ナヌムの家のエントランス。奥の建物がハルモニの生活館である「ナヌムの家」
[東京=吉岡香織(日本)]
[写真·動画=吉岡香織]
8月15日は、日本では終戦記念日と言われることが多いですが、韓国では「光復節」と言われます。1910年の強制的な「韓国併合」から約35年間という、長年にわたる植民地支配からの独立、解放の日として記憶されています。
日本と韓国との関係、歴史認識については、KOREA.netの「オピニオン」にも大変勉強になる重要な記事がたくさん掲載されています。そのひとつに、日本軍「慰安婦」制度の問題がありますが、被害者の方々(親しみを込めて「おばあさん」を意味する韓国語「ハルモニ」と呼ぶ)が暮らす「ナヌムの家」をご存知でしょうか?私はこれまで10回ほど訪問したのですが、ぜひ日本の方々に訪れていただきたいなと思っています。
ナヌムの家って?
日本軍「慰安婦」問題は1991年8月14日に、韓国の金学順(キム・ハクスン)さんが名乗り出て、日本政府を相手に裁判を起こし、問題解決を求める国際世論の高まりにつながりました(2013年から8月14日を「日本軍『慰安婦』メモリアルデー」と定め、世界各地でイベントが開催されています)。
当時、名乗り出たハルモニたちは生活が厳しく、安息の場所をということで国民からの募金を集め、1992年にソウル市・麻浦(マポ)区につくられました。1995年からは京畿道(キョンギド)・廣州(クァンジュ)市に移転しています。
ハルモニたちの生活館が「ナヌムの家」で、現在は4名のハルモニが暮らしています。到着するとまず、中央の広場に亡くなられたハルモニたちの銅像と平和の少女像があり、「歴史館(第1・第2)」、「追悼公園」、「教育館」、「映画『鬼郷』セット場」などもあります。
第1歴史館は、基礎知識を得られるような資料や、ハルモニたちの証言映像、慰安所を再現した模型の部屋、裁判をはじめとしたハルモニたちが闘ってきた記録などが展示された、「証言と体験の場」です。
第2歴史館に展示されているハルモニたちの描いた絵画
第2歴史館は、ハルモニたちの遺品や、連行された時の様子などの自身の記憶、恨(ハン)、希望などを描いた絵画の展示、証言に耳を傾けながら手形に手を合わせて気持ちを分かち合える追悼館など、「記憶と記録の場」です。
行き方は、ウェブサイト(日本語、韓国語、英語)に詳細がありますが、それ以外に新しく、ソウル地下鉄3号線の良才(ヤンジェ)駅9番出口から直通バス(3800番乗車・ナヌムの家下車<10停車駅、約1時間>)が運行しているので便利です。料金は2800ウォンとリーズナブル。USBで充電ができ、高速バスの旅気分にもなり楽しいです。
日本人スタッフの矢嶋さんが案内や解説をしてくれますので、ぜひ気軽に訪問のお問合せをしてみてください。
ナヌムの家ウェブサイト:
http://www.nanum.org/jap/sub1/sub1.php
お問合せ:nanum365@gmail.com
ハルモニとの交流〜体温を感じて
私が初めてナヌムの家を訪問したのは2017年でした。「水曜デモ」(日本政府の正式な謝罪と賠償を求めて旧日本大使館のそばの「平和の少女像」前で毎週12時から開催)には何度か参加していました。しかし、私はとてもおばあちゃんっ子だったので、ナヌムの家でハルモニにお会いしたら泣いてしまいそうなので、しばらくためらっていました。同時期に日本から渡韓するという友人に話したところ、ぜひ一緒に行きたいと言ってくれて初訪問しました。
「ナヌムの家」暮らしているハルモニの中で筆者が最も仲良しのイ・オクソンハルモニと、2019年の訪問時に撮った写真(左)と、歴史館に展示されている平和の少女像(右)
その時、ハルモニの一人は体の傷跡を見せてくれました。性暴行から逃げようとしたところ、日本兵に刀で刺されたという傷でした。私の目の前にいて、手を握ってその体温を感じることができる物静かで小さなハルモニが、10代〜20代という青春時代にどれだけ恐ろしく辛い思いをしたのか。2015年12月28日の「日韓合意」に納得ができないこと、安倍(当時首相)はなぜ謝罪をしないのか、などのお話しをされていました。
歴史資料はもちろんですが、実物のハルモニにお会いし、お話を伺ったり、心に深く刻まれた傷が描かれた絵画を見ると、日本で教えられることやメディア情報、日本社会の風潮は、たしかな情報ではないのだなと残念に思います。わからないと避けるにはあまりにも日本の罪は大きく、歴史や政治の問題以前に、まず人としての倫理観の欠如や、人権の問題であることを突きつけられます。
こんな悲しいことが二度と繰り返されないようにと、思い出すことさえ辛い体験を言葉にして私たちに伝えてくれ、90歳代半ばになっても闘い続けているハルモニを無視することは私には出来ません。そして、過去の植民地支配に責任はなくても、現在、そして未来は私たちにも関係のあることです。ひとりでも多くご存命のうちに、ハルモニたちの望む謝罪、補償、賠償、後世への継承がなされるように寄り添って、日本に向けて声を上げていかなくては、被害の歴史よりも記憶することが難しい「加害の歴史」の記憶に努力しなければ、と思いました。
友人とともに初めての訪問時。ここに写る4名中、現在ご存命なのは2名となった。
2022年7月、ハルモニに会えなかった
実は今回、ハルモニとの2年半ぶりの再会を心待ちにして「ナヌムの家」に向かったのですが、とても残念なことに、お会いすることができませんでした。
しかし、ハルモニがお散歩などで外に出てくることがあればお会いできることもあるかもしれないとのこと。また、ガラス窓で囲まれた1階の広間にハルモニたちが集まっている姿は、私も外から眺めることができたので、少しでもうれしかったです。
韓国内でもさまざまな問題があるようですが、ハルモニたちが良い環境で生活できるように、日本軍「慰安婦」問題の当事国である日本の市民だからこそ関心を持ち、日本からたくさんの訪問者が「ナヌムの家」に駆けつけることは、状況の改善に少しでもつながっていくかもしれません。
「ナヌムの家」といえば、BTSファン「ARMY」も関心を寄せているところですよね。日本からもさらなる関心が寄せられるよう期待しています。
問題を知るDVD発売
『「日韓」平和をつなぐ歴史紀行』というDVD(ダウンロード版もあり)が発売されます。これは、市民の力で作られ、たくさんの貴重な一次資料を展示している「植民地歴史博物館」や、「ナヌムの家」、「たびせん・つなぐ」「民族問題研究所」などにより、日韓に横たわる歴史問題の理解と解決の一歩につながるようにと制作された動画だそうです。日本軍「慰安婦」問題はもちろん、植民地化や独立運動の歴史、強制動員(徴用工)問題なども取り上げられています。
詳しく知りたい方はもちろん、本よりも動画がわかりやすいという方など、ぜひ多くの方に見ていただけたら、日韓の未来がより良い方向に変化していくのではないかと思います。
https://tabisen-tsunagu.com/onlinepost/kankokudvd/
*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
km137426@korea.kr