途切れなく水が流れるようなデザイン。外部はすべて曲線で、建物の中には柱が全く見られない非定型建築物。英国在住のイラク人建築家ザハ・ハディド(Zaha Hadid)氏が設計した東大門デザインプラザ(DDP)は、まるでソウルのど真ん中に降りた巨大な宇宙船のようだ。
21日のオープンを前にソウルを訪れたハディド氏は、「建築と自然の垣根を取り除きたかった。ソウルの東大門デザインプラザは、建築物を地形に溶け込ませる作業だった。大変苦労したが、構想通りに完成させることができた。建築物が地形の一部になったことがDDPの特徴」と語った。
ハディド氏は、最高の建築家に与えられるプリツカー賞(Pritzker Architecture Prize)を2004年に女性としては初めて2004年に受賞した。彼女はDDPの他にも、オーストリア・インスブルックのベルクイーゼル・スキージャンプ台(2002)やドイツ・ライプツィヒのBMWセントラルビル(2005)、イタリア・ローマの国立21世紀美術館(MAXXI)(2010)、2020年東京五輪メインスタジアムなどを設計した(東京五輪メインスタジアムは予定)。DDPはハディド氏の韓国での初めてのプロジェクトで、世界最大の3次元非定型建築物だ。
見る角度によって全く違う様相に見えるDDPの外部(写真提供:ソウルデザイン財団)
彼女は長きにわたって建築界の「ペーパー・アーキテクツチャー」と称されてきた。図面上に設計しても、実際の建築にはつながらないことは異なる場合が多かったからだ。デザインは型破りで思い切ったものだが、簡単には妥協しないため、図面上の設計だけで終わってしまうケースが多かった。彼女のデザインの特徴は、途切れも境界もないことだ。建物だけでなく、家具からファッション、アクセサリーまで彼女の手が行き届いていないものはない。
ハディド氏は、2007年の国際公募で選ばれ、DDPプロジェクトに参加することになった。DDPはソウル市が東大門スタジアムを撤去し、「市民とともにつくって楽しむデザイン」を目指してつくられた施設だ。設計の主要コンセプトは、建物が周辺の地形に溶け込むことだ。周辺の公園と有機的に調和するよう設計され、コンセプトを充実に形にした建築物が完成した。
DDPの特徴は、見る角度によって全く違う様相に見える複雑なデザインだ。一方で外部の壁面を同一色のアルミニウムパネルで覆うなど、表面がシンプルで落ち着いた雰囲気になるよう設計されている。
DDPのアートホール第1館(上)と第2館(下)(写真提供:ソウルデザイン文化財団)
地下2階~地上4階の造形階段(写真提供:ソウルデザイン文化財団)
ザハ・ハディド・アーキテクツ(Zaha Hadid Architects)のパートナーであるパトリック・シューマッハ(Patrik Schumacher)氏は、「DDPは一つの造形物だが、規則性がなく、見る角度によって新たな形とイメージがずっと展開していく。見知らぬ土地を歩いているような感覚だ。ポイントは、この建築物が途切れなくつながることで統一感を与えていること」と語った。
また、「DDPの建築概念はとても独創的で他に類を見ない。私たちが目指した概念と建築物が形になってようやく市民の理解を得られるようになった。当初はデザインに違和感がありすぎるという指摘を受けたが、今はだいぶ雰囲気が変わった。そうした過程はどの作品にもあること」と話した。
最先端技術で建築された東大門デザインプラザ
DDPは建築費だけで約5千億ウォンが投じられた。地下3階、地上4階、延面積8万5320平方メートルにコンベンションホールやアートホール、展示館、スタジオ、ビジネスセンター、便宜施設といった複合施設が建設された。柱がなく、曲線だけで形成されたこの建築物の設計を形にするために、最先端の設計技法「BIM(Building information modeling)」が導入された。これは、2次元の平面的図面の情報を3次元の立体設計に転換し、設計や施工、維持管理などに活用する技法だ。また、柱のない室内にするために、超大型の屋根「メガ・トラス(Mega-truss)」やスペース・フレームといった新たな技術が適用された。
DDPは構成も劇的だ。階層がわかりにくいほど多様な空間が重なっており、螺旋状にの階段を上っていくとギャラリーがある。特に、コンベンションセンターであるアートホールのオープンスタジオは、2992平方メートルの面積に天井の最高地点9メートルと、完全に筒抜けの空間が売り物だ。地下2階~地上4階は、螺旋状の造形階段でつながっている。
DDPのオープン前に開かれる「Zaha Hadid_3600」のギャラリー(写真:イム・ジェオン記者)
果てしなく曲線が続くDDPの外部(写真:イム・ジェオン記者)
東大門スタジアムの跡地で発見され、保存されている遺跡(写真:イム・ジェオン記者)
DDPの外部は、4万5133枚のそれぞれ違う形のアルミニウムパネルで覆われている。4ミリのアルミニウムパネルの制作は、工事の成功を左右する難しい作業だった。ハディド氏は、2次元の曲面パネルを制作するために、初めは英国とドイツの企業に制作を依頼したが、非定型パネルの制作は一つひとつが手作業で行われるので、すべて完成するまで20年はかかるという返事だった。数多くの試行錯誤を重ねた結果、韓国の技術で最先端の成型装備と切断機を開発した。それで計6件の特許を取得し、ハディド氏は自らが世界で設計したデザインを形にするために韓国の外装パネルを紹介している。
サムスン物産のイ・サンギュ公務チーム長は、「世界でも類を見ない建築物だけに、参考にする資料もなく、簡単な工事ではなかった。決められた費用と期間の範囲内で外装パネルの工事を完成させるために、金属成型分野におけるあらゆる技術を総動員した」と語った。
‐3月11日にDDPで開かれたザハ・ハディド氏の記者会見で、彼女のに自身の建築の世界について聞いた。
11日に開かれた記者会見で、DDPのデザインコンセプトについて説明するハディド氏(写真:イム・ジェオン記者)
- DDPの設計で最も重視したことは。
- 目標は、ソウルで最もにぎやかで由緒ある街「東大門」にの文化ハブをつくることだった。ここで開かれる展示やイベントが周辺に文化的活力を与えられる設計にしたかった。城郭の痕跡を生かしつつ公園とDDPを調和させ、水の流れのような滑らかな線を描きたかった。周辺に緑地が全くないことも考慮した。最先端技術を駆使し、建築物と自然の垣根をなくし、これらを一つの風景そのものにしたかった。
- 多くの曲線を用いたわけは。
- カーブが好きだからだ。20年前から様々なプロジェクトに関わりながら、地形と建築物との調和について深く研究した。大型プロジェクトは広い敷地に建築されるため、地形の特性を考慮しないわけにはいかない。地形を意識すると、どうしても曲線が多くなる。見知らぬ土地を歩いて周囲を見渡すと、直角よりも曲線が多い。だから、曲線が多くなるのだと思う。
-DDPと他の作品との違いは。
- すべての作品の共通点は、場所によって(site specific)設計が大きく変わることだ。地形を考慮した建築物を設計しなければならない。どんなプロジェクトでもそれが悩みだ。DDPの設計では、地形と建築物の調和の面でという新たなアプローチを試みたのではないかと思う。このその敷地の特性、歴史的背景、建築物の調和を追求したら、独創的(original)な建築物が完成した。
- 世界各地の都市は、デザインの観点から見てどうか。
- いろいろな都市に行ってみたが、欧州とアジアとでは都市の様子が全く違う。都市ごとにそれぞれ固有の伝統によって生まれた特性があるのは当然だ。多くの都市がグローバル化を目指しているため、共通していることも多くある。ソウルはグローバル化を目指して懸命に取り組んでおり、正しい方向に向かっている。ソウルが向かうべき道は、都市性(urbanism)をいかに形にするかということだ。
DDPのオープン前に開かれる「Zaha Hadid_3600」のギャラリーでポーズをとるハディド氏(写真:イム・ジェオン記者)
- どこに独創性が見られるか。
- 建築物を地形に溶け込ませるのは困難な作業だ。建築物が地形の一部になったのだ。それが独創性だ。屋根が芝生で覆われているのを見ても、この建築物が存在することによって新たな地形が人工的に創造されたのだ。展示スペースも箱型ではなく、展示場自体が地形に溶け込んでいるのが独創性だ。
- 本来のデザインをどこまで形にすることができたか。また、完成したDDPに満足しているか。
- 設計図が完成し、建築物が建てられれば、もう一つの次元が生まれる。実際に建築資材が使用されれば、その材質の特性によって建築物は固有の姿を持つ。従って、設計図とは違う感覚と雰囲気が生まれてくる。建築というものは、設計図を解釈する過程だ。DDPは、独創的なアイデアをうまく解釈できたという点で成功したといえる。
- 歴史的・文化的要素をどのように考慮したか。
‐(シューマッハ)東大門スタジアムを撤去してデザインプラザを建てようというのは、ソウル市の決定だった。公募展に応募したときに、地形と調和した建築物にすることと、スタジアムがあったことを設計に反映させてほしいという要請があった。それで、スタジアムで使用されていた投光照明(floodlight)を保存することにした。抽象的ではあるが、スタジアムの雰囲気が出るようにでザインした。
- 展示スペースとしての建築物のデザインの違いは。
‐(シューマッハ)コンピュータシミュレーションを駆使して曲線の流れ、途切れのない流れをつくり出した。「都市性(urbanism)」という哲学を表現するよう努めた。インテリアデザインも製品デザインにすべて当てはまる。DDPはとても複雑な建築物なので、コンピュータシミュレーションを駆使する必要があった。意図的に曲線を多く用いたした。多目的空間の置かれた施設で複雑性を表現するには、視覚的に落ち着いた雰囲気にする必要があった。直線だと混沌とした雰囲気になってしまうからだ。しかし、曲線を利用することで、複雑でも落ち着いた優雅な雰囲気を生み出すことができだ。
‐デザインと建築は似ていると思う。しかし、建築のほうがはるかに複雑で難しいと思う。建築空間の中に空間があり、重なり合った空間があり、それを設計しなければならない建築のほうがはるかに複雑だ。デザイン会社は様々な規模でデザインをすることができる。基本的な概念で指環のデザインと建物のデザインは似ているかもしれないが、完成品をつくり上げる上でもっと複雑なのは建築だ。
- スケールが大き過ぎるのではないかという指摘があるが、どう思うか。
- 何を基準にそう言っているのか問いたい。スケールは建築家に与えられたものだ。DDPは家や事務所の設計とは違う。特定の機能を充たすためにデザインしたものだ。地形と調和させるために曲線を多く用いたした。しかし、直線的な箱型の建築物では地形と調和することができず、もっと大きく見えていたはずだ。定められた機能や人員を受け入れるためには、縮小することはできない。要件が違えば別のプロジェクトになっていただろう。
- 都市のデザインという観点からソウルが目指すべきことは。
- どの都市も地域の特性を考えて建築に生かさなければならない。交通手段などの変遷とともに、多くの都市が大きな変化を遂げてきた。都市の成長と特性も考慮しなければならない。都市の姿を変えることにおいて、新たな建物を建設することにだけ執着するのではなく、都市が変化する特性を建築に反映させなければならない。
- 女性として建築家のトップの地位を確立した。「建築は終わりのない格闘」と表現したが、その意味は。
- 建築家は非常に困難で辛い職業だ。建築家は同僚や政治家、建築主らを絶えず説得しなければならない。女性にとってそうした戦闘が苦労であるのは事実だ。私はこの30年間、女性建築家として認められるためにずっと障害物にぶち当たってきた。最近は環境が大きく変わり、女性に対する差別や偏見はだいぶ減った。でも、今でも女性にとって大変な職業であることに変わりはない。
コリアネット イム・ジェオン記者
jun2@korea.kr