古家正亨
日韓文化ジャーナリスト
こういった状況の中、日本のメディアは今年に入ってから 「第4次韓流ブーム」という言葉を使いながら、ドラマ『愛の不時着』と『梨泰院クラス』、『サイコだけど大丈夫』の日本における人気に、改めて注目している。しかし、これらのコンテンツは、大手映像配信サービスであるNetflixが独占配信しているもので、これまでとは違い、局所的な人気になっていることを指摘しておかなくてはならない。当初は欧米のドラマを観るための配信メディアという印象の強かったNetflixも今や「 Netflixといえば韓国ドラマ」というイメージを持つ人も少なくないだろう。
これまで日本における韓流ブーム、特に韓国ドラマの人気は、地上波テレビから火が付いた。『冬のソナタ』『オールイン』『チャングムの誓い』といった作品は、BS(衛星放送)から地上波へのリレー放送が功を奏し、幅広い層にそのドラマの魅力が波及。有料チャンネルに未加入の者や韓国・韓流に興味のなかった者に対しても、それを知るきっかけを与えた。さらにDVD・ブルーレイ化、レンタルビデオを活用することで、多岐に渡るメディア戦略が日本の韓国ドラマ人気を支えてきたのである。
しかし、そんな状況に風穴を開けるきっかけになったのが、新型コロナウイルス感染症の拡大だった。この影響で、家で過ごす時間が増えるとともに、動画配信サービスへの加入者、特にNetflixへの加入者が急増し、その多くを占める20代・30代の、これまで韓国ドラマに興味のなかった世代において、偶然、韓国ドラマの人気が広がり、『愛の不時着』『梨泰院クラス』の面白さが、特にその世代で話題となった。つまり、新規ファン層の開拓という点で、コロナ禍とNetflixが大きな影響を及ぼしたことになる。そして、その新しい韓国ドラマの視聴者が、先に挙げた2作品以外の韓国ドラマに対しても関心を持ち、よりコアなファンへと変わっていく現象も少なからず見られるのは事実である。
だが、それ以上に今年、日本における韓流という点で特に注目してほしいことが、日韓が共同に作るコンテンツが新しい価値の創造につながったということ。TWICEを輩出した韓国のJYP ENTERTAIMENTと日本のSONY MUSICが合同で行ったオーディションプロジェクト、Nizi Projectを介してデビューした女性アイドルグループNiziUと、韓国のCJ ENMと日本の芸能事務所大手、吉本興業が共同で行ったオーディションPRODUCE 101 JAPANを通じてデビューしたボーイズグループ、J01の人気がそれにあたる。
この2つに共通していることは、韓国のエンタメ業界が培ったコンテンツ力と、日本の企業がこれまで培ってきた日本の音楽・芸能のシステムを使い、日本人で構成されるスターを、世界的なスターとして輩出するというプロジェクトであるということ。
そして興味深いのは、日本人で構成されているグループでありながら、どこか彼ら・彼女らからはK-POP的な香りがするのだ。筆者は、こういったスターをあえて「韓流系」と呼びたい。日本語でいう「系」とは系統を意味し、それそのものではないが、それに関する何か、およびそれを総称する際に使うが、例えば90年代、ファッション、ナイトライフ、若者文化の震源地として君臨していた東京・渋谷のCDショップが情報を発信したことで流行を作り出したJポップ・ミュージックを「渋谷系」と呼び、ジャンル化したことと同様で、ネイティブ韓流とは言えないが、韓国のノウハウが生かされたコンテンツは確かに韓流の味わいがあり、それと系統化する上では、これらコンテンツを「韓流系」と呼んだ方がいいのではないだろうか。
この「韓流系」はすでに、韓国の芸能事務所MAMAMOOなどを輩出してきたRBWによって、インドネシアやタイ、ベトナムなどで実践され、各国の芸能シーンに大きな影響を与え、中国でも韓国発のオーディション番組のリメイクを通じて、スターが輩出されている。日本以外の国では、韓流系スターがそれぞれの国のドメスティック・スターとして人気を博しているのだ。
日本を代表する映画監督、是枝裕和監督が、韓国の俳優ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナを迎え、韓国映画『ブローカー(仮)』を撮影することも、まさに世界を席巻する韓国映画、その勢いを借りた「韓流系」の作品であるように感じてしまう。
さらに言えば、今、日本の若者たちの間で流行している、「チンチャ(韓国語の「本当に」)それな」のような日本語と韓国語のミックス言語も生粋な韓国語ではなく、韓流系カルチャーの1つと言っていいだろう。
また、オンライン産業においては、いち早くコンサートやファンミーティングをオンラインで開催している。韓国のSM ENTERTAINMENTとIT大手NAVERが組んだ「Beyond Live」というオンライン・ライブ専門配信プラットフォームの成功は、世界中の音楽関係者に注目され、そこにJYP ENTERTAIMENTも合流するというニュースは、まさにより巨大な市場を韓国が手に入れるきっかけにつながった。そしてこれもまた「韓流系」として、そのノウハウ、プラットフォームの構築力が輸出されていくのではないだろうか。
これまで韓国はコンテンツそのものを輸出し、多くの財を得てきた。その人気コンテンツを輩出してきた韓国のエンターテインメント業界が生み出したアーティストの育成方法やAR・VRを駆使したオンラインコンサートの制作技術といった、これらノウハウを欲している国、企業は世界中に数多く存在し、その輸出は長期的な視野で韓国のコンテンツ産業の発展に大きく寄与していくはずである。
韓国は、かつては日本の芸能や芸能界のシステムを参考にし、音楽・映像コンテンツを作ってきたが、今や、そのノウハウを日本に輸出する力を持つまでに至った。科学の分野で、基幹技術や基礎研究が評価されるように、コンテンツ産業の分野においても、今後は、そのアイディア、育成方法といったものに対する評価が高まり、それがその国のコンテンツ産業の評価を高めることにつながっていくだろう。そういう意味で考えれば、「韓流」から「韓流系」へと進化する、韓国のコンテンツ産業の深化は、今後日韓の文化交流により大きな影響を与えていくに違いない。
古家正亨さんは、2000年から日本の数々のラジオ、テレビ番組で韓国文化を伝えている。2009年に韓国政府から日本人としては初めて、日本におけるK-POP普及に貢献したとして「韓国政府褒章文化体育観光部長官褒章」を受章した。