[文=加藤清]
[写真=聯合ニュース]
韓国・李在明大統領、就任80日で異例の日本訪問
― 韓国国内と日本で分かれる報道の焦点
就任後わずか80日での訪日
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が8月23日から24日にかけて日本を訪問し、石破茂首相と初の首脳会談を行った。就任からわずか80日という早さでの訪日は、韓国大統領として極めて異例のスケジュールだ。歴代の韓国大統領は初の外遊先に米国や中国を選ぶのが通例であり、日本を最初に訪れるケースは国交正常化(1965年)以降初めてである。しかも、光復節や終戦記念日を含む8月という時期は韓国内で反日感情が高まりやすい。そうした環境の中であえて訪日を決断した李大統領の動きは、韓国内外で大きな注目を集めている。
▲ 李在明(イ·ジェミョン)大統領夫妻、日本·米国訪問に向けて出発の挨拶イ·ジェミョン大統領とキム·ヘギョン女史が日本·米国訪問のために23日、城南ソウル空港で空軍1号機に搭乗するために階段を上がった後、手を振って挨拶している=2025.8.23
首脳会談の焦点 ―「未来志向」と「実益重視」
会談では、経済・安全保障・人的交流など幅広い分野での協力強化が確認された。両首脳は2025年が「日韓国交正常化60周年」にあたる節目であることを意識し、「過去にとらわれすぎず、未来志向の関係を築くべきだ」との認識で一致した。石破首相は「地域と世界の安定のため、日韓の協力は不可欠だ」と強調し、李大統領も「価値観を共有する隣国として、協力拡大は私の信念だ」と応じた。
日本側は、歴史問題に深く踏み込むことは避け、実務的・協力的な姿勢を前面に押し出した。一方、李大統領は訪日前の韓国メディアとの共同インタビューで「過去を直視しつつ未来に進む」との立場を改めて表明。歴史問題に関して国内の批判を回避しつつ、外交的な前進を図る姿勢をにじませた。
▲ 李在明大統領夫妻、日本に到着。1泊2日の日程で日本を訪問する李在明(イ·ジェミョン)大統領とキム·ヘギョン夫人が23日、東京の羽田空港に到着して移動している=2025.8.23
韓国報道 ―「異例性」と「世論の反応」に注目
韓国メディアは、この訪日を「異例の外交手法」と位置づけている。特に、就任から80日で日本を訪問した迅速さや、8月という時期の象徴性を強調。ハンギョレ新聞は「反日感情が高まる時期の訪日という点で、歴史的にも極めて特異なこと」と報じた。
また、李大統領の決断が国内世論にどのように受け止められるかへの関心も大きい。韓国国内には依然として慰安婦問題や強制動員問題など歴史認識をめぐる根強い不満があり、過度な譲歩と見なされれば政権への打撃となりかねない。毎日経済は「国内支持層との調整が最大の課題」と分析した。
さらに、訪日の直後にワシントンで予定されているトランプ米大統領との会談と結びつけ、「日米韓の安全保障協力を固める布石」と評価する論調も多い。
日本報道 ―「協力強化」と「安心感」を前面に
一方、日本メディアの報道は全体として穏やかで、未来志向と協力の拡大を前向きに取り上げている。朝日新聞は「国交正常化60周年に向け、両国関係を安定的に発展させる」との首脳合意を大きく報道。毎日新聞も「米国より先に日本を訪れる異例の行動」としながらも、その意味を「実用外交」と解釈し、日韓関係の強化を評価した。
歴史問題は必要最低限の背景説明にとどめられ、会談の成果として経済や安全保障分野での協力を強調。読者に安心感を与えるトーンが目立った。
▲ 花束で歓迎した子供たちと記念撮影をするイ·ジェミョン大統領夫妻。イ·ジェミョン大統領とキム·ヘギョン女史が23日、日本東京のあるホテルで開かれた在日同胞昼食懇談会に参加し、記念撮影を行った=2025.8.23
報道の温度差 ―「異例性」か「協力」か
同じ出来事でありながら、韓国と日本で報道の焦点は大きく異なる。
* 韓国: * 「異例の初外遊先」「国内世論との調整」「戦略的外交判断」
* 日本: * 「未来志向」「協力強化」「日米韓の結束」 韓国は「国内の反応」を強く意識し、李大統領の賭けに近い判断を報じているのに対し、日本は「安定と協力」を強調し、外交の成果を前向きに受け止めている。
背景にある米国要因
今回の訪日は、8月25日に予定されているワシントンでのトランプ大統領との会談を見据えた布石と位置づけられる。トランプ政権下で「アメリカ・ファースト」の姿勢が再び強まる中、韓国としては日米韓の結束を前提に交渉に臨むことで、自国の安全保障や経済的利益を守ろうとする狙いがある。
日本側にとっても、米国と韓国の双方と歩調を合わせることは地域の安定に直結する。今回の訪日は、三国間の信頼関係を再確認するための重要な一歩であったといえる。
▲ 会談を前に、韓国の李在明大統領(左)と握手する石破茂首相=23日午後、首相官邸
今後の展望 李大統領は会談後、「過去を直視しつつ未来へ進む」という立場を繰り返し強調した。これは、国内批判を意識しながらも、日本との協力関係を広げたいという意思の表れだろう。今後は、輸出規制、半導体協力、人材交流など実務レベルの具体的成果が問われる。
日韓関係は、歴史認識問題をめぐって幾度も揺れ動いてきた。だが今回の訪日は、両国が「異例さ」と「未来志向」という異なる視点を持ちながらも、共通の利益を追求する新たな局面に入ったことを示している。
就任からわずか80日で日本を訪問した李在明大統領の決断は、韓国国内では「異例の外交戦力の決断」として、また日本では「未来志向の協力強化」として受け止められた。両国報道の差異は、それぞれの読者層が抱える関心や期待を反映したものだ。しかし、その温度差を超えて、日韓両国がともに「協力の拡大」を指向した点にこそ、今回の訪日の意義があるといえる。
今後、日米韓の三角協力がどのように具体化し、東アジアの安定に寄与するかが注目される。李大統領の「異例の訪日」が単なる外交パフォーマンスに終わるのか、それとも歴史を転換させる一歩となるのか。その答えは、これからの日韓双方の行動にかかっている。
*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
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