焼酎は穀物を発酵して蒸留させたり、アルコールと水を希釈して造った酒だ=キム・シュンジュ撮影
[チョン・ジュリ]
[映像=イ・ジュンヨン]
日本でも大ヒットした韓国ドラマ「梨泰院クラス」。パク・ソジュン演じる主人公パク・セロイは、自分が営む店で「緑の瓶」の酒を販売する。韓国映画やドラマでお酒を飲むシーンには必ずと言っていいほど登場するこの「緑の瓶」に入っているのは、韓国の代表的な酒「焼酎」だ。
韓国焼酎は、1瓶(360ml)当たり2000ウォン(約207円)未満の低価格である上に酔いやすく、二日酔いになりにくいというメリットから、年齢を問わず愛される酒だ。サムギョプサルから刺身まで、どんな食べ物にもよく合い、ビールや炭酸飲料を混ぜて飲む人も多い。韓国の国税統計年報によると、2021年の韓国内における希釈式焼酎の販売額は3兆7038億ウォン(約3842億6344万円)。酒類全体の42.1%を占め、最も多い。
韓国の希釈式焼酎ブランド(左から)「眞露」「チャミスル」「チョウムチョロム」 =キム・シュンジュ撮影
よく見かける「緑の瓶」の場合、サツマイモ・糖蜜・タピオカなどを原料にした酒精を水で希釈して造る「希釈式焼酎」だ。希釈式焼酎は、穀物を発酵して蒸留する「蒸留式焼酎」より安く、大量生産も容易にできる。アルコール以外に、香味に影響する成分をできるだけ除去するため、香りがなく、さっぱりとした味わいが特徴だ。苦味をおさえ、まろやかな味と香りを作るために添加物を入れる。そのため、焼酎の後味が甘く感じられることもある。
希釈式焼酎が主流になったのは1965年から。韓国政府が食糧不足を理由に、穀物を原料とする蒸留式焼酎の生産を禁止したのだ。チャミスルやチョウムチョロム、チョウンデーといった様々な焼酎ブランドのうち、1924年から販売スタートした「眞露」は、最も長い歴史を誇る。韓国人にとって「ヒキガエルのブランド」でお馴染みの眞露は、1975年に月平均の生産量が100万ケースを超え、全国焼酎生産量の42%を占めた。1998年にチャミスルが発売される前までは、韓国を代表する焼酎と言われていた。その人気ぶりを受け、2019年には1970年当時の瓶のデザインを再現した「眞露イズバック」という焼酎が発売された。
韓国希釈式焼酎のうち、最も長い歴史を誇る「眞露」の70年代の新聞広告=HITEJINRO
希釈式焼酎のアルコール度数は、1965年の30度から1999年には23度、2006年には20度へと徐々に低くなった。最近は15度の焼酎もある。度数が低くなるにつれ、焼酎特有の苦い味は減り、甘さが相対的に強く感じられる。
2015年から発売された、柚子・グレープフルーツ・マスカットなどのフルーツ果汁が入った焼酎も人気を博している。高い度数の焼酎が人気だった過去とは違い、アルコールの匂いがあまりせず、食べ物と一緒に気軽に楽しめる度数の低い酒の人気がうかがえる。
蒸留式焼酎は、香りのない希釈式焼酎と異なり、それぞれの酒ならではの味と香りを持つ。庶民も手軽に楽しめる希釈式焼酎に比べ、値段は相対的に高め。蒸留式焼酎業界で最も高いシェアを占めるブランドは「ファヨ」。希釈式焼酎とは違って添加物を加えず、使用される材料は、地下150メートルの岩盤層から汲み上げた水と韓国産の米のみ。発酵・蒸留・熟成の過程を経るため、香りと味が豊かであることが特徴だ。
今年4月のある日、KOREA.netは京畿道(キョンギド)・ 利川(イチョン)市にある「ファヨ」の工場を取材のため訪れた。工場に入るとすぐに漂ってくる香りが、特に印象的だった。米の発酵・熟成される香りは、熟成室に入るとさらに濃くなった。甕が所狭しと並んでいる中、クラシック音楽が流れていた。「ファヨ」の朴埈成(パク・ジュンソン)生産本部長は、「酒の味を良くするため、色んな試みをしている」とし、「いい音楽を酒に聞かせるのも一つの試み」という。
5種類の「ファヨ」=キム・シュンジュ撮影
朴本部長はファヨの酒造過程について「純粋培養の微生物を使用して発酵させた後、圧力を下げて低温で沸騰させる『減圧蒸留』方式で蒸留し、酒の雑味を落とす。その後、甕で3カ月間熟成させることで、米特有の風味を深める」と説明した。
アルコール度数は17度から53度まで多様であり、甕ではなくオーク樽で熟成させたウィスキーもある。ほかの飲み物や果物を入れてハイボールやカクテルで楽しむに良いというメリットから、現在は韓国だけでなく米国・英国・フランスなど、22カ国に輸出されている。
今年2月に発売された「ワン焼酎」=キム・シュンジュ撮影
「ファヨ」が高級化に焦点を合わせた一方、大衆化に重点を置いた蒸留式焼酎もある。韓国的でありながら韓国ではない酒をコンセプトにした「ワン焼酎」。「トト米」という、江原道(カンウォンド)の原州(ウォンジュ)市で生産される米を発酵して蒸留した焼酎で、韓国の歌手で有名なパク・ジェボムが代表を務めるお酒メーカー「ワンスピリット」が造る蒸留式焼酎だ。オシャレなデザイン、比較的低いアルコール度数(22度)、一瓶(375ml)当たり1万4900ウォン(約1500円)という値段は、若い世代にとって魅力的といえる。
ワン焼酎は今年2月に開催した2回のポップアップストアで、2万瓶を完売した後、3月31日からオンラインストアで限られた分だけを販売し、売り切れとなった。ほかの酒と違って、オフラインでの販売先がないため、品薄になっている。ワン焼酎よりアルコール度数を2度上げた新商品「ワン焼酎・スピリット」は、先月12日から韓国のコンビニ「GS25」とスーパー「GSザ・フレッシュ」でのみ販売されており、発売から1週間で売り切れとなった。
ワンスピリットの最高コミュニケーション責任者(CCO)の金熹俊(キム・ヒジュン)氏はワン焼酎について「韓国の伝統酒が持つ魅力を広く知らせるため、最初から輸出を念頭において造った」とし、「ベースの味がさっぱりしていて、カクテルにして飲むにも最適している」と紹介した。現在、約60カ国・地域から販売の問い合わせが来ており、ローカライゼーション(現地の文化や地域に対応して行うマーケティング方法)を進めるという。
蒸留式焼酎の人気は、酒の高級化や酒文化の変化など、消費者の欲求が反映される。韓国食品研究員・伝統食品研究団の金泰完(キム・テワン)博士は「所得増加による消費パターンの変化によって酒の消費も変化している。高級酒や好みに合わせた様々な種類のお酒が発売されている」とし、「『緑の瓶』に代表される、安くて単純な香味の希釈式焼酎ではなく、高くて風味豊かな蒸留式焼酎の需要が増えている」と分析した。
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