戸塚悦朗
弁護士
特別報告者は、汚染水の放出について「太平洋地域の何百万もの命や暮らしに影響を与えかねない」とし、「日本の国境の内外で、関係する人たちが人権を完全に享受することに相当のリスクを及ぼす」と批判している。
また、汚染水処理技術の多核種除去設備ALPS(アルプス)は、福島第一原発のタンクに保管されている汚染水から放射性物質を完全に除去できていないとした上で、放出の前に再度処理しても「成功する保証はない」とした。日本政府に対しては、危険物質にさらされることを防ぎ、放出が及ぼしうるリスクの環境影響評価を行い、国境を越えた環境被害を防いで海洋環境を保護することなどを求めた。
これは、汚染水の海洋放出の問題が、国連憲章、世界人権宣言以下の国際人権条約などヒューマンライツを保障する国際法に関わるという指摘である。
「核のない世界のためのマンハッタンプロジェクト」ほか多数の団体が連名で「世界環境デー(6 月 5 日)と世界海洋デー(6 月 8 日)に寄せて」(6月5日付)と題する書面を日本政府宛てに提出した。
団体は、同文書で「福島第一で保管されている汚染水は、一般の原発からの排水とは根本的に異なる」とし、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約及びロンドン議定書は、濃度に関係なく放射性物質の海洋投棄を禁じています」と述べた。また、「福島第1原発の汚染水の海洋投棄は、条約違反である」と指摘し、福島第一原発からの放射性汚染水を太平洋に投棄する計画を取り下げること」などを求めた。
日本は、国際法を誠実に守り、放射性物質で海洋を汚染しないようにすべきである。それは、人間として当然のことだ。
しかし、問題はそこでは止まらないのではないか?福島第1原発は、2051年までに「廃炉」するという政府の方針は決まっていても、その具体的な方法は全く確立していない。メルトダウンした核物質のデブリは、そのまま残っていて、手つかずのままなのだ。壊れた原子炉を日々水で冷却する必要があるので、延々と放射性物質で汚染された水が溜まってしまう。
この汚染水の海への放出の問題は、その廃炉までの長く非常に困難なプロセスの一部の問題にすぎない。第2の福島原発事故が起こらないように、原発への依存をやめることが重要である。
人類は、地球環境を破壊する化石燃料や危険な原子力に依存しなくても、太陽光、水力、風力、地熱、水素などなど多様かつ安全なエネルギー源の活用によって不自由なく暮らすことが十分可能な時代になってきた。我々は、原発への依存をやめ、脱原発政策を推進するためにどのような方法があるか、新エネルギー政策への大転換に真剣に取り組む必要がある。そのためには、どのような手順で多数の原発の廃炉を実現して行くのか?日本でも、中国でも、韓国でも、そのような方向での論議と研究が進むことを期待したい。