ越えれば、今の暮らしは終わるかと思っていた/気が狂いそうだ。毎日同じことの繰り返し/どうして俺には何度も試練がやって来るの」といった胸を打つ歌詞が中年男性の心を魅了している。

フェリーチェ・シンガーズのメンバーは、韓国有数の音楽大学を卒業し、イタリアやドイツ、オランダなどに留学して声楽を学び、現地のオペラ舞台で活動した音楽家らだ。リーダーのパク・チュンソクさん(テノール)が昨年12月に後輩のクァク・サンフンさん(バリトーン)、キム・セファンさん(バス)、カン・デジュンさん、ペク・クァンホさん、オ・ギョングンさん(テノール)に声をかけ、コーラスグループを結成した。「フェリーチェ(Felice)」とは、イタリア語で「幸福」の意で、自分たちの歌で観客を幸福にしたいという思いでこのグループ名にしたという。

성악가들로 이루어진 6인조 남성중창단 펠리체싱어즈는 관객들에게 좀 더 가까이 다가가기 위해 트로트를 부르기 시작했다고 말했다.

声楽家で構成された6人組男性コーラスグループ「フェリーチェ・シンガーズ」は、より馴染みのある音楽を観客に届けたいという思いからトロットを歌い始めたという



リーダーのパクさんはこう話す。「より馴染みのある音楽を観客に届けたいという思いからトロットを歌い始めた。当初はミュージカルの曲を歌っていたが、ある日歌謡とトロットを歌ったら観客にウケた」「クラシックだけ歌っていたのでは公演の機会が与えられないので、観客の裾野を広げるためにトロットを歌い始めた。希望のメッセージを伝えていきたい」

コリアネットは先日、トロットアルバムをリリースしたフェリーチェ・シンガーズのメンバーに話を聞いた。

- フェリーチェ・シンガーズが結成された経緯は。

- パク・チュンソク:オペラの声楽家らが集まり、良い音楽を届けようという趣旨でコーラスグループを結成した。当初は歌曲やミュージカルの曲を歌っていたが、より馴染みのある音楽を観客に届けようということでトロットを歌うことにした。歌謡をトロットのメロディに載せて歌った。クラシック音楽をする人がこうした提案を受け入れるのは容易なことではないが、みな同意してくれた。

ペク・クァンホ:自分たちならではの音楽をしたかった。歌曲やクラシックの曲は、どれも数十年以上になる曲ばかりだが、自分たちだけの曲を作って歌いたいと思った。でも、歌曲では聴く人に馴染んでもらえないので、大衆的な音楽をしようと決心した。それで、自分たちの年齢にも合い、感性を伝えやすいトロットを選んだ。その意見がまとまったのは2~3月で、7月にアルバムがリリースされた。

- 声楽家がトロットに挑戦しようと思ったわけは。

- パク・チュンソク:大衆に馴染みのある音楽をするためだ。クラシックは少数の人しか聴かない音楽で、あまり大衆的ではない。私たちの年代はバラードよりもトロットを歌ったほうが良いと思った。観客に喜んでほしかった。

キム・セファン:クラシックと同様に歌曲は大衆化されていない。以前は「人情あふれる歌曲」という歌曲の番組があったが、今はほとんどなくなった。歌曲の演奏会をしても、来る人はたいてい一般の人ではなくて歌曲やクラシックの愛好家ばかりだ。歌曲も大衆的な歌手が歌えば歌謡になる。区別はない。誰が歌うかによって決まるのだ。

펠리체싱어즈의 강대준(왼쪽), 박준석

フェリチェ・シンガーズのカン・デジュンさん(左)とパク・チュンソクさん(右)



- 切羽詰った思いでトロットに挑戦したそうだが。

パク・チュンソク:メンバー全員が一家の大黒柱なので、大衆に喜んでもらい、継続的に公演できるようにしなければならなかった。観客に喜んでもらえる音楽とは何か悩んだ。クラシックだけ歌っていても、なかなか公演の機会を与えてもらえない。数多くの声楽家が輩出されているのに、劇場の数は少なく、舞台に立つ機会はそれほど多くない。機会が与えられるのは若手ばかりだ。だから、30~40代を過ぎ、50代になれば立てる舞台はほとんどない。私たちの年代は決断すべきときを迎えている。特定の機関に所属していなければ、声楽家として生計を立てていくことは難しい。

ペク・クァンホ:クラシックの公演だけで生計を立てていくのは容易なことではない。幸いなことに、私の場合は帰国後、他の仕事をせずに公演とレッスンだけで何とか暮らすことができた。でも、留学を経験した声楽家の中には保険業をしながら声楽を続けている人もいる。韓国ではクラシックの舞台があまりにも少ない。

- 声楽とトロットは全く違うジャンルだが、難しかったことは。

- 大変だと思ったことはない。トロットの唱法で歌うわけではない。曲がトロット風なだけで、クラシックなトロットだ。ソロで歌うならトロットの唱法で歌う必要があるが、コーラスグループなので声楽の発声法で自分たちが歌いやすいように歌っている。元気の出る曲ばかりなので、ロックンロールのように歌っている。男性声楽家6人が歌うので、エネルギーが感じられ、軽快な曲で元気が出ると観客も喜んでいる。トロット歌手が歌えばトロットのように感じられる曲も、別のジャンルの歌手が歌えば雰囲気ががらっと変わる。

펠리체싱어즈는 트로트는 노래할수록 신이 나고 경쾌하다며 성악발성법으로 편안하게 부른다고 밝혔다.

フェリーチェ・シンガーズは、歌えば歌うほど心が軽くなり元気が出るトロットを、声楽の発声法で自分たちが歌いやすいように歌っているという



- トロットに対する偏見を払拭するのは大変なことだったと思う。いかに克服したか。

- クァク・サンフン:「意外だ」「なぜそんなことまで」という反応があった。アルバムを出して初めて出演したテレビ番組で評判が良かった。先週、恩師に会ったとき、「オペラ歌手が何でよりによってトロットなんだ」といわれ、とても残念がっていた。バラードならまだしも、トロットは受け入れがたかったようだ。クラシックを歌う者として自分自身も残念だった。

キム・セファン:私たちが学んできた音楽は高級音楽なのに、なぜ低級の音楽をするのかという偏見がある。ドイツにはトロットに似た民俗音楽の番組があり、ベテランの声楽家が司会を務めている。

クァク・サンフン:学校教育の産物ではないだろうか。ある意味で私たちは、最初の道を切り開く先駆者だ。初めてだから不安もあるし、励ましてくれる人もいれば、心配の目で見ている人もいる。。新しいスタートだからもちろん不安はある。

ペク・クァンホ:成功するかどうかはともかく、クラシックを並行できるかが心配だ。全てを計算し尽くした上で始めたわけではない。もし成功したら、こうしたユニットが相次いで登場してくるはずだ。自分たちはその突破口になりたい。

백광호(왼쪽), 오경근

ペク・クァンホさん(左)、オ・ギョングン(右)



- トロットの魅力とは。

- パク・チュンソク:多くの人に馴染みがあり、歌えば元気になることだ。親しみやすくて率直で、歌詞が韓国語なので意味が伝わりやすい。クラシックは歌詞の内容を間接的に表現することが多いが、トロットの歌詞はストレートだ。

ペク・クァンホ:トロットのほうが観客にウケが良い。ある日突然、多くの人が私たちの曲を聴いてくれるようになったらアーティストとしては成功だと思う。いくら歌っても大衆に喜んでもらえなければ何の意味もない。西洋でもルネサンスの時代に世俗音楽が登場した。

클래식도 이전에는 대중음악이었다며 트로트는 이 시대의 대중음악이라고 말했다.

フェリーチェ・シンガーズのメンバーは、クラシックもかつては大衆音楽だったように、トロットもこの時代の大衆音楽だという



- 韓国社会では、トロットは大衆音楽、クラシックは高級音楽という認識がある。どう思うか。

- クァク・サンフン:時代的な背景によるものだ。クラシックもかつては大衆音楽だった。でも、クラシックは数百年前の音楽なので、現代にはマッチしない。私たちはこの時代の大衆音楽を選んだだけだ。

トロットも高級音楽の一つだ。特に、ベテラン歌手は音楽の巨匠という雰囲気を漂わせている。キル・オギュンさんの追悼コンサートではイ・ミジャさん、ペティ・キムさんが歌った。年配の方々が素晴らしい歌を披露した。涙が出そうになった。音楽はジャンルを超えて多くの人に力を与えてくれる。音楽に高級だとか下品だとかそんなものは存在しない。

- これからもクロスオーバーを続けるつもりか。

- パク・チュンソク:それこそ私たちが目指しているものだ。トロット、歌謡、または親しみやすい歌曲かもしれない。完全にトロット歌手として活動していくわけではない。音楽家としての生命を維持しつつ、領域を広げていきたい。実際に、大学歌謡祭で受賞した曲を歌ってほしいといわれている。大衆に支持された曲を歌ってほしいというのだ。これからも歌謡曲をたくさん歌っていくと思う。

クァク・サンフン:既存の歌謡曲を歌うのではなく、もっと新しい音楽、クラシックな歌謡曲を歌っていきたい。もっとレパートリーを広げていくと思う。音楽を新しく解釈するのだ。

곽상훈(왼쪽), 김세환

クァク・サンフンさん(左)、キム・セファンさん(右)



- トロットを通じてファンとどのように接していきたいか。また、ファンに伝えたいメッセージは。

パク・チュンソク:希望のメッセージを伝えていきたい。人生を生きていくことは楽なことではないが、歌を通して喜びと癒しを与えたい。また、この年齢で新しいことに挑戦することで多くの人に刺激を与えたい。

ペク・クァンホ:お父さんたちに力を与えたい。私たちと同じ年代の父親たちは、辛いことばかりで、なかなか笑顔になれないが、「三拍子」の歌詞にあるように、元気のない人たちに力を与えたい。

- どんな音楽家を目指しているか。

オ・ギョングン:「フェリチェ・シンガーズの歌を聞けば、幸せを感じる」といわれるようになりたい。歌でその時代の人々を幸せにできるなら、これ以上の喜びはない。

ペク・クァンホ:幼少のとき、エルビス・プレスリーの墓に白髪の老父が孫の手を引いて花を手向けるのをテレビで見たことがある。若い頃、ファンだったのだろう。そんなふうに、多くの人に記憶され、多くの人の思い出に残る音楽家になりたい。

コリアネット イム・ジェオン記者
写真:イム・ジェオン記者、シンナン・エンターテインメント
jun2@korea.kr