韓国は食の天国です。田、畑、山、海で採れる豊富な食材により様々な料理が生まれました。テンジャン(味噌)、カンジャン(醤油)、コチュジャン(唐辛子味噌)といった基本のジャン類が味の中心であり、四季がはっきりした韓国の特徴から食材を長く保管することに重点が置かれ、蒸す・焼く・揚げるなど様々な調理方法が発達しました。近現代の激変の歴史の中で熾烈な環境を生きてきた人々を温かく慰めてくれたのも、韓食の食事でした。韓国の挨拶言葉にとりわけ食事に関する言葉が多いことからも、韓国人にとって食事の持つ意味がどれほど大きいものかがうかがえます。そのような意味で、食道楽の旅は地域の文化まで味わえる人文学紀行といえるでしょう。
広蔵市場
韓国の食文化を存分に経験するには、伝統市場を訪れるべきです。温かい雰囲気の中で、韓国人の好む韓国料理が味わえます。
ソウル市鐘路にある広蔵市場は、100年以上の歴史を持つ韓国初の常設市場であるだけに、歴史的にも大きな意味を持っています。指一本ほどの大きさで、からしソースにつけて食べるキンパプ(のり巻き)は、その強力な魅力に引きつけられる人が後を絶ちません。その他にも牛肉のユッケやピンデトク(緑豆チヂミ)なども有名です。
伝統市場の情が溢れる広蔵市場では、新たな変化も起こっています。2021年10月、広蔵市場にオープンした食料品グロサリーストアの「365日市場」は、広蔵市場を若い感覚でリードしています。売り場にはワインやクラフトビール、チーズ、バターをはじめ、広蔵市場をモチーフにしたグッズまで販売しており、客の目を引きます。特に、クラフトブルワリーとコラボした広蔵市場ならではの感覚を盛り込んだクラフトビール「広蔵市場1905」は、「365日市場」でしか購入できないため、希少価値があります。
広蔵市場
韓国初の常設市場である広蔵市場は、キンパプやピンデトクなど、庶民料理の天国です。
通仁市場
ソウル市鐘路に位置する通仁(トンイン)市場では様々な料理が味わえると同時に、他ではできない珍しい経験ができます。この市場が特別な理由は、「葉銭(ヨプチョン)弁当」があるからです。
葉銭とは、朝鮮時代に通用した真鍮で作ったコインの形の貨幣で、現在の韓国では使用されていませんが、通仁市場の中では貨幣として使うことができます。お客さんが葉銭を買うと、お弁当容器が提供され、ここに市場で買った料理を入れてもらいます。お弁当容器を手に市場の隅々を回りながら、食べたい料理と葉銭を交換するという異色体験を楽しめます。
市場で味わえる料理は素朴ですが、様々な種類があります。韓国人の主食であるご飯とスープをはじめ、トッポッキ(餅の甘辛炒め)、トッカルビ(粗挽きカルビ焼き)、おにぎり、卵焼きなどの韓国人が日常的に好んで食べるメニューです。
全州味紀行
全州(チョンジュ)は韓国人もグルメ観光にわざわざ出向く都市です。全州は西海と南海で採れる新鮮な海の幸と、肥沃な大地で収穫される作物のおかげで、古くから食の文化が発展してきました。
全州で欠かせない料理としては、全州ビビンバがあります。全州の豆もやしと一緒に炊いたご飯に、卵、銀杏、松の実、クルミなどと一緒に新鮮な野菜を入れて混ぜて食べる料理です。
全州の韓定食は、湯(タン)とチゲ(鍋料理)、ナムル(野菜や山菜の和え物)類とチョッカル(塩辛)など、約30種類のおかずが一斉に食卓に並ぶメニューで、韓国の温かい人情を経験できます。三川洞(サムチョンドン)、西新洞(ソシンドン)、慶園洞(キョンウォンドン)などに位置するマッコリコルモク(マッコリ通り)では、全州のマッコリを思う存分味わえます。マッコリのやかんを1つ頼むと、約20種類のおつまみが一緒に提供されます。
その他に、全州ならではの独特な食文化として「カメク」が挙げられます。お店(カゲ)で販売するビール(メクチュ)という意味の「カメク」は、町の小さなお店やスーパーでビールを買い、そこで提供されるおつまみ(主にさきイカや干しスケトウダラ、お菓子)を、全州にしかない独特なソースをつけて食べるものです。カメクの大衆的な人気に後押しされ、2015年からは毎年全州で「カメク祭り」が開催されています。
全州(チョンジュ)マッコリ
全州マッコリ通りは、全州の味と韓国人の情を同時に感じられる、盛りだくさんの膳組みで有名です。
海の幸天国、束草
海に面している江原道束草(ソクチョ)は、東海岸の豊富な海の幸が集まる場所です。あらゆる種類の魚とイカ、エビといった様々な海の幸を堪能できます。
大浦港(テポハン)のセウティギムコルモク(エビの天ぷら通り)は、束草観光の必須コースといえます。新鮮なエビをその場で揚げてもらえるので、さくさくとした食感と味が絶品です。その他にも束草観光水産市場、ケッペ船着き場、大浦港、東明港(トンミョンハン)の近くではオジンオフェ(イカの刺身)、オジンオスンデ(イカの詰め物)、ムルコムタン(ウツボのスープ)、ベニズワイガニ、焼き魚などが味わえます。
海の幸ではありませんが、タッカンジョンも束草の代表的なグルメです。タッカンジョンは、一口サイズの鶏肉を揚げて、ソースを絡めた料理です。ソースは辛口か甘口を選べます。
釜山グルメツアー
釜山は公共交通が便利で、至る所で色々なグルメが楽しめる食道楽に最適な都市です。「オイソ(来てください)、ボイソ(見てください)、サイソ(買ってください)」というキャッチフレーズで有名なチャガルチ市場は、韓国最大の水産物市場です。刺身、カニ、ロブスター、エビ、貝類、焼き魚など、各種海産物がずらりと並んでいます。クジラ肉とヌタウナギを練炭の火で焼いて食べるコムジャンオグイは、他ではなかなか味わえない珍味です。
BIFF(釜山国際映画祭)通りと南浦洞(ナンポドン)グルメ通り、国際市場はストリートフードの天国です。甘いホットクにナッツ類をたっぷり入れた「シアッ(種)ホットク」、串に刺した魚のすり身を出汁に浸して食べる「オムクコチ(おでん串)」、春雨と野菜を辛いソースに絡めた「ビビンタンミョン(混ぜ春雨)」は外せません。
済州島の郷土料理
韓国人に最も愛される旅行先の一つである済州島は、陸地と遠く離れていることから島特有の郷土料理が発達しました。多様な材料を使用したり様々なソースを加えて調理するというよりは、材料本来の味をそのまま生かす素朴な料理がほとんどです。
弾力のある肉質の黒豚を炭火で焼いて食べる「フッテジグイ(黒豚の焼肉)」、豚の骨を煮込んでスープを取り海藻の一種であるホンダワラとそば粉を入れてとろみをつけたスープの「モムクク」、かつて済州島の人々の主食だったもちあわで作った「オメギ餅」と「オメギ酒」などが代表的な郷土料理です。
島の中の島、牛島(ウド)の海風で育った「牛島ピーナッツ」は薄皮ごと食べても美味しく、「牛島ピーナッツアイスクリーム」や「牛島ピーナッツマッコリ」として味わっても別格です。
宝城の茶畑
宝城(ポソン)は約4,000の茶園がある韓国最大のお茶の生産地で、お茶を好む人や韓国の伝統茶文化に興味のある人は訪れてみる価値があります。ほとんどの茶園では緑茶の試飲、茶葉摘み、緑茶づくり、茶道の作法など、お茶に関する体験プログラムが行われています。
体験をしなくても、茶園内のティーカフェでお茶を楽しみながら美しい茶園の風景を鑑賞するだけでも、十分満足のいく旅になるでしょう。
宝城の茶畑
宝城の茶畑では緑茶の試飲と共に、韓国のお茶文化を経験できます。
高速道路サービスエリアのグルメ
韓国の高速道路サービスエリアは、旅の途中で少し休憩する以上の楽しみを提供する多目的空間として人気があります。サービスエリアは場所ごとにその地域固有の文化を反映し、まるで新たな観光地を訪れているような気分が味わえます。
伝統工芸で有名な安東(アンドン)の安東サービスエリアには工芸品を展示している安東文化体験館があり、陶磁器で有名な驪州(ヨジュ)の驪州サービスエリアには旅行客が陶磁器づくりを体験できる陶磁器体験館があります。サービスエリアに欠かせないグルメも単に空腹を満たすためではなく、サービスエリアがある地域の代表的な食文化を体験できるように多様なメニューが開発されており、観光客はその地域固有の料理を気軽に楽しめます。
江陵(カンヌン)コーヒー通り
江陵の安木海辺(アンモクヘビョン)近くには約30店舗のコーヒー専門店が集まっており、この通りを「江陵コーヒー通り」、または「安木コーヒー通り」と呼んでいます。2000年以降、韓国のコーヒー文化をリードした第1世代のバリスタたちが江陵に定住したことで、江陵はコーヒーのメッカとなりました。ほとんどのコーヒーショップが豆を直接ローストするロースタリーカフェで、フランチャイズのコーヒーショップとは差別化された多様なコーヒーの味と香りを提供しています。こうしたことが口コミで広がり、江陵は名実ともにコーヒーの街として位置づけられました。
江陵にはコーヒー通りだけでなく、コーヒー博物館、コーヒーファクトリー、バリスタアカデミーなど、コーヒーに関する様々な施設が充実しています。
江陵コーヒー通り
江陵の安木海辺には、それぞれ個性を持つ数多くのカフェが軒を連ねています。