文化

2021.08.02


[ソウル=イ・ギョンミ]
[映像=キム・シュンジュ、イ・ジュンヨン]

静かなオフィス。誰かの携帯電話が鳴っている。これは、確かiPhoneの着信音。「一体どこにあるんだろう」ずっと探しているうちに気が付いた。これは実際の携帯電話の着信音ではない。韓国のアカペラグループ「MayTree」がユーチューブチャンネルにアップした動画から流れてくる音だった。動画のタイトルは「iPhone sound effect」。2月5日に公開されたこの動画の再生回数は、28日の時点で1680万回を超え、2万件近いコメントが寄せられた。

人間の声だけでこんな音を再現できるなんて、驚きだ。この声の主人公である「MayTree」をインタビューした。

(左から)クォン・ヨンフン、カン・スギョン、イム・スヨン、チャン・サンイン、キム・ウォンジョン=キム・シュンジュ撮影



「MayTree」は、韓国を代表する混声5人組のアカペラグループ。リーダーの張相仁(チャン・サンイン)、ソプラノの林竪娫(イム・スヨン)、アルトの姜秀暻(カン・スギョン)、テノールの權寧勳(クォン・ヨンフン)、バスの金沅鍾(キム・ウォンジョン)の5人。

2000年に結成された「MayTree」は、世界の主要なアカペラ大会を席巻した。2010~2011年、台湾で行われた世界アカペラ大会のチーム部門でアジアトップとなった。2012年にはオーストリアのグラーツで開かれた世界的なアカペラコンクール「Vokal.total」で、「ジャズ」「ポップコーラス部門」両部門で最高賞の「Gold diploma」を受賞した。2018年、ロシアのモスクワで開催されたアカペラ・フェスティバルでは、世界2位の座を獲得した。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、世界を舞台に活躍していたMayTreeを直撃した。予定されていた公演がすべてキャンセルされ、活動の場がなくなってしまった。他の生存方法を探さなければいけない状況となった。

サンイン:ありふれたものではなく、新しいものにチャレンジしようとプロデューサーが提案したんです。Windowsの効果音や携帯電話の着信音などを再現してみようと。コロナの影響で、公演も、他のスケジュールも全部無くなっちゃいまして、逆にじっくりと力を入れられる時間ができたんです。

「iPhone sound effect」以外に、Windowsの起動音やゴミ箱を空にした音など、Windowsの効果音を完璧にコピーした動画も大きな反響を呼んだ。動画投稿アプリ「TikTok」では、再生回数4270万回を超え、「いいね」は750万を突破した。Windows公式アカウントは、「10点満点中10点( We Give this performance a Windows 10/10)」とコメントした。Micro Soft社は、「すばらしい(This.Is.Amazing.)」というコメントと共に、MSの公式ツイッターやインスタグラムにこの動画をシェアした。

スギョン:アカペラ演奏そのものを不思議に思う方が多いんです。「人の声で、すごいな」と。その不思議さをもっと広めたくて、日常生活の音を再現することにしたんです。


他にも、映画やゲームの音楽など、メンバー5人の声だけで作り出した動画は、韓国より海外でさらに話題となっている。投稿されたコメントは、英語・スペイン語・日本語・タイ語・ロシア語など、ほとんどが外国語である。

「世界の人々を共感させる」という戦略が的中したというMayTree。Windowsの起動音やゴミ箱を空にした際の音などは、世界の誰もが分かるようなものであるために大ブレークしたと判断している。

一つの動画を投稿するために、テーマを考えることから採譜、編曲、レコーディング、ミックス作業まで、全ての作業を5人で担当する。ある音をアカペラで再現した時に、どのように表現すれば人の脳裏に焼き付けられるかを考える。原音が持っている特徴を最大限に引き出すために、実際に音を出しながら、どのような発音にするかを決める。

「いつまでも幸せな気持ちで歌いたい」という夢を語るMaytree=イ・ギョンミ撮影


5人の実力を考えると、音楽を専攻したと思われがちだが、実際にはそうではない。それぞれの大学での専攻は、化学(サンイン)、建築(スギョン)、教育(スヨン)、コンピュータ工学(ウォンジョン)で、音楽からはほど遠い。5人はアカペラーの魅力にはまってしまい、アカペラへの情熱だけでここまでくることができた。

MayTreeの魅力は、5人の声が一つになり、音楽になった時にその真価が発揮される。

サンイン:歴史上最も古い楽器は、人間の声なんです。人間のDNAに刻まれた温かさや愛おしさで作られた音楽には、誰も拒めない魅力があると思います。

今後、挑戦したいことについて質問すると、コロナで渡韓できない外国人のために、ソウルの駅や電車の中の様子をアカペラで表現したいと答えた。

「韓国の電車の中で聞こえる音や、乗り換えの駅に到着する時に流れる音楽など、韓国でしか聞くことのできない音があるじゃないですか。韓国好きの外国人が懐かしがるような音の再現に挑戦してみたいです」

km137426@korea.kr