オピニオン

2021.04.20


クリストフ・ゴーディン(Christophe Gaudin)

国民大学政治外交学科助教授



去年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、韓国は世界中から注目を集めている。

まず一つ目は、防疫に対する関心である。新型コロナが発生した当時、韓国は中国を除いた国のうち、真っ先に大きな打撃を受けた。ベトナムや台湾とは異なり、韓国は青瓦台(大統領府)ホームページの「国民請願掲示板」に数十万を超える投稿があったにも関わらず、国境をすぐに封鎖しなかった。しかし、去年2月、一部の教会から始まったクラスター発生によって感染が全国的に広がり、コロナ検査を拒否する人が増えた。西欧諸国のように、最悪の事態をもたらしかねない条件を満たしたのである。

それにも関わらず、韓国はウイルスの感染抑制に成功した。これまで何度も危機的な状況があったが、一日の新規感染者数は1千人台を維持した。13日の時点で、韓国の人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数は3.4人で、英国(196.6人)、米国(172.2人)、フランス(147.9人)に比べて著しく低い水準である。この数値を見ると、新型コロナの感染拡大により再び国境を封鎖した国が韓国に関心を示した理由がわかる。

二つ目は、韓国式対応戦略に対する関心である。他の西欧諸国や独裁体制の中国とは異なり、韓国は非常事態宣言をしなかった。小中高校と大学はオンライン授業をを導入し、飲食店やジムなどは「社会的距離の確保」のレベルに従って運営時間を調整しながら営業を続けている。他の国が移動や営業を制限する措置を導入したこととは正反対な部分である。

韓国式対応を理解するには、過去を振り返る必要がある。2014年のセウォル号沈没事故以来、韓国ではデモや集会で不満を表す動きが多くなった。市民は街中でデモを行ったり、SNSなどを通じて政府に反対する意見を積極的に発信した。2015年に中東呼吸器症候群(MERS)が流行した時も同じである。当時、政府の対応は大きな批判を浴び、その後の反省から、今のコロナへの対応の土台が作られた。議論を呼んだり疑惑を招いたりするような政治家ではなく、医療従事者や専門家からなる疾病管理庁が防疫の中心となった。ある海外メディアは、フランスや米国の過度な大統領中心体制と比較し、韓国では鄭銀敬(チョン・ウンギョン)疾病管理庁長が引き続き対応の先頭に立っていると評価した。

韓国の新型コロナ防疫対策は、二つの点から見ると、理解しやすい。先に述べた韓国市民の民主主義への熱意と、アジア特有の共同体意識である。漢字で「人間」は、横向きに立っている人をかたどった「人」という字と、人と人との関係を意味する「間」という字からなる言葉で、人同士が係わり合いながら生きているという意味である。韓国で誰かと話をすると、「私」という一人称より「私たち」という表現をよく使っていることがわかる。もちろん、このような部分が個性を制限することもあり得る。しかし、共同体は危険にさらされた時こそ、規律の必要性を実感する。マスク着用は、ただ自分を守るだけでなく、他人の健康を守るための行動でもあるということからも分かる。

韓国が中国といった他のアジアの国々と異なる点は、民主的な対応システムが構築されているという点である。韓国政府は、国民が注目している中、去年1月にコロナ診断キットの制作を開始した。感染者の移動経路の把握も、個人の自由が重要であるだけに、他人を保護する義務があるという文化的な観点から、韓国の国民は自然に受け入れた。中国の場合、全ての国民を対象に移動経路を追跡しているが、韓国はコロナに感染した場合のみ、その人の移動経路を公開する。疫学調査官が移動経路を把握した後、匿名でその情報を公開し、感染者と重なる移動経路が把握できるようにするシステムである。もちろん、情報は独立機関が管理し、使用済みの情報はすぐ削除される。リアルタイム監視とは程遠い。

韓国では、今まで約100万人を超える人がワクチン接種を受けており、コロナ以前の生活に戻るにはまだ時間がかかるとみられている。接種のスピードは相対的に遅いが、二つの点に注目してほしい。韓国は欧米諸国に比べ、コロナによる打撃が少ない上に、状況の深刻性と危険性の両面においても大きな差があるという点だ。現在、韓国では、接種可能なワクチンの大部分を占めているアストラゼネカ社のワクチンへの懸念が高い。国民は、ワクチンに関する不正行為を絶対許さないため、よく知られていない中国のワクチンのような代替可能なワクチンが考えられない。このため、この問題を解決するに時間がかかるのは当然のことである。


最後に、「我慢しない」といわれる韓国人の特性も、哲学の面から見ると、民主主義社会であることを表す要素である。中国で、国に反対する声がほとんどない理由は、人々がただ沈黙するからである。一方、多くの韓国人が積極的に自分の声をあげるということは、自分の意見を言う方法を個人が知っているということを示している。欧米諸国の多くの人々が失望している雰囲気とは非常に対照的である。

クリストフ・ゴーディン(Christophe Gaudin)助教授は、フランスのグルノーブル国立政治学院を卒業し、パリ第5大学で博士号を取得し、2012年から韓国の国民大学で講義を行っている。