名誉記者団

2023.10.27

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韓国の絵本=渡辺奈緒子さん提供

韓国の絵本=渡辺奈緒子さん提供


【文=岡本美砂】

皆さんは「多読」をご存じですか?

多読とは、辞書を引かずに理解できるやさしい本から選び、より多くの本を読むことで自然と言葉を身につけるというもので、主に語学学習として取り入れられています。

渡辺奈緒子さんは、2014年から韓国語多読の会のファシリテーターを務めています。

15歳までソウルで暮らし、現在は都内で「ことばの森ソルレム」という語学教室を運営しながら、ソルレム韓国語多読の会を主催している渡辺さん。韓国の絵本を日本へ紹介する活動に携わる渡辺さんに、幼少期を過ごしたソウルでの思い出、ことばの森ソルレムと韓国語多読の会立ち上げの経緯、韓国の絵本の魅力についてお話を伺いました。

渡辺奈緒子さん=岡本美砂撮影

渡辺奈緒子さん=岡本美砂撮影


【ソウルの思い出】

渡辺さんは、お父様の仕事の関係で、ソウル・龍山(ヨンサン)区東部の二村(イチョン)洞で暮らしました。このエリアは1970年代から日本人外交官や駐在員たち住み始めた日本人街として知られる街。韓国ドラマやK-POPがブームになる前の1980~1990年代、渡辺さん自身、日本人学校に通い、日常会話は日本語が中心で、ハングルを積極的に学ぶことより、日本の最新アニメや流行を追いかけるのに夢中で、韓国の絵本に触れる機会は全くなかったといいます。

ソウルから帰国した渡辺さんは、「在韓12年」の自分の韓国語のお粗末さに「これではいけない」と一念発起、韓国語を猛勉強し始めます。当時は、単語帳を作り、文法を覚え、難しいテキストにトライしては挫折するということを繰り返し、とにかくやらなくてはいけないという使命感で取り組んでいたそうで、大学在学中、多くの韓国人留学生と知り合ったこともあり、大学卒業後は日本語教師の道を歩み始めます。

【「韓国語多読の会」立ち上げ】

転機が訪れたのは、2014年。多読の世界に惹かれるようになった渡辺さんは、大学院で多読の研究を始めます。同年「NPO多言語多読」が行っている外国語習得活動のひとつとして「韓国語多読の会」を立ち上げます。

まず、韓国の子どもたちが読んでいる絵本を読んでみるのがよさそうだ、と考えたものの、当時渡辺さんは韓国の絵本を1冊も所有していませんでした。そこで、まず絵本を集めようと、ソウルへ旅行に行った際、教保(キョボ)文庫(韓国の書店大手)の絵本コーナーでまとめ買いしたり、区立図書館から団体貸し出しで絵本を貸していただいたりして本を収集していきました。活動を続けていくうちに、絵本の寄付も集まっていったといいます。

絵本の数が増えるにつれ、自然と韓国の絵本を読んでみたいという人も集まるようになり、参加者が思い思いに好きな絵本を手に取り、楽しむ場として「韓国語多読の会」は定着していきます。

より多くの絵本に触れるに従って「絵本は子どもが読むもの」という固定概念も変わっていきました。絵本を通じて韓国の伝統文化や暮らし、料理などに触れ、テキストにはないような親しい間柄で交わされる言葉に、ソウルに住んでいた時には気づかなかった、韓国の人々の生身の姿を見る思いがして、より親近感を感じるようになっていったそうです。

「韓国語多読の会」のみなさん=岡本美砂撮影

「韓国語多読の会」のみなさん=渡辺奈緒子さん提供


同じレベルの人としか接する機会がない韓国語教室とは異なり、初心者、上級者というレベルを超え、様々な人と交流しながら韓国絵本について分かち合える喜びを実感できること、何より韓国語がテスト目的の勉強でなく、ライフワークとして楽しめるようになったのは、多読のおかげと渡辺さんはいいます。

「以前英語の多読の会に10年通われているという方にお話を伺ったら、『読書が生きがいになっている』とおっしゃって。うらやましい、自分もそうなりたい、と思いました」。

7月16日に行われた「韓国語多読の会」に筆者も初めて参加させていただきました。この日集まったのは12名。中には5年以上毎月参加しているという方や、韓国出身で現在は日本で暮らしている方も。多読の3か条は、①辞書は引かない ②わからないところは、飛ばす ③合わないと思ったら投げる というもの。一つのテーブルに3~4名が座り、渡辺さんがテーブルに置いてくれたお薦めの絵本を手に取、1時間30分ほど思い思いに読書をしながら、各自に配られた「読書記録」に署名、著者、難易度、面白さ、感想を記入していきます。

1時間30分後、今日読んだ絵本の中で一番印象に残った本、お薦めしたい本を1冊選んで発表するほか、この日は韓国出身のメンバーによる読み聞かせの時間もあり、2時間にわたる多読の会初体験は、韓国語と接しながら「言葉は生き物」と感じるひとときでした。

7月16日に開催された「韓国語多読の会」=岡本美砂撮影

7月16日に開催された「韓国語多読の会」=岡本美砂撮影


【韓国絵本事情】

ここで、韓国の絵本事情を見てみましょう。『韓国絵本年鑑2022』によると、2021年に韓国で出版された創作絵本は557点。絵本を発行する出版社は645社あり、絵本作家は推定約2000人。2000年以後、様々なジャンル、手法による作品が次々と出版されるようになり、さながら群雄割拠の様相を呈しています。

2000年に人気作家のペク・ヒナさんがアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞、2022年にイ・スジさんが韓国人として初めて国際アンデルセン賞を受賞するなど、国際的にも注目される絵本作家が増えています。

地域を絵本で盛り上げようという動きは各地に広がっています。2019年に韓国政府の文化都市に指定された江原道・原州(ウォンジュ)市では、「絵本の都市」として今年から「絵本ビエンナーレ」を開催。全羅北道・全州(チョンジュ)市でも、昨年から「全州国際絵本図書展」を開催しています。韓国政府も優秀な絵本作品の海外進出を支援しようと、「今年の絵本大賞」を新設すると発表しています。

【大人のための絵本も】

国際的評価が高まるにつれ、韓国では「大人のための絵本」や「大人が読む絵本」にも注目が集まるようになりました。多読の会のメンバーにも愛されているシ・ソンミさんの『真夜中のちいさなようせい』は日本語にも翻訳され、2022年産経児童出版翻訳作品賞を受賞しました。

渡辺さんは、多読を通じて、韓国の人々に日本の絵本がとても多く読まれていることも実感したといいます。「原書と翻訳版を読み比べるという新しい楽しみ方も生まれましたし、韓国の人々が日本の絵本を読んでくれているということが、韓国の絵本をもっと読もうという意欲にもつながりました」。

日本で最も多く韓国の絵本を読んできたであろう多読の会の皆さん。その魅力を渡辺さんに聞くと「ダイナミックなところ」という答えが。「これからも韓国の絵本を日本の人々に届けて、その楽しさを分かち合いたい」。渡辺さんたちの絵本を巡る旅は、まだまだ続きそうです。

*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が制作しました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。

km137426@korea.kr