[茨城=登久美子(日本)]
[写真=tvN]
動画配信サービスNetflixが6月20日(土)から異色のドラマを配信開始しました。タイトルは『サイコだけど大丈夫(사이코지만 괜찮아)』。このドラマの何が異色なのかというと、主な登場人物は心に一物を持った過去のある人だらけ、というところ。
ストーリーは、家族の愛に飢えた孤独な人気絵本作家コ・ムニョン(ソ・イェジ)が自閉症スペクトラム症のムン・サンテ(オ・ジョンセ)とサンテの弟で精神科病棟の保護士として勤務するムン・ガンテ(キム・スヒョン)と出会い、お互いのトラウマを乗り越えていく、という全16話です。
このドラマのジャンルは「ヒーリング・ロマンチック・コメディー」。全話には、この3つの要素が豊富に盛り込まれています。見どころはCGアニメーションの映像美、豪華な俳優陣、衣装の華やかさ、名台詞、などたくさんありますが、私は、登場人物たちがそれぞれのトラウマを乗り越えていくヒーリング(癒やし)の部分に注目しました。
放送開始前から期待値は、かなり高いものでした。ムン・ガンテ役のキム・スヒョンさんは、除隊後初めてのドラマ主演、しかも5年ぶり。2013年に一大ブームを巻き起こした『星から来たあなた』、2015年の『プロデューサー』以来です。また、ムン・サンテ役のオ・ジョンセさんは、2019年に放送されたドラマ『椿の花咲く頃』での演技が評価され、今年6月に行われた第56回百想芸術大賞でテレビ部門助演賞を受賞しています。
キム・スヒョンさんやソ・イェジさんの名演も素晴らしい。ドラマでは登場人物がそれぞれ抱える心の傷やフラッシュバック、そして過去のトラウマなどを徐々に乗り越えていく姿が描かれていますが、一人で抱え込む葛藤や激しくぶつかり合うケンカ、または感情を爆発させて慟哭するなど様々なシーンがあります。
ガンテは幼少期の母親との関係性、兄のサンテは蝶に対する恐怖心、そしてムニョンは母親からの解放を常に心のどこかにトラウマとして抱えています。激しい喜怒哀楽だけでなく、徐々に気持ちが変化していく様を俳優自身の一挙手一投足で表現していたのは見事ですし、特に「自閉症を抱えながら絵の才能を活かして自立を目指すムン・サンテ」は、本当に素晴らしい演技だと思いました。
ここまで書くと『サイコだけど大丈夫』ってシリアス?と思う方もいるかもしれません。でもご安心下さい。例えば第2話。母親のことを言われてイラつくムニョンにガンテが後ろから深呼吸をするように促します。そうするとムニョンはすぐに「私の好みじゃない」と振り返り、「トラウマは正面から見つめないと」と低い声で言います。
トラウマには向き合うよりも、忘れようとするメッセージが出てくるのかと思いきや、正面から見つめる、対峙しようとするメッセージが出てきたのは驚きました。台詞にも心理学的で前向きなメッセージがたくさんありますが、出てくる度に自分のことのように思えて驚かされます。
また、全話それぞれのタイトルは「眠れる森の魔女」「王様の耳はロバの耳」「みにくいアヒルの子」など童話を彷彿とさせるようなタイトルで、なおかつ話の中ではムニョンが描く絵本の世界も紹介されます。その絵本の内容は、少し残酷な表現もありますが、親子の愛情や生き方について、静かに流れていくけれど読み終わった後に深く考えさせられる内容。絵本は美しいCGアニメーションとともに流れていき、ドラマの伏線のように楽しめます。
今まで日韓両国でもトラウマを軸に据えたラブコメディーというのは少なかったように思います。それだけ扱うことが難しいテーマであったのかもしれません。『サイコだけど大丈夫』が高視聴率であった背景には、タブー視されることもあったトラウマとラブコメディーがバランス良く盛り込まれ、またその中で誰もが持っているようなネガティブな感情を台詞によって少し整理してくれて、なおかつコメディーシーンによって笑い飛ばしてくれた、ということが大きかったのではないでしょうか。
ムニョンがガンテのことをよく「安全栓」と比喩します。どんなに孤独だと思っていても、どんなに愛されていないと疎外感を感じても、実は近くにいる人が自分のことを思ってくれている安全栓だった、ということはあるのではないでしょうか。『サイコだけど大丈夫』はまさに身近な人たち、そして自分自身を大事にしようと再確認できる「ヒーリング・ロマンチック・コメディー」です。
*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
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