オピニオン

2021.11.19

他の言語で読む
Hong Hyun-Ik profile


洪鉉翼(ホン・ヒョニック)
国立外交院長


平和・気候・経済 先導国家外交

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10月28日から11月5日まで、イタリア・ローマ、英国・グラスゴー、ハンガリー・ブダペストを訪問した。今回の歴訪の主な目的は、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)と国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)への出席だったが、韓半島平和プロセス基盤作りや気候変動策における手本国家としての地位の強化、経済における実利の追求に重点を置いて行われた。

文大統領は10月29日、韓半島平和の新たな成長動力を作るため、3年ぶりにフランシスコ教皇と面会し、北朝鮮への訪問を要請し、「招待状を送ってくれれば、平和のために喜んで行く」という教皇のメッセージを国際社会に伝えた。イタリア・ローマの聖イグナチオ・デ・ロヨラ教会で「鉄条網、平和になる」という展示会を開き、韓半島平和の至急性も発信した。教皇庁の聖職者省長官である兪興植(ユ・フンシク)大司教は「教皇庁も教皇の北朝鮮訪問に向けて取り組んでいる」と説明した。

*同展示会では、錆が付いたDMZの鉄条網で作った136の十字架を利用して韓半島の形を表現した作品が展示された。136の「平和の十字架」には、韓国戦争以来68年間、南北(韓国と北朝鮮)の分断の傷を癒して平和を願うという意味が込められている。 10月30日、G20サミットに出席した文大統領は、新型コロナウイルスの克服や世界経済の回復に向けたG20の協力を強調した。新型コロナの感染対策と経済社会活動との両立を図る「段階的な日常回復(ウィズコロナ)」の経験を他の全ての国と共有するなど、韓国の貢献策を節恵美氏、韓国のワクチン供与拡大及び「ワクチン製造のハーブ」としての役割も強調した。

文大統領はG20サミットを契機に、欧州連合(EU)、フランス、オーストラリア、ドイツの首相などと二国間会談を行った。文大統領が南北米対話の早期再開を強調すると、フランスのマクロン大統領は「いつでも(韓国が)必要とする役割と貢献を果たす」と答えた。ドイツのメルケル首相も南北関係の改善や韓半島の平和定着に向けた韓国の取り組みを引き続き支持すると表明した。文大統領は、バイデン米大統領とも面会し、教皇の北朝鮮訪問への意向を伝え、「韓半島問題の解決において進展がある」という評価を受けた。

英国・グラスゴーで開かれたCOP26の基調演説で文大統領は、2030年までに温室効果ガス削減目標を引き上げ、「2018年比で40%以上削減する」と発表した。また、「開発途上国の森林回復のために積極的に協力する」とし、「南北が協力すれば、韓半島全体で排出される温室効果ガスを削減することができる」と強調した。COP26を通じて韓国は気候変動対応策において手本となり、先進国と途上国の間で架け橋としての役割を果たしたと評価された。 外交部の鄭義溶(チョン・イヨン)長官はローマで、米国のブリンケン国務長官、中国の王毅国務委員兼外相とそれぞれ会談した。グラスゴーでは英国のトラス国際貿易相と会談し、1カ月の間に国連安全保障理事会常任理事国の外相全員と一対一の会談を行った。

ハンガリー・ブダペストを訪れた文大統領は、ハンガリーとポーランド、チェコ、スロバキアの東欧4カ国(V4)の首脳とそれぞれ二国間会談を行った後、スロバキアのへゲル首相とも会談を行い、意見を交換した。韓国の対EU交易の規模の中で、2番目に大きい対象であるV4との首脳会談は、韓国とEU加盟国の国家グループの間の唯一の首脳級会談である。今回の会談は6年ぶりに行われた第2回目の会談。会談の結果、V4は韓国の終戦宣言提案を歓迎した。両側は、電気自動車・バッテリー・原発における協力を強化し、V4の基礎科学力や韓国の情報通信技術(ICT)などの応用化学の競争力を結合し、第4次産業革命時代を共にリードするビジョンを共有した。V4の現在の議長国であるハンガリーは、脱冷戦時代に韓国が北方外交に乗り出すきっかけを作った国である。韓国は2019年、ハンガリーにとって1位の投資国となった。文大統領は20年ぶりにハンガリーを国賓訪問し、ハンガリーを含めV4との連携を強化することで、北東アジアー中央アジアーロシアー中部欧州を繋ぐ「新ユーラシアルート」を開くことになった。

結果的に、文大統領は新型コロナウイルスの感染拡大以来、経済回復や気候危機への対応など、グローバルな課題の解決における韓国の先進国としての地位を確認し、強化した。経済利益を増進する外交を行うと同時に、韓半島平和プロセスの回復に向けた外交基盤も拡大した。


今後の課題と韓国の対応策

教皇の訪朝は、北朝鮮の招待が前提条件となる。3年前、文大統領が北朝鮮の平壌(ピョンヤン)を訪問した際、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が教皇を招待する意向を示したものの、まだ招待状を送っていないため、今のところ実現可能性は未知数である。教皇は高齢であり、最近は手術も受けた。さらに、教皇の外国訪問は通常1年前に確定される。文大統領の任期中に教皇の訪朝が実現するには、金委員長の招待状が早期に送られるべきである。北朝鮮が新型コロナウイルス対策の国境封鎖を続けていることもネックになると思われる。

文大統領と日本の岸田文雄首相との会談も行われず、日本との関係改善も今後の課題となった。COP26は100カ国以上の国が参加した大規模な会議であるうえに、岸田首相の英国滞在時間も短かったために、動線が重ならなかった。米国が韓半島の平和回復に対する日本の役割を強調しているため、日本の協力を確保するための外交努力が必要だ。

最も大きな課題は、米朝交渉の再開に向けた相互信頼の回復のエンジンとなる「終戦宣言」である。現在、北朝鮮は興味を示しながらも、二重基準及び対北朝鮮敵視政策の撤回を条件としている。これは、韓米連合訓練の中止と制裁緩和を求めるものとみられる。米国も終戦宣言を北朝鮮への贈り物とみなし、北朝鮮が米朝交渉のテーブルにつけば、議論できるという立場である。北朝鮮は、敵視政策が撤回されるまでは対話しないという立場を堅持しており、文大統領の提案に進展がない状態が続いている。

韓国政府は北朝鮮と米国の両側に対し、さらに積極的かつ能動的に外交を行うべきである。北朝鮮には、2018年に金委員長が文大統領に確認したように、終戦宣言が在韓米軍や国連司令部の地位に影響を与えない象徴的な行為であることを公表するよう説得しなければならない。バイデン政権には、シンガポールで米朝が合意したことを、北朝鮮は一部履行したものの、トランプ前大統領は履行しなかったことを想起させる必要がある。合意内容の一部でも履行し、北朝鮮からの信頼を回復しなければ米朝対話は再開できないと説得し、終戦宣言を条件なしで受け入れるようにしなければならない。北朝鮮が約束を守らなければ再び制裁を再開する「スナップ・バック(snap back)」条項を適用し、北朝鮮に対する制裁のうち人道的な部分を緩和すれば、北朝鮮の非核化をけん引できることを示さなければならない。

文在寅政権は残りの任期の最後まで、外交分野において最大限の努力を払わなければならない。北朝鮮と核を巡る問題を議論する会談を再開させ、南北関係を改善するなど、韓半島情勢を正常化して次期政権に渡すべきである。