ひと

2020.12.16

去年ソウルで行われたファッション関連のイベントでポーズをとって写真撮影する金宗煜さん=金宗煜さん提供

去年ソウルで行われたファッション関連のイベントでポーズをとって写真撮影する金宗煜さん=金宗煜さん提供


[東豆川=キム・ヘリン、イ・ギョンミ]

たくさん服の中から、その日の衣装を決め、服に合うアクセサリーを選ぶ。片手で髪を整えると、メイクも自分でおこなう。最後に何を履くか決めると、外出の準備が整った。ここまで3時間あまり。撮影場所に到着し、カメラの前に立つと、目つきが変わる。カメラのシャッター音に合わせて自由に表情やポーズを変える。

他のモデルの撮影と異なる点はたった一つ。車いすに乗っているということだ。

金宗煜(キム・ジョンウク)さんは、韓国初の車いすモデル。先天性脳障害により、左の手足が不自由で、外出の際はいつも車いすに乗る。金さんはモデルであり、インスタグラムやユーチューブなどで自分の日常を紹介し、自分をPRするクリエーターでもある。

金さんは、「僕は障害を克服したわけではなく、(障害のことを)僕だけが持っているレアな武器だと思って、利用している」と話した。

国際障害者の日(3日)を1週間後に控えた先月26日、京畿道(キョンギド)のあるカフェで金さんに会って、話を聞いた。

安定した仕事をしてほしいという母親の意思に従って、大学では社会福祉学を専攻した。ところが、大学1年生の時、ファッションに目覚め、進路を変更した。

「僕は食べることが好きなのに、運動ができないせいで、かなり太っていました。そんな時、いつも階段の昇り降りを手伝ってくれる友達が、僕が重いせいで困っていることに気づきました。みんなに迷惑をかけたくなくて、ダイエットを始めたんです。すると、だんだん瘦せていき食費も減りました。そのお金で洋服を買うようになったんです。おかげで、おしゃれすることに興味を持つようになりました」

モデルになりたいと思ったきっかけは、2017年に東大門(トンデムン)で開かれた「ソウルファッションウィーク」で注目を浴びたこと。当時、おしゃれな格好をして車いすに乗っている障害者は金さんたったひとりだった。

「車いすに乗っている人がファッションショーに来るのが珍しかったのか、たくさんの人が僕の写真を撮っていました。その時、ひとりのカメラマンに、モデル活動をしているのかと聞かれ、その質問がずっと頭から離れませんでした。『韓国では、ランウェイを歩く車いすのモデルは、一度も見たことがない。僕が初めてのモデルになったら、どんなことがおこるんだろう』と思うと、胸がときめきはじめました」

韓国初の車いすモデルの金宗煜さん=チェ・テシュン撮影

韓国初の車いすモデルの金宗煜さん=チェ・テシュン撮影



最初は、モデル志望者や写真作家らが集まって話し合うカカオトークのグループトークやSNSなどを通じて、撮影の機会を探した。また、ファッションショーのオーディションを受けたり、ユーチューブチャンネルを開設したり、自分をPRすることにも力を入れた。お金をもらわずに、3年間の努力の末に、今年の下半期には、有名ブランドのモデルに選ばれた。10月には韓国初の障害者・スポーツ・アーティストエージェンシーと、所属モデルとして契約を結んだ。

モデルという夢に向けて努力したことで、自分の性格が前向きに変わったと話す金さん。
「自尊心が高くなりました。車いすに乗っている僕を見る人の視線は、依然として同じです。でも、昔は『僕がかわいそうだから見ているんだ』と思いましたが、今は『今日の衣装が受けてるんだ』と思うようになりました。自分の写真を見ながら、自分の魅力を探し出すのも楽しいです」

好きな仕事に挑戦する金さんから勇気をもらっている障害者が多い。
「同じような障害を抱えている人から、たくさんのメッセージをもらいます。周りからからかわれることもあるけど、僕を見ると力がわいてくるという内容が多いです。また、生まれつきの障害ではなく、病気や事故によって障害を持つようになった人もいます。そんな人々の心の傷も、相当なものです。彼らの中にも僕を見て、『もう一度やってみようというエネルギーをもらった』と話してくれた人がいました。好きなことをやっているだけなのに、そんなふうに言ってもらえて、うれしいですね。これからも、もっと頑張ろうと思います」

金さんは「障害と非障害の境界を崩す」という言葉が要らないほど、障害者が社会進出することが当たり前である未来を目指す。

「海外では障害者モデルが活発に活動している上に、そのマーケットも大きいですが、韓国はまだまだです。まず、車いすをファッションアイテムとする車いすファッションショーを開きたいです。障害者が自由におしゃれな格好ができるよう、衣料ブランドも作りたいです。また、障害者雇用の創出にも力を入れたいです。僕が一生懸命にモデルとして活動しながら、偏見のない社会を作っていきたいです」

金さんは、夢に向けて頑張っている全ての障害者を応援すると話した。障害者の挑戦が多くなるほど、就職のハードルも低くなり、障害者にできる仕事も増えると信じるからである。

「韓国で、障害者が新しい仕事にチャレンジして、成功する。そんな人がだんだん増え、海外にまで伝えられることで、障害者に対する認識の改善を果たしたいです」

モデルとして大活躍する金宗煜さんの様々な写真=金宗煜さん提供

モデルとして大活躍する金宗煜さんの様々な写真=金宗煜さん提供



kimhyelin211@korea.kr