韓国は、1987年に電算ネットワークの普及拡大と利用促進に関する法律を制定して以来、より便利で良質な行政サービスを国民に提供するために電子政府の構築に取り組んできた。絶え間ない技術開発の努力により発展を遂げてきた韓国の電子政府システムは、今や世界から認められるものとなった。 今回は韓国のオンラインにおける国民参加ポータルの「国民申聞鼓」について紹介する。
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#1
航空券キャンセルの際に過度な払戻手数料を要求する格安航空会社を告発。
#2
野生動物密猟の取り締まりおよび保護という名目で中央政府と自治体から二重で予算の交付を受ける団体に対する監査の依頼。
#3
違法なUターンや進路変更禁止違反を車載ブラックボックスで通報、交通違反を運転者が自ら監視する公益のための申告。
#4
交通事故により車の中に閉じ込められた幼い子供と母を見つけ、爆発の危険があるのにも関わらず自分の身を投げて車から親子を助け出した海兵隊・中士の行動を発信。
これらは韓国の国民参加ポータルの「国民申聞鼓」に寄せられた様々な請願の一部。国民権益委員会(以下、権益委) が運営する国民申聞鼓には、日常の中で経験する不便や制度改善など国民の幅広い意見が毎年170万件以上も受け付けられる。国民申聞鼓は、国民が行政機関から違法または不当な処分を受けたり不公平な仕打ちを受けたとき、請願申込や行政改善アイディアの提案、予算の無駄使いに関する通報など国家の政策について意見を述べるオンラインにおける重要な国民疎通の窓口である。
国民申聞鼓には国民が直接請願の申請、提案、政策参加、予算の無駄使い、公益通報、その他政府政策や請願処理に関する問い合わせなどを登録することができる。画像は権益委が運営する国民申聞鼓のホームページ画面
「申聞鼓」という名称の由来は朝鮮時代まで遡る。朝鮮第3代王の太宗(テジョン、1367-1422)が開国以来の混乱を収拾し国の安定を図るべく、中国宋代の太祖(趙匡胤、927-976)が施行した下情を上達する制度を手本にした「登聞鼓」の設置を主張する臣下たちの意見を汲み取り、1401年8月から登聞鼓を導入した。登聞鼓は後に「申聞鼓」に名前が変更される。それからひどい目に遭った民が管轄の官庁に申し立てても受け入れられなければ誰でも申聞鼓を打って国王に直訴できるようにした。
朝鮮時代にルーツを持つ申聞鼓はインターネットと無線移動通信の新技術で支えられる国民申聞鼓に継承され、国民の声を政府の政策に直接反映している。
現在のような国民申聞鼓は2005年から開発が始まった。政府が国民の意見を受け付ける窓口としての役割を充実させるためにすべての行政機関で運営される請願・提案・政策討論など対国民窓口を一本化しオンライン窓口の「国民申聞鼓」を構築、2005年8月には7つの中央行政機関の請願処理システムを統合させた。そして国民申聞鼓は2008年2月から中央の行政機関および自治体と主要公共機関を連携することにより国民に対するワンストップサービスを提供できるようになった。
現在、国民申聞鼓では910以上の中央政府部処、自治体および公共機関が連携しており、受け付けられる請願も年々増えている。請願の処理期間も以前より短縮され、満足度も高まっている
国民申聞鼓には昨年基準で900以上の政府・公共機関がつながっており、機関同士の請願処理システムにおける連携範囲が広がるに連れ、受け付けられる請願の件数も増え続けている。2006年に40万2,442件だった請願件数は2011年に初めて100万件を超え、107万3,499件を記録した。2013年には151万人を上回り、昨年は190万件に上るなど着実に利用者が増えている。
国民申聞鼓はウェブとモバイルで、またスマートフォンのアプリから請願を受け付けている。また韓国語が苦手なため請願を提出しにくい海外同胞や国内に在住する外国人でも手軽に請願を申し立てられるよう、2016年12月現在14カ国語で請願窓口を運営している。
国民申聞鼓は韓国語が苦手なため請願を提出しにくい海外同胞や国内に在住する外国人向けに14カ国語で請願窓口を運営している。画像は国民申聞鼓の英語ページ
国民申聞鼓に受け付けられた請願については、関連機関の担当部処に伝わり追加被害の予防、改善策の樹立など実質的な措置をとることになる。請願を訴えた国民は自分が申し立てた請願の中間処理過程や結果を書面または有線・無線で案内してもらえる。情報通信技術(ICT)の進歩に伴い請願の処理期間も相当短くなった。単一請願の場合は平均6.2日以内、複合請願でも7.4日以内に処理される。2006年の単一請願の平均処理期間が7.8日、複合請願の処理期間が14.4日だったことを考えると大きく短縮されたといえる。処理結果に対する満足度も自然と高まり、2010年に66.6%だった請願処理の満足度が2014年には84.4%と大きく上昇した。
権益委では時期別に急増する請願データの分析による速やかな対応にも努めている。実際、昨年には携帯電話の支援金支給に関する被害請願が毎月100件以上増え権益委では管轄部処の未来創造科学部と放送通信委員会に対して「早期警報」を発令、さらなる被害の予防に取り組んだ。さらには2010年から「請願情報分析システム」を構築、2013年からサービスを開始すると共に2014年からは「請願拡大早期警報制度」を取り入れるなど、国民不便の解消に努めた。また、大規模な被害やトラブルをリアルタイムでモニタリングすることによりさらなる被害を予防する「請願予防サービス」も運営している。例えば、6月の夏休みが近づくにつれ増える格安航空会社の不当営業の告発など、旅行に関する請願のように特定時期に急増する請願を関係機関に伝えることによる追加被害の予防と改善策の策定に乗り出している。
世界的にも国民申聞鼓システムはその優秀さが認められている。国民申聞鼓は2005年に開発され、翌年の2006年にフランスで開催された世界電子政府大会(e-Gov)で「トップ10」に選ばれた。2011年には「国連公共サービス賞」を受賞し、2010・2012・2014年に国連電子政府ランキングの「オンラインサービス」で連続1位を獲得した。
韓国の国民申聞鼓がチュニジアに導入される。今年2月に権益委キム・テウン権益改善政策局長(右)がチュニジアでカメル・アヤディ(中央)公共サービス・グッドガバナンス・汚職防止相と国民申聞鼓システムのチュニジア進出に関する相互協力の覚書を締結して記念撮影をしている様子
国民申聞鼓システムに対する海外の関心は輸出につながっている。今年2月、権益委はチュニジア政府と国民申聞鼓システムのチュニジア進出に関する相互協約および覚書を締結した。また権益委はチュニジアにおける公共サービス・グッドガバナンス・汚職防止省とチュニジアにおける市民参加の拡大、汚職防止能力の強化に向けた専門家交流、国民申聞鼓がチュニジアに根ざすように法律・制度・技術を共有するとの内容を盛り込んだ情報化業務の覚書にも調印した。
権益委は現在、インドネシアとも国民申聞鼓の導入について意見を交わしている。権益委は2006年にインドネシアと「汚職防止協力の覚書」を締結して以来活発に協力活動を展開しており、今回は国民申聞鼓の導入に関する協力事業を依頼され必要手続きを進めている。5月にはインドネシアのジョコ・ウィドド大統領が訪韓した際、2006年に締結された汚職防止協力の覚書を延長し、今後2年間にかけて汚職防止および撲滅分野での政策と優秀例の共有、技術支援、教育訓練、2者シンポジウムの開催などで協力を拡大することにした。
コリアネット ユン・ソジョン記者
写真・資料:国民権益委員会、行政自治部
翻訳:イム・ユジン
arete@korea.kr