名誉記者団

2022.08.26

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大阪でたくましく暮らす在日の女性たち。映画のワンシーンより。

大阪でたくましく暮らす在日の女性たち。映画のワンシーンより。


[ソウル=大草紀子(日本)]
[写真=オ・ソヨン監督]

愛知県で9月8~11日に行われる「あいち国際女性映画祭」。この実写部門ノミネート作品として、韓国のオ・ソヨン監督のドキュメンタリー映画『もっと真ん中で』が、日本で初上映されます。

この映画は、日本国内で初めて「ヘイトスピーチ」関連、損害賠償訴訟を提起した在日コリアン2.5世のジャーナリスト、李信恵(リ・シネ)氏の裁判闘争を中心に、少数者および女性に対する複合差別を描いています。

「あいち国際女性映画祭」に続き、大阪・日本橋のロフトプラスワン WESTでも、9月11日(日)13時から、上映会(オンラインもあり)を開催する予定です。いずれも、オ・ソヨン監督が来場します。

日本での初上映で少しでも多くの方にこの映画を観てもらいたいと思い、オ・ソヨン監督にインタビューを行いました。

韓国の映画祭でトークイベントに登壇したオ・ソヨン監督(右)

韓国の映画祭でトークイベントに登壇したオ・ソヨン監督(右)


―まず、『もっと真ん中で』を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

「私は2014年頃に、日本にいる在日一世のハルモニ(おばあさん)たちの話を映像に残したいと考えて、大阪に通っていました。その時、大阪市役所前でヘイトスピーチをしているのをたまたま聞いたのです」 「その頃、私は日本語がほとんどできませんでした。何か日本人がうるさく騒いでいると思ったのですが、韓国のことを話しているようだったので聞いたところ、在日コリアンに対し、「韓国人は韓国に帰れ!」というようなヘイトスピーチをしていると、日本人に教えてもらいました」

大阪でのヘイトスピーチとそれに反対するカウンターの人たち

大阪でのヘイトスピーチとそれに反対するカウンターの人たち


「その時は、「そんなこと言われなくても、私たちはすぐ韓国に帰るよ」と言って、笑ってその場をやり過ごしたのですが、その後で、ゆっくり考えてみたのです。そして、自分たちは、そうやって無視することができるけれども、大阪で暮らしている在日の人たちは、どれだけ不快で、また怖いだろうというふうに思ったのです」

「その時に、初めて「ヘイトスピーチ」という言葉を知りました。韓国でもヘイトスピーチという言葉があるのかと思い、いろいろ検索をしてみました。当時、韓国ではほとんど知られていない言葉で、検索をしてもほとんど何も出てこなかったのです。しかし、唯一出てきたのが、反ヘイトスピーチ裁判をしている日本の李信恵さんの記事でした。その記事を読んで、「こんなすごい人がいるんだ」と思い、会ってみたいと思いました」

―それが、李信恵さんとの出会いのきっかけだったんですね。

「はい。大阪によく行っていたので、2015年の初旬に再び大阪に行った時に、知人の紹介を受けて、李信恵さんに会うことができました。そこで、反ヘイトスピーチ裁判のことを聞きましたが、当時あまり日本語ができなかった私には、裁判の話はとても難しく、これを映画にするのは自分には無理だろうと思っていました」

「しかし、大阪にいる間に、反ヘイトスピーチ裁判があり、李信恵さんと一緒に裁判所へ行くことになりました。そこで私が驚いたのは、日本の主要メディアがたくさん来て取材をしていたのに、韓国のメディアが全く来ていないことでした。韓国にも関わりがあり、とても重要な裁判であるにも関わらず、韓国のメディアが全くいないことにショックを受け、「自分だけでも何か記録しなければ」という思いからカメラを回し始めました。ですので、最初から、反ヘイトスピーチ裁判を中心に映画を撮ろうと思ってスタートしたのではないのです。「とにかく何か記録をして、韓国の人たちにも知らせなければ」という思いでいっぱいでした」

2021年6月、仁川人権映画祭でも上映された。

2021年6月、仁川人権映画祭でも上映された。


―こうして2015年に始まった撮影が、2018年に裁判の判決が出るまで続き、2019年に映画として完成しました。撮影・製作をしていく中で、監督の気持ちの変化がありましたか。

「初めに映画を撮り始めたときには、「日本の右翼が、過去の歴史を反省せず、韓国や韓国人を攻撃している。このことを韓国で知らせないといけない」という気持ちでした」

「しかし、撮影を続けていくうちに、なぜこんなことが起こっているのかを考え、これは単純な「日本VS韓国」の話ではなく、もっと根本的な差別の話であるということに気づいたのです」

「在日コリアンの差別だけではなく、LGBT(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとって組み合わせた言葉で、性的少数者を表す言葉の一つ)であったり、女性であったり、障害者であったり、あらゆるところで見られるマイノリティに対する差別、そして、複合差別の話であるということに気づいていきました」

「李信恵さんも、最初、「日本で朝鮮学校が差別をされている」という話を聞いたときに、単純に「差別をされている人たちがいる、それは良くない」というふうに考えたそうです。ところが、その後で「朝鮮学校が差別されているということは、自分も差別を受けているんだ、これは自分のことだ」と気づいたのだそうです。私も同じでした」

「このように、日本の反ヘイトスピーチ裁判の話というよりも、「世界中のどこでも起こっている、差別の姿を描かなければ」と思うようになりました」

撮影をするオ・ソヨン監督(左)

撮影をするオ・ソヨン監督(左)


―『もっと真ん中で』は2021年から2022年にかけて、韓国の様々な映画祭で上映されましたが、映画を観た韓国の人たちの反応はいかがでしたか。

「まず、残念なことに、コロナの時期に映画の上映が始まったので、観客のみなさんと直接会うのがなかなか難しかったのです。しかし、映画祭などで出会った大部分の方は、「日本でこんなことが起こっているのを知らなかった。知ることができて良かった」という反応でした」

「それから、「日本だけではない。韓国にも、どこにでも差別はある。自分たちも社会で差別をなくすために何か行動しなければいけない」という声もたくさん聞くことができました」

「しかし、それだけではなく、「日本はこれだからダメなんだ」という感想もありました。これは、私がさっき話したような、差別の姿そのものを描きたいという意図が伝わりきらず、「日本にはこんなひどい差別がある」とだけ受け取られてしまったということです。このように受け取られてしまうと、日本にいる在日の方々はもっと苦しい立場におかれると思います。そこは、監督として危惧するところであり、本当に伝えたい意図をもっと伝えていかなければいけないという思いもあります」

コロナ禍でも、昨年韓国ではいくつもの映画祭が開かれ、トークイベントや観客との出会いの機会があった。

コロナ禍でも、昨年韓国ではいくつもの映画祭が開かれ、トークイベントや観客との出会いの機会があった。


―今回、日本で初の上映が行われますが、日本の方たちに向けてのメッセージがあればお願いします。

「実は、韓国での上映の何倍も緊張しています。韓国では、ヘイトスピーチや複合差別という言葉を知らない人もまだ多いので、韓国人に知らせたいという目的でこの映画を作りました。しかし、日本では、この話をすでに知っている、という人も多いと思うので、そういう人たちに映画を観られるのは、どのような反応になるのか、怖くもあり、楽しみでもあります」

「 最後に、この映画を観てくださる方々に一番伝えたいことがあります。反ヘイトスピーチ裁判自体は、とても大変なものでした。しかし、当事者である李信恵さんも、周りで支えている人たちも、苦しい思いをたくさんしていたのに、いつも笑いながら、出来る限り明るく乗り越えていたのです。深刻さにとどまるのではなく、明るく、笑いながら乗り越えていく李信恵さんや在日の女性たちの姿から、私自身が学び、助けられた部分が本当に多かったのです。ですから、私も深刻な映画ではなく、最大限明るく作りました」

李信恵さん(左)と、彼女の朝鮮舞踊の先生である在日コリアン2世のカン・フィソンさん

李信恵さん(左)と、彼女の朝鮮舞踊の先生である在日コリアン2世のカン・フィソンさん


「映画のタイトル『もっと真ん中で』の“真ん中”は、韓国語では、李信恵さんが裁判の時に必ず着る”韓服”と、”真ん中”という両方の意味があり、いろいろな意味がかけてあります。長く大変な裁判を闘いながら、毎回「どんな韓服を着ようかな」とユーモラスに話す李信恵さんの姿がとても印象的で、彼女の強さや明るさを象徴する韓服という言葉を入れたタイトルにしました」

「このタイトルになるまでに、何度もタイトルを変えました。裁判やヘイトスピーチという言葉をそのまま入れようかとも思いました。しかし、映画には、たくましく生きる女性たちの日常的な姿がたくさん出てきます。その姿が、ヘイトスピーチの場面よりも、観ている人たちや私自身を力づけるということに気づき、それを反映させたタイトルにしました。ですので、深刻な話ではありますが、深刻な映画と受け取らずに、女性たちの明るさやたくましさを感じて、笑顔で観てもらいたいと思っています」

オ・ソヨン監督

*監督 オ・ソヨン

2003年からドキュメンタリーを製作。人権、女性、マイノリティの問題や解決策を中心に記録してきた。最近では、特にディアスポラ女性の歴史を映像で記録することに関心がある。冷たいカメラを超えた真実、そして人間とコミュニケーションする温かい記録者としてありたいと願っている。


*映画『もっと真ん中で』 のストーリー


大阪で生まれ育ったジャーナリストの李信恵氏は、ヘイトスピーチが始まった後、在特会など右翼団体に対する批判的な文を書くことになった。それをきっかけに右翼のターゲットとなり、日常が闘争のようになってしまった。そんな彼女が在特会を相手に「反ヘイトスピーチ裁判」を始める。カウンターや、彼女を支援する朝鮮舞踊の先生や、 在日コリアン女性たちと共に、長い裁判というトンネルを一緒に通る物語。

*あいち国際女性映画祭
https://www.aiwff.com/2022/

*大阪・ロフトプラスワン WEST上映会
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/226318?fbclid=IwAR0HCN1BcaRmOUSzzNk-yxPnIDBmpmD0RjOe3O4j364q6D0A4kyUWoFaH6M

*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。

km137426@korea.kr