文化

2024.10.28

韓国人としては初めてノーベル文学賞を受賞したハン・ガン。写真は、韓国放送会館で開かれた記者懇談会で、記者からの質問に答えるハン・ガン=2023年11月、ソウル・陽川区、文学トンネ

韓国人としては初めてノーベル文学賞を受賞したハン・ガン。写真は、韓国放送会館で開かれた記者懇談会で、記者からの質問に答えるハン・ガン=2023年11月、ソウル・陽川区、文学トンネ


[テレシア・マーガレット]

韓国文学界に偉大なる足跡を残した小説家のハン·ガン。2024年10月10日、韓国人としては初めてノーベル文学賞受賞者に選ばれた。スウェーデン王立アカデミーはハン・ガンの文学を「歴史的トラウマに立ち向かい、人間の命のもろさを浮き彫りにした、激しく詩的な散文」と評価した。

ハン・ガンの作品を読んだ読者は「歴史や個人の背負う傷や痛み、そして回復について繊細に描かれている。胸の奥が締め付けられてしまった」と口を揃えて言う。ハン・ガンの作品には、普遍的な共感を引き出す力があるのだ。しかも、韓国の歴史についてよく知らない外国人たちも、ハン・ガンの作品に魅了された。海外のある韓国文化院では、展示されたばかりのハン・ガンの作品が盗まれたり、ドイツやフランスでは本が完売になり、演劇として制作されるほどだ。もはやハン・ガンは世界的ブームとなっている。

ハン・ガンは1994年、ソウル新聞の新春文芸に短編小説『赤い錨』が掲載され、小説家としての第一歩を踏み出した。その後、様々な作品を発表し、韓国文学を代表する作家としての地位を確立した。 代表作の一つである『菜食主義者』は韓国では2007年に単行本として出版された中編小説で、ある女性が暴力を拒否するために肉食を遠ざけ、しまいには死に近づくいう話で「人間の暴力的本性について執拗に暴いた」という評価を受けた。この作品で2016年、世界3大文学賞ともいわれる「ブッカー賞」を受賞し、「世界的」人気作家の座についた。「菜食主義者」は、ベトナム語(2010年)やスペイン語(2013年)など、23カ国語で翻訳された。

韓国文学翻訳院によると、ハン・ガンの作品は現在まで計28カ国語に翻訳されている。

韓国文学翻訳院は、デジタル図書館に「漢江コーナー」が新しく設けられたと21日、明らかにした。 韓国文学翻訳院公式フェイスブック

韓国文学翻訳院は、デジタル図書館に「漢江コーナー」が新しく設けられたと21日、明らかにした。 韓国文学翻訳院公式フェイスブック


もう一つの代表作、「少年が来る」(2014)は、1980年に起きた「光州事件」を描いた小説の決定版とされている。イタリアの権威ある文学賞であるマラパルテ賞を受賞し、現在18カ国語に翻訳されている。抗争で命を落とした者がその時何を想い、生存者や家族は事件後どんな生を余儀なくされたのかについて、そのひとり一人の生を深く見つめ描き出している。

最新作の「別れを告げない」(2021)は、悲劇的な済州(チェジュ)島4・3事件の歴史を絡め女性3人の視点から描いた作品。フランスのメディシス賞(2023)とエミール・ギメ・アジア文学賞(2024)を受賞した。現在まで6カ国語に翻訳され、来年には英語版の出版を控えている。

受賞作の他にも注目すべき作品が多くある。「白いもの」の目録を書きとめ紡がれた65の物語、「すべての、白いものたちの」(2016)は、生後すぐに亡くなった姉をめぐり、ホロコースト後に再建されたワルシャワの街と、朝鮮半島の記憶が交差する。おくるみ、産着、雪、骨、灰、白く笑う、米と飯……。

2018年、『すべての、白いものたちの』で2度目のブッカー国際賞最終候補となり、 日本翻訳大賞にもノミネートされた。「すべての、白いものたちの」は現在、14カ国語に翻訳されている。

「ギリシャ語の時間」(2011)は、ある日突然言葉を話せなくなった女と少しずつ視力を失っていく男の出会いと対話を通じて、人間が失った本質とは何かを問いかける。英語版は昨年、フランス語版は2017年に出版された。フランスのメディシス賞の最終候補に選ばれ、話題になった。

韓国文学翻訳院は21日、デジタル図書館に「ハン・ガン作家のコーナー」を新しく設けたことを明らかにした。各国の言語で翻訳されたハン・ガンの作品が集められている。身分証明書を持参すれば誰でも自由に閲覧できる。また、韓国文学翻訳院のホームページ(ltikorea.or.kr )では、ハン・ガンの作品が電子書籍やオーディオブックで提供される。

margareth@korea.kr