約600年前の1411年、朝鮮は飢饉に襲われ、民はひどい飢えに悩まされた。その年の11月、朝鮮の太宗は、各地にあった熟成した大豆500石でジャン(醤)を醸造し、民に分け与えるよう命じた。
1636年冬、満州族が朝鮮に侵攻すると、国王の仁祖と兵士らは南漢山城に避難した。敵に包囲されるなか、山城の中の食糧は米約1万4千俵とカンジャン200甕しかなかった。兵士約1万2千人が水を入れたカンジャンに穀物を入れてお粥をつくり、47日間耐え忍んだ。こうしてカンジャンは民の飢えをしのぐ国の貴重な食糧だった。
大豆を発酵させた調味料「カンジャン(Ganjang)」。韓国料理の基本となるなくてはならない調味料だ。韓国の食卓に「スーパーで買うカンジャン」を定着させた主役であり、「韓国カンジャンの代名詞」と呼ばれるのが「セムピョ」だ。1954年5月に特許庁に商標が登録された「セムピョ」は、韓国で最も古い調味料メーカーで、韓国のカンジャン市場で50%以上のシェアを占め、不動の1位を守り続けている。韓国の食文化を継承し、韓国の味を世界に発信する食文化企業「セムピョ食品」は、韓国独立直後の1946年にソウル中区忠武路に工場を建て、その歴史が始まった。
大豆を発酵させて製造したセムピョ食品の調味料製品。68年間積み重ねてきた発酵技術は、同社を国内シェア1位に押し上げた
現在、欧州市場で販売されている(左から)「ヨンドゥスン(Jang Sauce)」「和え物・炒め物用カンジャン(Jang for Wok)」「カンジャン(GanJang)」「カンジャンと酢の和え物用黒酢(Jang with Vinegar)」
「自分の家族が食べられないものは製造も販売もしない」という創業者の経営哲学を守りつつ、食品を製造してきた。1950年代に国内の調味料業界のトップランナーに浮上し、家庭でつくるのが一般的だったカンジャンを大量生産して流通市場を形成し、調味料の商品化・現代化を主導した。1987年には京幾道利川市に国内最大規模のカンジャン工場を建設した。現在、利川工場の生産能力は、単一のカンジャン工場としては世界最大で、年間8万キロリットルに上る。3代目、68年目を迎える長寿企業「セムピョ食品」は、国内にとどまらず、世界の人々の食欲を刺激している。1999年の海外輸出開始以来、世界72カ国でセムピョ食品のジャンとソースが販売されている。
セムピョ食品のロゴマーク。韓国で最も古い商標で、六角形は韓国の味の豊かさと多様性を表し、下の黄土色は丁寧に食品を製造する手を象徴している
カンジャンから「ヨンドゥ」へ 特に、セムピョ食品は、発酵技術の集約体である新製品「ヨンドゥ」を掲げ、海外市場で好評を得ている。「ヨンドゥ」は、“大豆”を発酵させて製造された製品で、全ての料理に用いることができ、材料の風味を引き出してくれる。
「ヨンドゥ」の開発は、カンジャンなど調味料の消費が減るなか、塩気を減らし、MSGを使用しない雰囲気が広がることで実現した。また、カタクチイワシや牛肉などが主材料である従来の天然調味料は、原材料の味が変わってしまうという問題を抱えていた。
2010年5月に発売された「ヨンドゥ」は、カンジャンの進化を示すターニングポイントとなった。「ヨンドゥ」は、大豆を発酵させることで味を引き出す成分であるアミノ酸の含量を高め、MSGや腐敗防止のための合成保存料(synthetic preservative)などを添加しない新しい概念の調味料だ。
セムピョ食品の関係者は、「朝鮮のカンジャンを復元する過程で、どんな料理に入れてもソース自体の味で食材の風味をなくしてしまうことなく、食材自体の風味を生かす、これまで経験したことのない特徴を発見した。その機能を適切な水準で維持する技法を開発し、海外の高級レストランのシェフらに紹介したら好評を受けた」と説明する。こうした特徴から、「エンドゥ」は米国で「マジックソース」と呼ばれている。
カンジャンの大豆発酵技術を現代的に生かした料理エッセンス「エンドゥ」は、食材本然の風味を引き出す「マジックソース」と呼ばれている
セムピョ食品は世界に韓国の味を発信しようと、2011年からスペインの料理科学研究所「アリシア研究所(Alícia Foundation)」と提携し、「ジャン・プロジェクト(Jang Project)」を推進している。カンジャンやコチュジャン、テンジャンなど韓国の調味料を欧州の料理に取り入れるための研究だ。ジャンに初めて接するシェフらが容易に理解できるよう「ジャン・コンセプトマップ」を制作するなど、韓国のジャンを利用した150種のスペイン・フランス・イタリア料理を掲載し、欧州に韓国のジャンを発信している。
スペインの料理科学研究所「アリシア研究所」と共同で制作した、韓国のジャンを活用したレシピ「ジャン・コンセプトマップ」。カンジャンやテンジャン、コチュジャン、ヨンドゥなど7種類の韓国の調味料と最もよく調和する食材やレシピが掲載されている
セムピョ食品の関心は、世界の食文化の発展だ。同社はソウル、京幾道利川市、忠清北道永同郡に分散していた研究施設を忠清北道五松邑に統合し、2013年5月に発酵専門研究所「ウリ発酵研究中心」を設置した。同研究所は、全国で約150種の菌類を収集し、新しい調味料を開発している。パク社長は、「伝統的なものを守ることも大事だが、食生活の変化に絶えず対応することも大事」と強調する。
コリアネット ウィ・テックァン記者、ユン・ソジョン記者
whan23@korea.kr
上の記事に関する詳細は、セムピョ食品のホームページ(http://www.sempio.com)をご覧ください。
忠清北道五松邑に立地する研究所「ウリ発酵研究中心」
カンジャン、コチュジャン、テンジャン、新しい概念の調味料「ヨンドゥ」など、セムピョ食品の調味料製品
セムピョ食品の利川工場。超大規模な公共美術によって様変わりした「アートファクトリー」と呼ばれている