チョンラ(全羅)北道南端のイムシル(任実)郡は、総面積597キロ平方メートルで、ソウル(605.28k㎡)よりもやや小さい。約1万3,900世帯が暮らしており、人口は約3万700人で、70%が農家だ。手つかずの自然と肥沃な土地、唐辛子といった農産物で知られ、酪農業などが盛んだ。
任実郡は、全羅北道庁所在地である全州市から南に約29キロ離れた場所に位置している。70%が林野の任実郡は、ソンス(聖寿)山やコドク(高徳)山、ペンリョン(白蓮)山といった山地があり、ソムジン(蟾津)江の周辺には平野が広がっている。
「蟾(ヒキガエル)と津(船着場)の川」という意味の蟾津江は、韓国の川の中で4番目に長い。高麗禑王 11年(1385年)頃に倭寇が蟾津江河口に侵入すると、ヒキガエル数十万匹の大群が一斉に鳴き出し、驚いた倭寇が光陽方面に逃げていったという伝説が名前の由来だ。
1965年の蟾津江ダム建設によって生まれた玉井湖は、朝晩と日中の寒暖の差が大きく、霧がよく発生することで有名だ。湖の中にあるのがプンオ島だ
韓国最初の多目的ダム「蟾津江ダム」は、周辺地域に農業用水と生活用水を供給している
蟾津江上流はシラサギの生息地として知られている
経済開発5カ年計画によって1965年に建設された蟾津江ダムは、任実郡と周辺地域に農業用水と生活用水を供給している。韓国最初の多目的ダムである蟾津江ダムは、高さ64メートル、長さ344.2メートルで、貯水容量は4億6,600万トンに上る。全羅北道西部の平野地帯であるチョンウプ(井邑)市やキムジェ(金堤)市、プアン(扶安)郡などに灌漑用水を供給している。
産業任実郡の主要産業は農業で、面積の17%が耕地だ。施設園芸作物の栽培が盛んで、唐辛子やきゅうりといった野菜類が栽培されている。朝晩と日中の寒暖の差が大きい影響で、任実唐辛子は辛味の主成分であるカプサイシンが豊富で身が厚い。オス(獒樹)面チュチョン(酒泉)里一帯には大規模な花卉団地が造成されており、そこで生産されるバラは国内だけでなく海外にも輸出されている。栗や銀杏の実、チョウセンマツの実、胡桃、山菜といった林産物のほか、桃や梨といった果物も多く生産されている。
トクチ(徳峙)面やカンジン(江津)面、ウナム(雲岩)面などでは韓蜂が多く飼育されており、地蜂の蜂蜜が多く生産されている。また、シンピョン(新平)面には大規模な牛乳加工工場があり、任実邑ではチーズ工場など酪農業が発達した。特に、チーズは任実郡を代表する商品で、歴史が深い。任実郡は韓国最初のチーズ生産地で、1967年に任実郡に赴任したベルギー出身のチ・ジョンファン神父(Didier t' Serstevens、1931~)が、近くの聖堂の神父からもらった 2頭のヤギの乳を搾ってチーズを製造したのが始まりだ。任実郡の12の牧場で搾られたヤギの乳でヨーグルトとチーズが生産されている。任実郡に造成された任実チーズ・テーマパークではチーズづくりを体験できる。
任実チーズ・テーマパークでは、チーズづくりを体験できるほか、任実郡のチーズの歴史やチーズづくりの過程などに関する展示を鑑賞することができる
歴史・観光任実郡の歴史は三韓時代にまでさかのぼる。馬韓に属し、「チョンウン(青雄)県」と呼ばれ、統一新羅時代は任実郡と呼ばれたが、朝鮮時代には任実県と呼ばれた。1896年に再び任実郡となり、南原部の6つの面が編入された。現在、任実邑や雲岩面、獒樹面、クァンチョン(館村)面など、1邑11面の行政区域で構成されている。
任実郡庁から望む任実郡の風景
歴史が長いだけあって任実郡には歴史的な場所が多くある。「獒(犬)と樹の郷」という意味の獒樹面は、忠誠心の強い犬の物語で有名で、 獒樹里に義犬碑が立っている。物語は1千年前の統一新羅時代にさかのぼる。キム・ゲインという人が1匹の犬を飼っていた。ある日、野火が起こると、犬は草を水で濡らして主人を救い、自分は焼死する。主人は犬の葬儀の後、この地を忘れないようにと杖をさし、それが伸びてケヤキになったという。1994年にこの場所に義犬像が立てられた。
任実郡獒樹面獒樹里の義犬公園。自身を犠牲にして主人を救おうとした犬の物語が伝えられている
聖寿山に上耳庵という寺がある。新羅の憲康王1年(875年)に道詵国師が寺を建立して「道詵庵」と名づけた。朝鮮を建国する前、「太祖」イ・ソンギュ李成圭(1335~1408)が荒山大戦で倭寇と戦って大勝利して以来、そこで無学大師とともに百日祈祷を捧げ、神の啓示を受けたという説話が伝えられている。朝鮮を建国した (李成圭)は、ここを「上耳庵」と呼び、岩に「三清洞」と刻んだ。
朝鮮を建国した「太祖」李成圭が荒山大戦で勝利した後、百日祈祷を捧げたという説話が伝えられる聖寿山の上耳庵(上)と李成圭が「三清洞」と刻んだ岩(下)
蟾津江ダムが完成することによって生まれた貯水池「オクチョン(玉井)湖」は、任実郡を代表する観光地だ。澄んだ水で知られる蟾津江上流に位置する玉井湖は、朝晩と日中の寒暖の差が大きく、よく霧が発生する。特に、花が満開になる春と紅葉に染まる秋の風景はとても美しい。霧がかかった風景をカメラに収めようと多くのカメラマンが何日もここにとどまることも珍しくなく、様々な写真展にも霧のかかった玉井湖の写真がよく出展される。玉井湖にはプンオ(フナ)の形に似ているという「プンオ島」が浮かんでいる。玉井湖畔の循環道路は、「韓国の美しい道100選」の一つに選定された。ここはシラサギの生息地としてもよく知られている。
筆峯農楽を保存しようと2009年に建設されたピルボン(筆峯)文化村は、展示館やセミナー室などを備えており、6~8月の毎週土曜日には農楽公演が上演される。ここでは、2月末に筆峯旧小正月グ祭りが、8月中旬に筆峯村グ祭りが開かれる。筆峯文化村の韓屋体験施設「チラゴン」は、約60人まで収容することができ、2人部屋、3人部屋、5人部屋などがある。
蜂峯文化村の韓屋体験施設「チラゴン」の広い庭。ここでは農楽公演が開かれる
チラゴンから望む筆峯山の朝の風景
任実郡の位置
任実郡へのアクセス方法ソウル~任実郡:京釜高速道路~天安・論山高速道路~湖南高速道路~任実・浦項高速道路~全州・光陽高速道路~任実IC(所要時間約3時間)、列車及び高速バス利用可能
釜山~任実:南海第2高速道路支線~南海高速道路~統営・大田中部高速道路~88オリンピック高速道路~全州・光陽高速道路~任実IC(所要時間約3時間16分)
光州~任実:湖南高速道路~88オリンピック高速道路~全州・光陽高速道路~任実IC
記事:コリアネット イム・ジェオン記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者
jun2@korea.kr