オピニオン

2021.02.04

Kimjang festival in Seoul 2019

2019年にソウルで行われたキムジャン祭り=聨合ニュース



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ティム・アルパー

英国出身フードコラムニスト



キムチは、ここ数年の間に世界のシェフやグルメに注目されるフュージョン食材に浮上した。これはキムチが健康に良いだけでなく、キムチの持つ独特の辛味と、サクサクした気持ちの良い食感のおかげでもある。

韓国人以外の国のほとんどの人が「キムチ」と呼ぶのは、白菜キムチのことである。塩漬けした白菜と大根、ニンニク、唐辛子の粉、他にも様々な食材を加えて作る。キムチには抗酸化成分と抗がん効果のある植物性化学物質、体に有益な乳酸が多く含まれている。このため、急速に成長している健康食品業界でも、キムチは高く評価されている。

海外では、店でキムチを買うか、家で少量ずつ作って食べる人が多いが、韓国の伝統的なキムチ漬けは、それとはずいぶん異なる。「キムジャン」というこの方法は、「キムチを作って、分かち合う文化」を意味する。2013年には、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。

キムチに少しでも興味のある人は、「11月になると韓国に行ってみて」と言われたことがあるだろう。もちろん、現在では新型コロナウイルスが終息してからの話である。11月は韓国でキムジャンが盛んに行われる時期である。この時期になると、白菜と大根をたくさん載せたトラックをよく見かける。

毎年恒例の特別行事

キムジャンの季節が近づくと、韓国人はキムジャンに必要な食材を大量に購入する。1年に1度だけの行事であるからだ。白菜の収穫ができない冬場の3~4カ月間食べるキムチを、あらかじめ一気に作っておく伝統が今でも続いているのだ。キムジャンは大規模な行事であり、家族全員だけでなく、近所の手助けも必要となる。

キムジャンは、2等分、または4等分に分けた白菜を塩漬けすることから始まる。塩漬けする理由は、キムチが腐敗しないようにするためである。塩漬けすることで、時間が経つにつれ、もっとおいしくなるのである。

塩漬けした白菜を水切りして、生姜、ニンニク、千切りした大根、唐辛子の粉、にんじんなどを入れて赤いルビー色のヤンニョム(薬味)を用意する。風味を加えるため、イワシの魚醤やアミの塩辛などを入れることもある。最近は菜食主義者のための調理法も人気を集めている。

この方法以外にも、多くの人が自分ならではのキムチレシピを持っている。ある人は、甘さを加えるため、梨をすりおろして入れたり、抗酸化成分や辛味を加えるためにネギを入れたりもする。ネギは、西洋のリーキとは違う。ワケギや玉ねぎを入れてもかまわない。

キムチのヤンニョムを作る方法は、韓国人の数と同じくらい存在する。それぞれ特徴があり多様であるが、一つ共通点がある。食材の下ごしらえやそれを混ぜ合わせる過程は、全て手作業で行われ、この苦しい労働は長時間続くという点である。伝統的なキムジャンは、ミキサーを使ったり、スーパーマーケットから下ごしらえ済みの食材を買ったりはしない。

ヤンニョムが完成すると、白菜の外側の葉から一枚ずつヤンニョムを塗っていく。仕上げとして白菜の大きな葉(一番外側の葉)で巻くように包む。昔は、キムチをつぼに入れて、そのつぼを土の中に埋めておいた。しかし、最近はキムチ冷蔵庫にキムチを保管する。

絆の味

韓国では、キムチはどこへ行っても見かける食べ物である。食事するたびにキムチを食べる人もいるくらいだ。4人家族の場合、50株くらいの白菜でキムチを漬ける。

私は数年間、韓国でグルメ専門記者として働いたことがあり、、運よく韓国の学界や政府から認められた有名なキムチ名人を取材した。

キムチ名人は、キムジャンを科学と芸術の境地にまで引き上げた。私はキムチ名人を尊敬しているが、キムジャンは科学や芸術より、共同体意識と深く関係していると思う。

2000年代半ば、初めて韓国へ行った私は、キムチがとても好きになってしまった。あまりにも好きすぎで、ロンドンに戻ってからも自分でキムチを漬けて食べたくらいだった。キムチを漬けるのは、とても簡単だ。包丁さえ使えれば、誰でも漬けることができる。包丁を使うのが苦手な人でも、他の人に手伝ってもらえればよい。キムジャンは、本当にハードな肉体労働なのだ。

キムジャンをする時は、たくさんの人が大きなタライを囲んでキムチを漬けるため、台所が狭いと感じることもある。台所の代わりに、家のリビングや庭、屋上などがキムジャンをする場所として使われたりする。

キムジャンは、家族や友人、近所の人など、一緒にキムチを漬ける人々と楽しい時間を過ごす機会を与えてくれる。もし、キムジャンの季節に韓国人の家を訪れることがあれば、珍しい経験ができるかもしれない。誰かが急に、ヤンニョムを塗った白菜一枚を口に入れてくれたとしても、驚かないで味わってみてほしい。それはキムジャンの時期にしか食べられないものだからだ。

私は数カ月間よく熟成させ、味が深くなったキムチが好きだが、漬けたてのキムチを一口食べると、キムジャンがしたくなる。タライの前で何時間もしゃがんでいて、筋肉痛になったとしても、韓国でキムジャンのように「同志愛」ができる集いはないだろう。 

分かち合いは配慮

白菜の最後の一枚までヤンニョムを塗り終わっても、それでキムジャンが終わったわけではない。その次には「分ける」という作業が待っている。2013年、キムジャンがユネスコ無形文化遺産に登録される際に、ユネスコも評価した部分である。昔、韓国人が近所にキムチを分けたように、できたてのキムチを友達や仲間、家族、親戚におすそわけする姿は今でもよく見かける。

毎年、私の冷蔵庫の中は、友人のお母さんやお婆さんが作ってくれた新鮮なキムチでいっぱいになる。キムチをもらうと、いつも愛されている気がする。直接会わなくても感じられる共同体の一員になった気分になる。

韓国では、会社や市役所、またはマンションの住民会などが定期的にキムチを作るイベントを行い、経済的に困窮している人にキムチを無料で分ける。

私は今、ロンドンでも韓国人の口に合うキムチを作って食べている。しかし、キムジャンで最も重要な材料といえる「所属感」がいつも足りないと感じる。キムチ漬けは一人でできても、キムジャンは一人ではできない独特な社会的経験なのだ。

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、社会的距離の確保が実施されたため、人々が集まってキムジャンをすることができなかった。いつか新型コロナが収まった時、韓国の代表的な共同体行事である「キムジャン祭り」も、また開催できるようになるはずだ。たとえ、どんなに体が疲れたとしても、楽しくて幸せな経験をするに違いない。