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2019.06.19

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ダルシーパケットさん=14日、ソウル

ダルシーパケットさん=14日、ソウル



[ソウル=イ・ハナ、イ・ギョンミ]
[写真=キム・シュンジュ]

韓国で約20年間、映画評論家として活動している米国人のダルシー・パケット(Darcy Paquet)さんは、韓国映画界で複数の役割を果たす。映画専門の記者、教授、作家、翻訳者、俳優など。

彼が英語字幕の翻訳を担当した奉俊昊(ポン・ジュノ)監督の映画「パラサイト」がカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したことで、「字幕翻訳者」としてメディアから注目を浴びている。韓国ならではの特徴があるセリフを的確な英語に訳したおかげで、外国人の観客らが爆笑したと好評を得た。

14日に行われたコリアネットとのインタビューでパケットさんは、「映画をきっかけに、字幕翻訳というアートが注目されるようになって嬉しい」とし、良質の字幕の条件として「監督との緊密なパートナシップ、決まった日程と修正のできる時間の余裕」を挙げた。また、「翻訳は正解がないため、独創的な判断をしなければならない瞬間がよくある」とし、「一番いいのは、監督に直接聞き、その意図が見る人にきちんと伝わるように努力すること」と付け加えた。

優しい口調で韓国映画について情熱的に語るパケットさんと色んな話を交わした。

ダルシーパケットさん=14日、ソウル

ダルシーパケットさん=14日、ソウル



―韓国で映画に関する仕事を始めたきっかけは。

1997年に韓国に初めて来て、大学で英語講師として働いた。韓国語と韓国文化が感じられる映画を見るのが趣味だった。当時見た「8月のクリスマス」(1998年作)という映画は、私の心をときめかせた。映画でその映画をネット検索してみたが、何もヒットしなかった。悩んだ末、自分で「コリアン・フィルム(Koreanfilm.org)」というウェブサイトを立ち上げ、韓国映画を紹介した。思った以上に反響があって、数年後にはイギリスの映画マガジンの「スクリーン・インターナショナル」、韓国の映画雑誌「シネ21」などから原稿の依頼が来た。記者、評論家として活動し、自分の名前が少しずつ広まっていった。

―字幕翻訳の仕事はいつから始めたか。

翻訳の仕事を始めたのは、偶然からだった。大学に勤務していた時、近くにある映画振興委員会で、映画の字幕・PR資料などをチェックするパートタイム・コピーエディターを募集していた。友人が担当する予定だったが、事情があって私が代わりにすることになった。字幕翻訳はこの時から始め、奉監督もこの時に知り合った。

2000年に公開された 奉監督の初映画「フランダースの犬」の字幕翻訳は、映画会社が担当したが、奉監督はその訳が気に入らなかったようだ 。奉監督が映画振興委員会に英語エディタを紹介してほしいと頼み、私が行くことになった。彼と映画を見て、笑いながら楽しく字幕を修正した。後で聞いたが、彼は私のあふれるアイディアが気に入ったそうだ。その後、彼は2作目の映画「殺人の追憶」の字幕翻訳を私に頼んだ。

2000年代初めの頃は、翻訳の初稿を妻(韓国人)や友人たちと一緒に完成させていたが、5年くらい前から 自分一人で行うようになった。

―「パラサイト」の翻訳作業でも、奉監督と最終検討をしたと聞いたが、どうだったか。

翻訳の初稿の完成までは、奉監督とメールでやり取りし、1週間半ぐらいかかった。その後、奉監督や製作者、映画会社の関係者らと一緒に2日間の会議を行った。みんな英語のできる人だったので、意見を聞くこともできた。訳すのが難しいセリフを、みんなで考えることができたのが、とても役に立った。

―コメディが好きか。

質の高いコメディを見ると満足する。「パラサイト」もそういう映画だ。この映画は、コメディと言い切ることはできないかもしれないが、コミック的な要素がたくさんある。何よりもタイミングが重要なコメディは、翻訳者にとっては楽しい挑戦でもある。

―韓国とアメリカでは、ジョークの落ちのタイミングが異なるが翻訳する際にはどうか。

韓国映画を外国人と一緒に見ていると、字幕に関係なく、俳優が落ちを言うタイミングで笑っているのがわかる。言葉が分からなくても、笑うタイミングが同じなので、字幕とセリフをできるだけ合わせることが大事だ。

―他にも有名な監督とも仕事をしたと聞いた。特に、記憶に残っている監督や作品は。

朴賛郁(パク・チャヌク)監督が印象に残っている。朴監督はダジャレが好きな人で、シナリオがとてもユニークだ。朴監督は1960年代の有名な監督であるキム・ギヨン監督から影響を受けたそうだ。キム監督の映画では、表現力あふれるユニークなセリフが重要な役割を果たすが、朴監督も同じ方法で映画を制作するようだ。自然な翻訳を好む監督が多いが、朴監督の場合は、少し違和感があっても、韓国語そのままの口調やダジャレを表現することを好む。

―最近は俳優としても活動しているそうだが、今後、映画の台本執筆や映画制作に参加する計画はあるか。

映画について語る人間として、たまに現場に入り込むということはとても面白い。

これから映画の台本や制作に挑戦してみたい。いくつかのプロジェクトはあったが、本格的に試みる機会がなかった。来年か再来年には、進展があればと思う。

―映画字幕の翻訳者を夢見る人へ何かアドバイスを。

翻訳というのは、業務量の多い、非常に大変な職である。報酬が低い上、原作に比べ100%完璧な作業はできないため、これに耐えられるかが重要だ。最初は苦労するが、この仕事は、やればやるほど腕が上がる。地道に本を読んで、日常生活でも言語に興味を持つことが重要だ。

最初から、仕事を見つけることが難しければ、短編映画を作る監督らに自分から連絡して、現場で経験を積むことも良い。その後、もっと大きな映画の仕事を始めても遅くはない。

hlee10@korea.kr