
薬食は、栗やナツメ、松の実、蜂蜜など健康的な食材をふんだんに使った小正月に食べる餅菓子で、最近では正月や祝いの席などでも食べられるようになった。多くの食材を使う上、二度蒸しするので、時間と手間がかかる
1500年の歴史を持つ餅菓子「ヤクシク(薬食)。この餅菓子には動物にまつわるエピソードがある。王の命を救ったカラスに恩返しとして作られたというのだ。『三国遺事』(高麗の僧侶イリョン(一然、1206-1289)が新羅・高句麗・百済の3国の説話や野史などを編纂した史書)によると、新羅第21代王のソジ(炤知)王(479-500)が小正月(旧暦)に東屋で行楽していたところ、近くにカラスとネズミがおり、ネズミがカラスのあとについて行くようにと言ったという。不思議に思った王は、家来にカラスのあとについて行くよう命ずる。家来がカラスのあとについて行くと、池があり、その中から老人が出て来て「この封筒を開ければ2人死に、開けなければ1人死ぬ」と書かれた封筒を渡した。
王は2人とも死んでしまうよりも1人でも生き残ったほうが良いと思い、封筒を開けないつもりだったが、家来の一人が「封筒に書かれた1人とは王様のこと」と言ったため、王は封筒を開け中を見た。封筒の中には「今すぐ宮廷に戻り、内殿にある琴ケースを弓で射るべし」と書かれた紙が入っていた。王は宮殿に戻り、琴ケースを弓で射ると、王を暗殺しようと琴ケースの後に隠れていた僧侶と後宮に矢が当たり、二人は死ぬ。王は、自分の命を救ってくれたカラスに感謝し、毎年小正月をカラスを供養する日と定め、カラスの好きなナツメと栗で薬食を作って供えたという。
これが今に伝わる薬食の伝説だ。薬食は、蒸したもち米にナツメや栗、松の実などを入れて油、蜂蜜、醤油で和える。、体に良いものがたくさん入った「薬になる食べ物」として「薬食」と名づけられた。また、韓国では蜂蜜を「ヤク(薬)」ともいうことから、「蜂蜜が入った食べ物」という意味もある。「ヤクバプ」「ヤクバン(薬飯)」とも呼ばれる。
朝鮮時代の様々な文献にも薬食に関する記述がある。特に、『屠門大嚼』(1611年にホ・ギュン(許筠)が韓国八道の特産品と美味しいものを紹介した本)には、「中国人は薬飯が好きで、“高麗飯”という似たようなものを作って食べている」という記述がある。また、『洌陽歳時記』(1819年(純祖19年)にキム・メスン(金邁淳)がハニャン(漢陽、現在のソウル)の年中行事を記録した本)には、「正月十五日に中国に遣わされた朝鮮の使者が薬食を振舞うと、燕京の貴人たちが大喜びした」と記されている。
<作り方>

薬食の食材であるもち米、栗、ナツメ、松の実、塩
** 材料及び分量
もち米270g(1½カップ)、もち米を蒸す水1.6ℓ(8カップ)
塩水:水45g(大さじ3)、塩2g(小さじ½)
栗45g(3個)、ナツメ20g(5個)、松の実3.5g(小さじ1)
ナツメの種を茹でた後に濾す水:ナツメの種5個、水200g(1カップ)
調味料:醤油15g(小さじ2½)、薬食ソース32g(大さじ2)、黄ざらめ36g(大さじ3)、
シナモンパウダー0.5g(小さじ¼)、ナツメの種を茹でた後に濾す水6.5g(小さじ½)、
蜂蜜38g(大さじ2)、砂糖24g(大さじ2)、ごま油6.5g(½杯)
薬食ソース:砂糖24g(大さじ2)、食用油4g(小さじ1)、でんぷん2g(大さじ¼)、水45g(大さじ3)
蒸すための水2kg(10カップ)
** 食材の下準備
1. もち米をきれいに洗って水に3時間ほど浸した後、ざるにあげて10分ほど水気を切る。
2. ナツメを綿の布で拭き、実だけ削りとって6等分する(16g)。栗の皮をむいて6等分にする。
3. 松の実はへた状のものをとって綿の布で拭く。

鍋に砂糖を入れて中火にかけると、砂糖が溶けてキャラメルのような色になる。それにサラダ油とでんぷんを溶かした液を入れてよくかき混ぜると、ソースができあがる。甘すぎず、食材の旨味を引き立たせるソース、薬食だけでなく、チャプチェなど様々な料理にも活用できる

蒸し器で水を沸かし、濡れた綿の布を敷き、もち米を入れて蒸したあと、塩水を満遍なくかけ、木べらでよくかき混ぜながら30分ほどさらに蒸す。この時、飯粒が十分柔らかくなり、ほどよく水分を維持した状態で蒸すと、おいしい薬食ができる
** 作り方
1. 蒸し器に水を入れて9分ほど強火にかけ、湯気が立ったら濡れた綿の布を敷いてもち米を入れ、強火で20分ほど蒸し、塩水を満遍なくかけ、木べらでよくかき混ぜ、30分ほどさらに蒸す。
2. 鍋にナツメの種と水を入れて蓋をし、中火で15分ほど煮た後、ふるいにかける。
3. 鍋に砂糖を入れて3分ほど中火にかけ、砂糖が溶けたらサラダ油をひき、砂糖が溶けて茶色の液体になったらでんぷんを溶かした液を入れ、よくかき混ぜて1分ほどさらに火にかける(薬食ソース)。
4. 蒸したもち米が冷めないうちに、醤油、薬食ソース、黄ザラメ、シナモンパウダー、ナツメの種を濾した水、蜂蜜、砂糖、ごま油を入れてよくかき混ぜ、ナツメ、栗、松の実を入れてもう一度かき混ぜる。
5. 蒸し器に薬食を入れて湯煎する。このとき、強火で9分、中火にして20分ほど蒸したらへらでかき混ぜる。弱火にして20分ほどさらに蒸したら、調味料が全体にしっかり行き渡るよう、もう一度よくかき混ぜ、10分ほどさらに蒸す。
担当:コリアネット ユン・ソジョン記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者
資料:韓国伝統飲食研究所
出所:美しい韓国料理100選
arete@korea.kr

一度蒸したもち米に、一番色の濃い醤油から色の濃い順に入れ、最後に白糖を入れてよくかき混ぜる。このとき、黄ザラメと白砂糖を混ぜて入れると、風味と香りが一層よくなる。栗やナツメ、松の実といったナッツ類は、できるだけ原形が保たれるよう後から入れてかき混ぜる。レーズンを入れてもよい

薬食は、蒸し器で蒸すよりも沸騰したお湯で湯煎したほうが色合いも風味も良くなる