名誉記者団

2025.11.28

他の言語で読む
  • 한국어
  • English
  • 日本語
  • 中文
  • العربية
  • Español
  • Français
  • Deutsch
  • Pусский
  • Tiếng Việt
  • Indonesian
[文・写真=坪井由美子]

日本には「読書の秋」という言葉がありますが、韓国でも秋は読書の季節ということで、あちらこちらで大小様々な本のイベントが開催されています。 そのなかでも近年人気を集めているのが、晩秋に開かれるソウル・アートブックフェア「 Unlimited Edition(アンリミテッドエディション)」。 韓国はもとより、日本を含むアジアの独立書店ブームを牽引する存在となっているお祭りの様子をお伝えしたいと思います。

様々な言語に翻訳されているハン・ガンさんの本

様々な言語に翻訳されているハン・ガンさんの本


2023年にハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞したことで、世界的に注目度が急上昇しているK-BOOKこと韓国文学。 日本でも人気が広がり、東京で毎年開催される「K-BOOKフェア」は今年も大盛況だったようです。 韓国文学ファンにとって、日本語で読める本が増えるのは嬉しいことですね。 私もハン・ガンさんが大好きで、小説の舞台となった地を旅したり、彼女が運営していたという書店を訪れたりと「推し活」を楽しんでいるのですが、今回お伝えするのは、大手出版社が制作する本とは一線を画すインディペンデント出版、リトルプレスについてです。

リトルプレスとは、個人が自主制作して販売までを手掛ける小部数の印刷物。 作り手の自由な思いや表現を形にした冊子のことで、「ZINE」とも呼ばれ、近年注目を集めています。 ZINEやアートブックなどのリトルプレスを中心に扱う個性的な小規模書店は独立書店と呼ばれ、最近は日本のメディアでも取り上げられることが多くなりまました。

ソウルの独立書店ブームの火付け役といわれる「THANKS BOOKS」

ソウルの独立書店ブームの火付け役といわれる「THANKS BOOKS」


じつは日本に先駆けて、独立書店の先進国として知られるのが韓国です。 かつては韓国もオンライン書店の台頭で街の書店が減少傾向にあったそうですが、2015年頃から独立書店が次々と誕生しはじめ、ある統計によれば、この10年で独立書店の数は約10倍にも増えているのだとか。 その背景には、国の政策があるようです。

2014年には本の割引率を最大15%に規制することで、小中規模の書店も価格競争できる基盤が整えられ、2021年には出版産業の支援などを定めた「出版文化産業振興法」が改正。 国が書店を支援し守っていくという方針が、出版界の再生、振興に繋がっているようです。

ソウル・アートブックフェア「Unlimited Edition」会場の入り口は大行列

ソウル・アートブックフェア「Unlimited Edition」会場の入り口は大行列


そんな韓国の独立出版を代表するイベントが、毎年ソウルで開催されるアートブックフェア「Unlimited Edition(アンリミテッドエディション)」です。 主催者は、独立書店のパイオニア的存在として知られる「YOUR-MIND」。 17回目となる今年は、11月14日~11月16日の3日間、ソウル市立北ソウル美術館で開催されました。

出版関係の知人や現地の友人たちから話を聞くたびに、いつか行ってみたいと思っていたこのブックフェア。 地下鉄を乗り継いでドキドキしながら到着すると、会場の前には長蛇の列ができていました。 郊外にもかかわらずこんなに多くの人が集まることに驚きつつ、中へ入ってさらにびっくり。 展示室は想像をはるかに上回る数の来場者で埋め尽くされていて、ものすごい熱気に包まれていました。

人で埋め尽くされた展示会場。すごい熱気!

人で埋め尽くされた展示会場。すごい熱気!


今年の出店チーム数は歴代最多の250。来場者数は3日間で2万3千人を超えたそうです。

圧倒されたのは、もちろん人の数ばかりではありません。 本と聞くと、普通は書店や図書館に並んでいるような本を思い浮かべると思いますが、この会場に集まっているのは、本の概念を超えた多種多様な作品たち。

一枚の大きな紙を折りたたんだ本や、自宅で印刷してホッチキスで留めた100%手作りの本、毛糸で編んだ本もあれば、刺繍やパッチワークでつくった本、マフラーやバッグ、ステッカーなどのアートグッズまで、じつに多彩で見ているだけでわくわく。 本の世界ってこんなに自由なんだ!と目から鱗が落ちました。

日韓ユニット「かもめ姉妹」は、一枚の紙を折りたたんだ本でソウルと東京のおすすめを発信

日韓ユニット「かもめ姉妹」は、一枚の紙を折りたたんだ本でソウルと東京のおすすめを発信


プラスチックのアップサイクリングブランドと作家のコラボ作品

プラスチックのアップサイクリングブランドと作家のコラボ作品


来場者は若い女性がとくに多いようでしたが、カップルや家族連れの姿も。 作家さんのトークショーやワークショップ、記念写真を撮れるコーナー、イベントのオリジナルグッズなども用意され、みんな思い思いに楽しんでいます。
興奮を冷まそうと外へ出てみると、会場前の公園では、買ったばかりの本を読みながらくつろいでいる人たちがたくさん。 その光景を眺めながら、良いイベントだなあとしみじみ感じました。

買った本を読みながらのんびりくつろぐ人々

買った本を読みながらのんびりくつろぐ人々


作者さんと直接対話できるのも、このイベントの大きな魅力です。 お話をさせていただいて感じたのは、ここにある作品はどれも個人的な思いから作られていて、絶対にその人にしか生み出せないものだということ。 作りたいから作った、というまっすぐな熱量をシェアしていただいたことは、本を作りたいと熱望しつつもくすぶっている私にとって、大きなエネルギーとなりました。 私も本をつくっていいんだ。と、励まされた思いです。

私には、韓国に関わる本を作りたい、という夢があります。 今回のブックフェアでいただいたパワーを燃料にして、ZINEを作ってみたいという思いがいっそう強くなりました。 そしていつか、ソウルのアートブックフェアに出店者として参加したい!(目標は大きく!) 自分を鼓舞するためにも、思い切ってここで書かせていただきました。 いつかご報告ができるよう、がんばります。

<ソウルのリトルプレス情報>

ソウルには、いまも独立書店が生まれ続けています。 とくに弘大(ホンデ)の北に広がる延禧洞(ヨニドン)から南の合井(ハプチョン)にかけては、ユニークな書店が多いエリア。 今回紹介したアートブックフェアを主催する「YOUR-MIND」や、独立書店ブームの火付け役として知られる「THANKS BOOKS」ほか、ブック・カフェやブック・バーなど本にまつわる面白いお店が点在していますので、ぜひ散策を楽しみながら韓国の本文化を体感してみてください。

★韓国のリトルプレス事情について詳しく知りたい方におすすめの本、『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社)。https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010014/

★ソウルで東京アートブックフェアの展示会「ローカル・ブックメーカーズ from TOKYO ART BOOK FAIR」が開催中です。 会場:弘大入口駅7番出口 PLATRORM P 会期は未定のようですが、半年くらいは続くようです。

★12月には東京で2週末にわたって「東京アートブックフェア」が開催されます。韓国のリトルプレスも出店するのでファンは要チェックですよ。 会期:2025年12月11日~12月14日/12月19日~12月21日 https://www.tokyoartbookfair.com/


*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。

hjkoh@korea.kr