ひと

2016.07.19

キムチ、ホンオ(ガンギエイ)、クァメギ、チュオタン、チョングクチャン…。これらはどれも英国出身のフードコラムニスト、ティム・アフパー(Tim Alper)さんの好きな韓国料理だ。これらの料理は、強烈かつ独特な味と香りのため韓国人の間でも好き嫌いが分かれる。

もちろん、このような料理を好んで食べる外国人を度々目にすることはある。しかし、アルパーさんは料理だけでなく、その料理が生まれた文化と歴史的な背景にフォーカスを当てる。

彼は、料理は哲学的な思惟による産物だと考えているからだ。このような考え方には、彼が哲学を専攻したという独特なバックグランドに理由がある。アルパーさんは先月に発刊された『バナナとクスクス』で、このような視点から欧州の代表的な食べ物を韓国の読者に紹介している。

팀 알퍼 씨는 ‘우리가 먹는 음식과 음식 선택 과정에는 철학적인 사유가 녹아들어 있다’며 음식과 관련된 문화와 역사를 알게 되면 더 음식을 잘 알고 즐길 수 있다고 말한다.

ティム・アルパーさんは「私たちが食べる料理と料理を選ぶ過程には哲学的な思惟が溶け込んでいる」と、料理と関連する文化と歴史を知れば、その料理をより一層楽しめると語る



同著作でアルパーさんは、ピザやパスタなど広く知られる欧州の料理が作られた背景を単に説明するだけにとどまるのではない。長い旅行で経験し培った欧州料理に関する知識と韓国の代表的な庶民の料理が生まれた背景を繋げ、韓国の読者に自然な形で欧州の食文化の世界へと導く。ここには彼特有のユーモアも一役買っている。

いつかは小さな田舎で自分が営むレストランを開きシェフになるのが夢だと語るアルパーさんに会ってきた。

알퍼 씨는 최근 펴낸 그의 책 ‘바나나와 쿠스 쿠스’에서 유럽음식에 대한 철학적인 접근을 시도하며 동시에 한국음식문화와 유사점을 찾는다.

この度発刊されたアルパーさんの著作『バナナとクスクス』は、欧州料理に対する哲学的なアプローチを試みると同時に韓国の食文化との類似点を探す



- 『バナナとクスクス』という本を書いた動機は?
ヨーロッパ料理やヨーロッパ旅行に関する本は、すでに韓国にたくさんある。だが、ヨーロッパを旅行する韓国人のほとんどが限られた時間でより多くの活動をして、よりたくさんの地域を見ようとする。そんなハードスケジュールのなか、果たしてどれだけの人が実際にヨーロッパの料理を味わい、その料理の根底にある文化を経験するだろうか。私が本を書いたのは料理と料理に関する文化、その料理の由来などについてより知ってもらうためだ。
たとえば、たくさんの人がレストランでスペイン料理の「パエリア」を注文するが、その料理がスペイン料理なのか、スペイン人はどんなときにその料理を食べるのか、料理するのにどれくらいの時間がかかるのかなどは知らない場合がほとんどだ。

- 同作は料理本ではないが、いくつかの料理の調理法が紹介されている。一方で欧州の歴史や文化を紹介するガイドブックのようでもある。どのような読者をターゲットにして書いたのか?
ヨーロッパ旅行を計画していたり、最近行って来て自分が食べたヨーロッパ料理に興味を持って、その料理が生まれた背景や関連する文化、歴史について知りたいと思う人のために書いた。実際に料理の由来や起源、そこに溶け込んでいる文化は非常に重要で、実際に興味深くもある。
調理法を入れた理由は、韓国の読者にその料理が本来どのような料理なのかを知ってもらうためだ。手軽に作れる料理を中心に、韓国で手に入る食材を使った調理法をいくつか紹介した。調理法を見ながら実際に作ってみれば、その地域を旅行してみたいと思うかもしれない。ロシア編では「ボルシチ」を紹介し、とても簡単に作れる調理法も載せておいた。韓国人が実際にロシアを訪れ、ボルシチを食べるのはそう簡単ではないと思う。そんな人にその料理がどんなものかを知ってほしくて調理法を入れた。

- 同作には多様なイギリス風のソースをわかりやすく紹介した「イギリス風ソース・ナビゲーター」や「ワインに詳しいフリができる12の知識」など実生活で使える面白い情報も盛り込まれている。このような内容を入れた理由は?
本を構想するときから、各章の分け目に読者の興味をそそり、かつ使える情報を入れたいと思っていた。イギリス、フランス、スペイン、ウクライナなどを数年間にわたり旅行した自分の経験をもとに、ヨーロッパ料理を人類学的な視点から紹介したかった。

- 「フィッシュ・アンド・チップス」など料理の調理法がところどころにあるが、調理法を紹介した料理を選ぶ際に何か基準はあったか?
自分でもよく理解していて、個人的な経験を紹介できるものを中心に選んだ。たとえば、印象深かった料理やその国を代表する文化的な重要性を持つ料理を紹介した。

알퍼 씨는 돌솥, 장독, 발효 등은 유럽의 음식문화에서 찾아볼 수 없는 귀한 자산이라며 한국의 음식문화를 높이 평가한다.

「韓国のトルソッ(石釜)、チャントク(陶製のかめ)、発酵などは欧州の食文化には見られない貴重な財産」と語るアルパーさんは韓国の食文化を高く評価している



- 欧州地域の食文化のうち、韓国と最も似ている地域があるとしたら? また、その理由は?
あらゆるものは、それぞれ違った形で結びつけることができると思う。どれか1つを挙げて「これが韓国と最も似ている」と言うのは簡単ではない。その理由は、韓国の食文化がとてもユニークだからだ。韓国は小さな国だが、大きさに比べて非常に多様な食文化を持っている。韓国に暮らして9年目になるが、今でも新しいものとの出会いが尽きない。
イギリス、フランス、スペイン、ウクライナなど様々な地域を旅行したが、韓国ほど多様な食文化がある国は見たことがない。韓国料理は辛くて味が強いとよく言われるが、実は必ずしもそうではない。辛い料理やにんにくが入った味の強い料理が苦手な人でも、美味しく食べられる韓国料理はいくらでもある。とくに、韓国料理の進化は驚異的と言わざるを得ない。
以前、初めてトルソッに入った料理を食べたときは、手をやけどした。トルソッがそんなに長時間熱を保っていられるとは思ってもいなかったのだ。せいぜい5分か10分程度で冷めると思っていた。それで手に軽いやけどを負った。熱を加えなくても料理の温度を最後まで保つことのできる釜を韓国人が開発したのだ。ヨーロッパにはそんなものは存在しない。チャントクもそうだ。発酵食は冷蔵庫に保管する必要がない。実に素晴らしい方法だ。なぜヨーロッパにはこのような文化がないのか理解できないくらいだ。金属製のスプーンと箸もそうだ。韓国は他の地域に比べ外部からの影響をそれほど受けてないはずなのに、これだけの食文化を持っていることには驚かせられる。

- 同作ではビビンバ、マックッスなどの韓食を語るうえで、ヨーロッパ料理や食文化に対する説明を韓国の料理と食文化に結びつけている。韓国料理と食文化に興味を持ったのはきっかけは?
料理と食文化については常に興味を持っていた。私の初めての職業はスー・シェフ(sous chef、副料理長)だった。だが実は、厨房の仕事はとてもストレスの溜まるものだ。『ヘルズ・キッチン~地獄の厨房』のゴードン・ラムゼイ(Gordon Ramsay)のような人を思い浮かべてみてほしい。私はその番組は絶対に見ない。昔のことを思い出すからだ。厨房のシェフは誰もがそんな感じだ。料理に関する文章を書くことのほうが自分に合っていて、夢中になれる仕事だと思う。
韓国の料理と食文化は、9年間韓国に住みながら学んだものだ。2000年代初めに韓国に何度も訪れる機会があったのだが、そのときに自然と関心を持つようになった。私は主に外国人の観点から見た韓国料理について書いている。イギリス人が異文化圏の観点から見たイギリス料理に興味を持つのと同じだ。

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알퍼씨는 책에서 자신이 직접 만든 요리사진과 함께 조리법을 소개했다. (위쪽부터) 사진은 뇨끼와 바질 페스토(Gnocci con Pesto di Basilico), 파에야(Paella), 피시 앤 칩스(Fish and chips).

アルパーさんは自らの著作で自分が作った料理の写真と調理法を紹介している。(上から)ニョッキとバジリコのペスト、パエリア、フィッシュ・アンド・チップス



- 哲学を専攻したシェフは珍しいのでは。哲学と食をどのように結びつけることができるか?
哲学はあらゆるものと結びつけることができる。「なぜ?」と質問することそのものが哲学的なアプローチだ。人々は常に「選択」をする。韓国人は無数にある選択肢のなかで、ピザやポテトチップスではなくご飯と汁物、おかずを選んで食べる。その選択の理由に疑問を投げかけることが、哲学を食に繋げる方法だ。なぜその料理を選んだのか、なぜその料理は人々にとって重要なのかを問うことであり、このような形で哲学が食に影響を与えるのだ。
ニーチェのような哲学者は食べ物を特別なものとは考えなかったが、逆に食べ物を重要なものと捉えた哲学者もたくさんいる。実は、シェフの仕事や言葉にも哲学的な側面が多々ある。彼らは哲学者がそうであるように、様々な話題とメタファーを使って話す。進化を遂げた料理の足跡には哲学的な判断がたくさん詰まっている。「食べ物がある者のアイデンティティを決める」と言っても過言ではないだろう。今日のような現代社会で食べ物以外の何をもって個人を差別化できるだろうか?

- 同作で8歳の頃に作ったバナナケーキが人生初の料理と明かしている。9年間の韓国生活で、初めて作った韓国料理は? また、よく作って食べる韓国料理は? 反対に、作るのが一番難しかったり苦手な韓国料理は?
初めて作った韓国料理(?)はキムチだった。2005年から2006年にかけてイギリスで暮らしている頃だった。韓国に何度か来ているうちに韓国人の友達もたくさんでき、キムチを知って大好物になった。個人的にはフュージョン韓食よりは伝統的な韓食が好きだ。キムチを家で直接作ってキムチチゲ、キムチピラフ、キムチスープなどを作って食べてみたかった。イギリスでは食べることができなかったからだ。初めてにしてはなかなかのできだった。キムチは色々な面で良い食べ物だ。 最近ではイギリスでもキムチに対する関心が以前より高まっている。一度作っておいて冷蔵庫で保管すれば何カ月も食べられる。いつだってカプチーノを飲みながら簡単にキムチピラフを作ることができる。キムチは好んで作る韓国料理でもある。
今は近所の店でもおいしい韓国料理が食べられるので、韓国料理はあまり作らない。韓国にいるときは主にヨーロッパの料理を作る。他では味わうことができないからだ。
詳しいとは言えないが、韓国料理のレシピは周りの人に聞きながら学んだ。韓国人の友達のお母さんやお婆さんなど経験から得た特別な「コツ」を知っている人々に。そのような人から学ぶと、同じ料理でも北と南、全羅道(チョンラド)と慶尚道(キョンサンド)で作り方や食べ方もまちまちだということがわかる。苦手な韓国料理はとくにない。チュオタン、クァメギ、ホンオ、チョングクチャンも好きだ。どれも強烈な味と香りのするものだが、かえってそんな料理に惹かれる。食べると目が覚めるような気がするところが好きだ。

- 韓国の食を通して見た韓国人と韓国社会とは?
もっとも代表的な点はダイバーシティ(多様性)だ。多くの韓国人は韓国が単一民族国家で単一文化を持つと言うが、実際はそうではないと思う。韓国の食にそれが一番よく表れている。人々が食べているものを見ればそれがよくわかる。チュオタンやホンオのような辛く香りの強い料理が苦手な人もいれば、逆にそれが好物な人も多い。人々が選ぶ料理を見るだけでも大きなダイバーシティが見られる。人それぞれ性格が違うように「韓国人はこうだ」と一概に言うことはできない。

- 韓国料理を食べたことのない外国人にどんなメニューを勧めるか?また、韓国を訪れる外国人にどこに行ってみることを勧めるか?
どれくらい韓国に滞在するかで違ってくると思う。滞在期間が比較的に短いのなら、ソウルでできるだけ様々なものを経験して食べてみるのを勧めたい。ソウルには我々が想像し得るすべての食べ物があるからだ。しかし、時間に十分な余裕があるなら、ソウルの外へ出て色々な経験をするのがいいと思う。たとえば、最高のキムチを味わえるのはソウルとは言えない。私ならソウルよりは全羅道地方の数カ所に行くことを勧めるだろう。ソウルから出て色々な地域に行って、色々な食べ物を食べてみてほしい。どの地域にも、そこでしか味わえない独特な特産物や料理があるからだ。また、ナムルや果物のような季節の食材も地域別に多種多様なものがある。短い期間ではこれらをすべて経験するのに無理があるだろう。
2週ほどあれば他の地域を旅行する余裕があると思う。それだけの余裕があれば、江原道(カンウォンド)に行って海でおいしい海鮮料理を食べて山でジャガイモ料理を食べるのも良いだろう。慶尚道にもウナギの刺身など素敵な魚料理がたくさんある。釜山(プサン)のテジクッパもそうだ。とくに全羅道はまるで「韓国料理のメッカ」だ。伝統韓国料理を食べたいなら全羅道に行くのがお勧めだ。済州島(チェジュド)も欠かせない。済州島の料理は、他の地域では目にすることのできないものばかりだ。大きなレストランよりは、小さな古い食堂に行って食べることをお勧めしたい。一般に、そのような店はその料理についてよく理解していてプライドもあるうえ、どうやってその調理法が考案されたのかも説明できる。私もいつもそのような方法で料理について学んできた。
ある地域の料理について知りたければ、ソウルなら不動産屋やタクシードライバーなどその地域に詳しい人に聞くのが一番だ。彼らはその地域のおいしい店や有名な料理について詳しいので的確なアドバイスを得ることができる。韓国のポータルサイト「ネイバー(NAVER)」の使い方を学んでおくことも勧めたい。ネイバーで取り上げられた情報には貴重なものが多いからだ。その反面、パンフレットやガイドブックのグルメコーナーに頼るのはお勧めできない。

- 今度は反対に、欧州に初めて訪れる韓国人に勧めたい地域や料理、故郷である英国の料理はあるか? また、その理由は?
実は韓国で9年間暮らしていて、たくさんの人からヨーロッパの旅行先と料理を勧めてくれと頼まれた。この本は、そんな質問に対する答えをまとめたものだと言える。

알퍼씨는 유럽 여행 과정에서 찍은 다양한 사진도 책에 소개하고 있다. 사진은 2003년 바르셀로나의 한 시장(La Boqueria market)에서 찍은 과일, 야채가게의 모습.

アルパーさんは、欧州旅行の際に撮った様々な写真も同作で紹介している。写真は、2003年にバルセロナの市場で売られている野菜と果物



- 韓国に住んでいる欧州出身の人が故郷の味が恋しくなったら勧めたい場所は?
正直、よくわからない。たまに似たような質問をされるが、もっと探してみる必要があると思う。私が家でヨーロッパの料理を作るのも、おいしい店を探せていなかったり、味はよくても値段が高過ぎるからだ。
パスタはイタリアではどこにでもある庶民の食べ物だ。ピザもまた道端で売られている食べ物だ。イタリアのお金持ちはパスタやピザを食べる代わりにステーキを食べるだろう。なのに韓国ではパスタとピザが高級レストランで食べる高級な料理と認識されている。こういったヨーロッパ料理に対する間違った認識も本を通じて正したかった。

- 韓国は「ウェルビーイング」への関心が高まり、様々な料理番組が人気を博している。ゴードン・ラムゼイやジェイミー・オリヴァーのような英国のシェフも韓国ではよく知られている。韓国の料理番組を見ていて感じた点があるとしたら?
たしかに韓国ならではの特徴がある。『ヘルズ・キッチン~地獄の厨房』は視聴者に「料理をしてみたい」と思わせる 。フォーカスが料理が作られる過程自体に当てられているからだ。しかし、韓国の料理番組は視聴者に「おいしそう」「食べてみたい」と思わせるように作られている。韓国の料理番組にはバラエティの要素が含まれている。料理自体がすべてではないのだ。実際に、料理の専門家よりはタレントがたくさん登場して料理を作ったり、料理以外のバラエティ的なおもしろさを加えるためのコーナーが設けられている場合が多い。

- 韓国人を表現するのに最も適切な、または最も代表的な韓国料理な?
難しい質問だ。どれか1つに絞るのは簡単ではない。韓国料理を知るにつれて、常に幅広いダイバーシティを感じてきたため、韓国人を代表するようなある特定の料理があるかと聞かれると簡単には答えられない。辛い食べ物が好きな韓国人もいる反面、そうでない韓国人もいる。キムチが苦手な韓国人だっているが、そんな人でもいくらでも韓国料理を楽しむことができる。

- 次の著作についての計画はあるか?
いつかは書くつもりだが、まだ計画の段階だ。もし本当に書くことになったら、今回の本とは反対に韓国の食に関する本が書きたい。そのためには色々と勉強しなければならない。単に韓国の食べ物を外国人に紹介したくて書くのではない。私は韓国料理を食べながら育ったわけではないので、外国人の目で見た韓国の食に対する客観的な意見が主な内容になると思う。

コリアネット ユン・ソジョン記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者、ティム・アルパー
翻訳:イ・ジンヒョン
arete@korea.kr