日本の産業遺産情報センター(以下、情報センター)が韓日両国で話題となっている中、2019年4月に端島(軍艦島)を訪問したことが思い出される。
昨年は、日本に植民地支配をされた韓半島で起きた抵抗運動「3・1独立運動」から100年となり、中国・上海に大韓民国臨時政府が設立されて100年となる年だった。当時、私は「韓日共催ピース&グリーンボート」に参加し、両国の市民団体と軍艦島を訪問した。
出発する前に、長崎港近くの「軍艦島デジタルミュージアム」で広報ビデオを見た。「端島炭鉱では日本人だけでなく、多くの外国人が働いた。1944年(第二次世界大戦)から終戦まで、彼らは仲良く暮らしていた」との内容。朝鮮人労働者が強制動員され、厳しい環境で働かされたことや差別を受けたことなどは、言及されていない。長崎港の南西方面から19キロ離れた軍艦島へ向かう船でも、菱重長崎造船所や軍艦島を含む産業遺産が日本の近代化にどのように貢献したかを示すビデオが日本語で上映された。このビデオには、日本による植民地からの労働者や戦争の痛みなどはまったく言及されていない。
出発してから約40分後、廃墟となったマンションが目に入った。幽霊船のように見える「軍艦島」。日本人にとっては、誇らしい明治の産業遺産であり、世界遺産であるが、韓国人にとっては、強制労働させられた恐ろしい場所であろう。到着後、島のガイドさんに30分間、見学コースを案内してもらった。マンション(30棟・31棟)や炭鉱への階段、石炭コンベアベルトなど、いくつかの施設を遠くから見ることができた。
元島民である中年のガイドさんは、島にモダンなスタイルの集合住宅が建てられたと説明し、そこには、労働者の汗と犠牲、住民の共同体があったと強調した。そして、鉱山の劣悪な労働条件について、「労働者はエレベーターで地下600メートルを降り、それから400メートルを歩いて降りた。内部の温度は40度を超え、湿度は95%以上だった。地下水が鉱山を満たし、酸素が不足していた。ガス爆発による崩壊などの危険にさらされていた」と説明した。日本語で説明され、韓国語の通訳は許可されなかった。ピース&グリーンボートの関係者によると、島への訪問を申し込む際、訪問者はガイドの指示に従うことと、韓国語の通訳は許可されないという前提条件があった。それを念頭に置いて、私はガイドさんの説明を韓国の記者団に密かに通訳するしかなかった。
ガイドさんの説明やツアーコースのいずれにおいても、朝鮮人労働者に対する強制労働や差別などは言及されていない。つまり、訪問者は、朝鮮人・中国人などの外国人労働者が軍艦島で強制に働かされたことについて知るよしもない。ここで分かるのは、外国人労働者を差別なく、共同体の一員として受け入れた日本社会の包括性と寛大さだけだ。島は、韓国が強制労働問題を巡り、根拠なく日本を攻撃していると誤解や勘違いさせる場所であった。また、歴史を歪曲や捏造する場所として扱われていた。
島には、世界遺産に登録された日本の高度な先進技術と、共同体を維持してきた日本人労働者と庶民の犠牲が示されているだけだ。第二次世界大戦中の日本の歴史も植民地支配の事実も示されていない施設を見て、差別と虐待を受けた朝鮮人労働者の存在を感じる日本人はいるだろうか。これらの説明などは、施設の良い面のみを強調し、日本による植民地支配の「負」の歴史を隠している。そのせいか、島は明らかに歴史の歪曲と捏造の場所に変わっていると言っても過言ではないだろう。
ユネスコ世界遺産委員会は、2015年に軍艦島を含む「明治日本の産業革命遺産」23施設を世界遺産に登録した際、日本政府に対し「歴史全体について理解できる措置を取る」よう呼びかけた。韓国政府や韓日両国の市民団体も、ユネスコの勧告をしっかりと受け入れるよう、強く求めていたが、日本政府はいまだに具体的な措置を講じていない。
「明治日本の産業革命遺産」を紹介する、情報センターが3月31日、長崎ではなく東京に設立された。これは明らかに東京オリンピックに向け、日本を訪問する外国人をターゲットにしたと言える。産業施設を広報し、日本の戦争犯罪を消し、イメージを変えようとする戦略の一つであろう。東京オリンピック組織委員会が競技会場への旭日旗の持ち込みを許可した際、日本の右翼団体はオリンピックを契機に、戦前の「軍国主義」と「侵略主義」という否定的なイメージから脱皮しようとした。このような環境では、朝鮮人の強制労働は注目されなかったかもしれない。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京オリンピックが延期となった。緊急事態宣言により、産業情報センターも一時的に休館。新型コロナウイルスの政府対応への批判が相次ぎ、安倍内閣の支持率が30%台に下落した。そして、日本人の69%が安倍首相の総裁4選を反対した。「ポスト安倍」について話し合う動きが生じ、右翼団体の影響力が明らかに低下していた。そんな中、情報センターが6月15日に一般公開された。
情報センターには、強制労働に関する文書の一部や、ユネスコが日本政府に勧告した内容などが掲載されている。しかし、同センターはユネスコからの勧告を違反する施設であることは間違いない。強制労働を否定する元道民の証言のみを展示している。これは「ノイズマーケティング」としか言いようがない。韓国に反対を引き起こし、日本人と右翼の注目を集め、安倍政権の支持基盤を強化するための戦略に他ならない。
情報センター長は、安倍首相と幼馴染であり、「歴史修正主義」という認識を共有する加藤康子氏である。彼らは、安倍政権で、明治維新と日本右翼の精神的指導者である、吉田松陰(1830~1859)の遺産を世界遺産に登録し、東京オリンピックを開催しようとした。また、安全保障法を改定し帝国主義を復活させようとしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、これらの計画は全て水泡に帰した。廃墟になった軍艦島のように、情報センターも歴史修正主義の廃墟を示す展示館となり、幽霊船のようにさまようのではないかと心配になる。情報センターが、真実を反映させ、本来のあるべき位置におさまることを祈るばかりだ。