ひと

2014.09.30

「どうやってお金を儲けようかではなく、どうやって社会に貢献しようかと悩みました。それは、韓国食の基本となるものを作り、完成度を高めることでした。私たちが60年以上積み重ねてきた発酵技術を利用し、良い製品を作ることです。良いものを食べてもらい、喜びと幸せを感じてもらえるよう、食文化の向上を目指して取り組んでいこうと思っています」

韓国の発酵文化を代表する企業「セムピョ食品」のパク・チンソン社長は、「韓国の味で世界の人々を喜ばせる」という食の哲学を強調した。パク社長の経歴はとてもユニークだ。ソウル大学工学部電子工学科を卒業し、米スタンフォード大学大学院工学科で修士号を取得した工学修士でありながら、米アイオワ大学で哲学の博士号を取得し、哲学教授として教壇に立ち、経営分野に足を踏み入れたのは30代後半になってからだ。

한국의 발효문화를 대표하는 샘표식품의 박진선 사장.

韓国の発酵文化を代表する企業「セムピョ食品」のパク社長


韓国の調味料市場の50%以上を占める専門発酵会社を率いるパク社長は、カンジャン(醤油)といった調味料から最新の発酵調味料「ヨンドゥ」まで、韓国の調味料のグローバル化を目指して奔走している。パク社長に調味料の歴史と未来、そして食文化企業の役割について話を聞いた。

現在のセムピョ食品に成長するまでの68年間は、韓国の産業化と同じ軌跡を辿ってきました。圧縮された成長とともに大きな変化も遂げました。1997年の社長就任当時は、事業多角化など考えられない社会的雰囲気だったと思います。企業の領域拡張とグローバル化を図ることのできた背景とは。

確かに厳しい時期もあったし、失敗もしました。1990年代まで韓国には大手流通会社が一つもなく、セムピョ食品も営業事業が全くありませんでした。各地域に代理店が約100店舗あり、午前はスーパーから注文が入れば商品を配送し、午後は集金に回るという感じでした。専門のマーケティングや営業は考えられない時期でした。

1997年にセムピョ食品の社長に就任するまでの約16年間、米国で暮らしていました。家族は家業であるセムピョ食品を継いで経営することを望んでいましたが、個人的には醤油売りよりもっと見栄えの良い職業に就きたいと思っていました。でも、韓国に帰国してみたら、社会は急変しているにもかかわらず、セムピョ食品は相変わらず単なる食品メーカーでした。このままではセムピョ食品は絶対に生き残れない思い、また幼少のときから私をとてもかわいがってくれた祖父への愛情が胸の奥深くにあり、長男である私が経営しなければいけないという責任感が芽生えました。事業を任された当初は、近代的で力のあるしっかりとした会社を築かなければという焦りが先走っていました。倉洞の老朽化した工場をたたみ、新しい設備を整え、現在の忠武路駅の事務所に移りました。顧客と直に交流する業務特性上、市内の中心で時代の流れと多様性を把握する必要があると判断しました。それには地下鉄3・4号線が通る忠武路駅がうってつけでした。

샘표식품은 온전히 콩으로 빚어낸 간장을 주력상품으로 내세우며 한국 장의 세계화를 이끌고 있다.

セムピョ食品は100%大豆で醸造されたカンジャンを主力商品に掲げ、韓国の調味料のグローバル化を主導している


多くの人は家庭で手作りされた調味料でなければ固有の風味が出ないと思い込んでいます。企業の機械化と大量生産によって製造された食品が、いかにその固有の風味を維持・調和できると思いますか。

多くの人は、人為的な方式は全て排除すべきだと思い込んでいます。でも、科学技術の発展は、むしろ様々なメリットをもたらしました。セムピョ食品の最大の強みは、科学技法を駆使することで食品の品質を一定に維持することができるということです。科学技法を活用しなければ、調味料を醸造するたびに味が変わってしまいます。例えば、うまくいったときになぜうまくいったのかわからず、うまくいかなかったときに次はどうすべきかわからなくなります。セムピョ食品では、微生物の特性や活動環境、条件などを実験し、研究・分析して最適な条件を整えます。従って、常に一定の品質を維持することができると同時に、大量生産によって低価格を実現することができます。

調味料事業の拡張モデルを語るうえで、日本のキッコーマンは欠かせないと思います。セムピョ食品のカンジャンとキッコーマン醤油の違いとは。

カンジャンと醤油は基本的に使用される原材料も違うし、味自体も違うので、風味が違うのは当然です。大豆を材料にしているという共通点はありますが、日本の醤油は小麦と大豆が5対5の割合で製造されるのに対し、韓国のカンジャンは100%大豆でできています。

これまでは大豆を完全に粉砕することだけに没頭してきましたが、最近は様々な実験と研究を重ね、「なぜおいしいか」を追求した結果、大豆が完全に粉砕されていない「ペプタイド」状態のときがはるかにおいしいということがわかりました。実際に、小麦に大量に含まれているアミノ酸は20数種類なのに対し、ペプタイドは数万種類に上るため、味に不思議な高級感があります。だから、欧州市場で新しい味を創出できる可能性があると思います。当社が開発した、大豆を発酵させた料理エッセンス「ヨンドゥ」は、アジアを越え、MSGに代わって世界中で使用される調味料になると確信しています。

140928_Sempio_fermentation_3.jpg


샘표식품의 박진선 사장이 간장의 매력에 대해 소개하며 웃음짓고 있다.

セムピョ食品のパク社長が、カンジャンの魅力について笑顔で語っている


カンジャンを主力商品として掲げる食文化企業の代表として、カンジャンの強みと魅力とは。

カンジャンはほとんどの韓国料理に使用されます。言い換えれば、料理の「おいしさの素」を決める食材で、韓国の食文化に大きな影響を与える食品です。その一方で、独特で強い香りがある上、色が暗いため、うまくマッチしない料理もあります。そうした不十分な点を補足するために取り組んでおり、その一つが料理エッセンス「ヨンドゥ」です。

2013年にスペイン料理科学研究所「アリシア研究所」と提携を結び、「ヨンドゥ」を活用したレシピの開発など領域を拡張しています。かなり冒険的な試みですが、その背景は。

ずっと以前から海外市場進出の重要性を感じていました。20年近く海外で暮らしていたので海外進出に対する不安や抵抗感はありませんでした。でも、カンジャンの需要がない海外市場を開拓するというのは決して楽なことではありません。新しい商品を開発してロシアやサウジアラビアなどの市場でニッチ市場を探し始め、2010年に開発された「ヨンドゥ」の爆発的なヒットで希望が見えてきました。「ヨンドゥ」でスペイン・バルセロナのアリシア料理科学研究所と提携を結び、西洋料理への取り入れを試みると、1~2週間で好評の声が多く聞かれるようになりました。現在、韓国の調味料を利用した西洋料理のレシピ150種が開発されました。スペイン料理50種、フランス料理50種、イタリア料理50種で構成されています。料理研究家らは、「ヨンドゥ」が塩に代わる食材として十分だと評価しています。実際に、「ヨンドゥ」は塩やコショウに比べカロリーが低く、塩度も20~30%低いです。

140928_Sempio_fermentation_5.jpg

샘표식품은 한국 장의 세계화를 위해 바베큐 소스(위)와 발효조미료 연두(아래)를 개발했다.

セムピョ食品は韓国の調味料のグローバル化に向け、バーベキューソース(上)と発酵調味料「ヨンドゥ」(下)を発売した


発酵によって作られる調味料を西洋のソース文化に取り入れるのは容易なことではなかったと思います。なぜ受け入れられたと思いますか。

韓国でも最近の若者たちがあまり食べなくなったテンジャンが、欧州では好評です。韓国料理でもテンジャンを活用した料理はチゲやナムルの和え物などに限られています。でも、スペインの研究所と協力して研究した結果、予想していなかった多様なメニューが多数開発されました。「韓国の発酵食品」を掲げて新しい食文化を創造できるかもしれないという期待が持てます。

韓国の伝統酒に対する関心も高いと聞いています。マッコリとはまた違う「穀酒」はいつ頃味わえますか。

早く開発したいのはやまやまですが、今はまだ準備段階です。韓国は、日本による植民統治期から朝鮮戦争、産業化までの約100年間、酒の開発がほとんど進みませんでした。その間に多くの伝統が失われてしまいました。もし、その100年がなく、継続的な成長がなされていれば、どうなっていたかを想像します。学習と研究を重ね、真の味を開発したいです。単にアルコールを楽しむだけではなく、食品とよく調和し、食品のありがたさを実感できる酒を開発したいです。そのためには、しっかりした知識はもとより、想像力が必要です。様々な実験と研究を重ねようとすれば、近い将来の開発は難しいと思います。

創業以来、労使間の紛争のない企業として知られてきました。「従業員は家族であり、大切なのは人間」という創業者の遺志を68年間守り続けるというのは容易ではなかったと思います。背景にある経営哲学とは。

先代の創業者である祖父と父の影響を強く受けました。当時は社会全体が権威主義的で、階級に強くこだわる雰囲気でしたが、二人はそうではありませんでした。祖父は1970年代半ば、カンジャンの瓶を洗浄する日雇いの女性たちが自動洗浄機の導入によって解雇されるかもしれない状況で、機械が入る前日に全員を正社員に転換しました。従業員を大切な家族だと思うからこそできたと思います。常に透明経営のために取り組んでいますが、労使関係においても、対立よりも親密な関係を追い求めています。

このところ韓国食のグローバル化が話題になります。どうすれば発展すると思いますか。

これまで約18年間、食品会社に従事してきましたが、数年前から「味」の概念に関する研究を始めました。韓国料理はいったい何が西洋料理と違うのかと「真のおいしさ」とは何かを把握し、不十分な点を補足して製品の完成度を高める必要があると思います。

記事:コリアネット ウィ・テックァン記者、イ・スンア記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者
whan23@korea.kr