韓国の著名な美術史学者のユ・ホンジュン氏は、自分の著書の中で「知っている分だけ見える」と述べている。有名な場所も、いつもと同じ日常も、どれだけ知っているか、どんな視点で見るかによって、見える風景は違ってくるからだ。
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「金日成の別荘」から見下ろした「花津浦」
韓半島を横断する軍事境界線の最東部、高城郡(コソングン)には、南北首脳の休養地がある。北朝鮮の初代最高指導者、金日成(キム・イルソン 1912~1994)は1948年から1950年まで「花津浦(ファジンポ)の城」と呼ばれる別荘で家族と過ごした。
高城郡は、韓国と北朝鮮に属しており、韓国戦争(6・25戦争)と南北分断、韓半島の傷が残っている地域だ。1945年、米ソ対立を背景に韓半島を横切る北緯38度線が引かれた。南部には大韓民国、残余の北部には朝鮮民主主義人民共和国が建国された。1953年の休戦により、金氏の別荘がある「巨津邑(コジンウプ)」は韓国に属することになった。
建物は地上2階と地下1階建ての洋風建築。シャーウッド・ホール宣教師がドイツから亡命していた建築家ベーバーに依頼し建てたものである。1938年に完工。
2階から見える「花津浦」の景色が美しい。「花津浦」は韓国で最も広い面積(16キロメートル)を持つ潟湖で、約4万平方メートルの森に囲まれている。豊かな自然が魅力の一つだ。松の香りが漂い、辺りの景色は霧でかすんでいる。韓国戦争勃発から72年を迎え、この風景がいっそう特別感じられる。
矢印で表示されているのが(左から2番目)北朝鮮の第2代最高指導者、金正日氏
建物の前の階段には金氏の息子、金正日(キム・ジョンイル 1941~2011)氏の子ども時代の写真が飾られている。1948年当時6歳だった。
建物は安保展示館として使用されている。2階の部屋には金氏夫妻の衣服が展示されている。
金氏夫妻の衣服
窓や屋上から見える「花津浦」と「金剛山」の風景が美しい。建物の近くには韓国の初代大統領、李承晩(イ・スンマン 1875~1965)氏の別荘がある。ここから歩いて10分ほどだ。
李氏は1910年、アメリカ留学から帰国後、「花津浦」を訪問し、地域の魅力を感じたという。1954年に「李承晩の別荘」を建設し、大統領下野後の1960年まで暮らしていた。李氏にとってこの別荘は特別な場所であることは間違いないだろう。
現在の建物は1999年に展示館として復元された。内部は寝室と執務室、居間の3つの空間で構成されている。遺族が寄贈した、李氏と妻のフランチェスカ・ドナー夫人の写真や生活用品が展示されている。素朴な雰囲気が伝わる。
1953年、花津浦で釣りをする李氏の写真。居間に展示されている
建物の後ろからは「李承晩大統領花津浦記念館」が見える。約62坪の敷地で2007年に開館した。李氏の留学時代、外交活動が分かる資料や写真などが展示されている。
「李承晩大統領花津浦記念館」の内部。李氏が着用した衣装
南北首脳の別荘の間には、1960年の副大統領、李起鵬(イ・ギブン 1896~1960)氏の別荘がある。1920年に外国人宣教師により建築。日本による植民地支配からの解放後は、北朝鮮の共産党幹部の休養地として利用していたという。休戦後は、李氏夫妻が別荘として使ったという。その後、閉鎖され、1999年に「歴史安保展示館」として開館した。李氏夫妻の生活用品が展示されている。
「花津浦」は、分断国家の現実を見せるとともに、南北首脳の痕跡が残されている唯一の場所だ。統治者である彼らが花津浦を心の癒しの場にした理由は何だろうか。実際に訪れた者には、その理由がすぐにわかるはずである。
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