水素バスが充填中の様子。エンジン音や排気ガスのにおいがなく、出発時には「ウィーン」というモーター音が、走行中には風に似た音だけが聞こえる=仁川、SKイノベーション
[仁川=シャルル・オデゥアン]
韓国が「水素モビリティ」時代の到来を早めている。
韓国政府は、2050年のカーボンニュートラルと2030年の国家温室効果ガス削減目標(NDC)の達成に向け、水素を「中核エネルギー源」として位置づけている。2023年に発表した実行計画では、エネルギー全体に占める水素の割合を7.6%から8.4%へと引き上げた。
これに合わせて、環境部は2030年までに水素自動車30万台と水素バス2万1200台を普及させる方針だ。また、水素充電所660カ所の建設も進める計画だ。国土交通部も同期間に、広域バスの25%を水素バスに転換する方針を掲げている。
液化水素は、これらの目標を実現するうえで中核的な役割を担う。
気体の水素をマイナス253℃まで冷却すると、体積は約800分の1に縮小し、輸送効率は10倍以上に高まる。充電所に必要な敷地面積も大幅に削減できるため、大型バスやトラックなど商用車の普及に適している。この技術を保有する国は、現在世界でわずか9カ国にとどまる。
液化水素ディスペンサー=仁川、シャルル・オデゥアン
現場の動きも加速している。仁川の京西(キョンソ)液化水素ステーションには、1日平均200台以上の水素バスが集まる。液体の水素を高圧で圧縮し、車両の燃料タンクに気体として注入する方式を採用している。充填時間は10分以内で、気体水素ステーション(約30分)に比べてはるかに速い。
この充電所に供給される液化水素は、仁川液化水素プラントから運ばれている。世界最大規模を誇り、韓国で唯一の液化水素生産拠点だ。昨年5月に稼働を開始し、1日最大90トン、年間3万トンを生産している。これは、水素バス約5000台を運行できる量に相当する。
SK仁川石油化学の敷地内にあるSK液化水素プラントでの出荷の様子。精製と液化の工程を経た液化水素は、6基の20トン貯蔵タンクに保管された後、12台の出荷設備を通じて、1日最大90トンまで運搬される=シャルル・オデゥアン
韓国政府も支援を拡大している。環境部は水素バスの導入や充電所の整備を支援しており、国土交通部は水素バスの燃料補助金を1キロ当たり3600ウォンから5000ウォンへと引き上げた。
普及の成果も、目に見える形で現れ始めている。環境部によると、今年5月時点で韓国国内の水素自動車は約4万台に達し、このうちバスが約2100台を占める。全国では、すでに420カ所の水素充電所が稼働している。
SKイノベーションの関係者は、「水素バスは現在、路線バスや通勤バスなどの大型車両を中心に運行している」と述べた。「1台あたりで年間72トンの温室効果ガスを削減でき、微細粉じんの低減効果も大きい」とも話した。
さらに、「サムスン、ポスコ、現代などの大企業が協力し、政府と民間が一体となって水素モビリティのエコシステムを育てている」と述べ、「これほどのスピードで水素モビリティが普及している例は、世界的にも類を見ない」と強調した。
caudouin@korea.kr