社会

2016.09.23

冠岳区の財政自立度はソウルの自治体のなかでも下位圏に留まっているが、ボランティアはその登録者だけで9万8千に上る

冠岳区の財政自立度はソウルの自治体のなかでも下位圏に留まっているが、ボランティアはその登録者だけで9万8千に上る





ソウル南部に位置する冠岳区(クァナクく)。51万人の人口が暮らしている冠岳区の2016年の財政自立度は20.7%とソウル25の自治区で22位となった。韓国最大の国立大学であるソウル大学を除くと生産性のあるインフラが不十分な典型的な住居地域。住民の所得も低く、社会保障適用の対象者や多文化家庭、高齢者人口が全体の1割以上を占めている。

その反面、不思議なことに住民の5人に1人はボランティア活動をしていて登録者だけで9万8千人余り、実際活発に活動しているのは1, 600人以上で、ボランティア活動の実績が優れた人に割引特典を提供する店舗も255カ所に上る名実ともにボランティア都市といえる地域でもある。

「住民の所得を一気に引き上げることはできないが、暮らしの質を高めるのは可能」とし、世界から注目された「10分で行ける図書館」「知識福祉」事業を主導してきたユ・ジョンピル区長はこれといったインフラも、産業施設もないこの地域にボランティア天国という魔法をかけた。過度な福祉ニーズをボランティアで克服し、36.5℃の体温のように温もりのある「365ボランティア都市」を作り上げた。

ユ区長は民間によるボランティアの専門性と連続性、自立性を確保するためにボランティアセンターに民間の専門人材を取り入れた。また専任の人材を増やし、アクセス性の良い区庁舎へとオフィスを移した。さらにきめ細かいセーフティーネットづくりに向けボランティアの需要先と団体との協力ネットワークを完成させた。21の洞住民センターではボランティアキャンプを設け、ボランティア活動の多様化・細分化を図った。

また「ライフサイクルに合わせたボランティア特化プログラム」を運営し、青少年向けのボランティアアカデミー、福祉通帳制度、枕元の童話事業といった青少年から老人までが参加できる様々なボランティアプログラムを構成することにより住民の参加を呼びかけている。

2013年から多文化家庭を訪問して童話を読んであげるボランティアの人気が高い

2013年から多文化家庭を訪問して童話を読んであげるボランティアの人気が高い





ソウル市25の自治区のうち、永登浦区(ヨンドゥンポグ)、衿川区(クムチョング)に次いで3番目に多文化家庭が多い冠岳区には結婚移民者約1,800人など、多文化家庭の構成員が7,300人余りに達する。とくに 結婚移民して間もない人が多いことを考慮して無料の韓国語教育、韓国料理教室、通訳・翻訳支援などの多様なプログラムとともに教育を受ける間に子供の世話をするきめ細かいボランティア活動が展開されている。2013年からは多文化家庭を訪問して子供に童話を読んであげるボランティアも人気だという。

冬場のキムチ作りサービスはまだまだ魅力的なボランティア活動として挙げられる

冬場のキムチ作りサービスはまだまだ魅力的なボランティア活動として挙げられる





ボランティアの魔法は国籍や人種を問わない。結婚して移住してきた女性が主導して韓国の子供たちに母国の文化や歴史を伝える活動や冠岳区を「第2の故郷」としながら地元の交番と共同で発足させた中国同胞らによる自主防犯パトロール隊「幸福奉仕団」も話題になっている。

「ボランティアとしての誇りを感じさせ、社会的価値を認めるべき」とするユ区長は、ボランティアに対する認定と報奨を拡大した。人の体温の36.5℃に因んでボランティア活動が36時間30分以上となった人には公営駐車場、居住者優先駐車エリアでの駐車料金の割引と冠岳文化館・図書館・シングルバングル教育センター・冠岳区民総合体育センターなどの施設利用料および授業料の割引サービス特典を提供している。

さらに実績の高いボランティアに対しては手頃な価格で商品やサービスを提供する「良き隣人の店」が飲食店・美容室・主な大型病院・韓方医院・歯科医院・結婚式場・ホームセンターに至るまで様々な割引特典を与えている。金融機関での優待も受けられる。ウリ銀行冠岳区庁支店は業務協約に基づいて「良き隣人の店」の事業主に最大3億ウォン以内の優待金利を適用して貸付をしている。オンラインでの金融手数料、ATMの利用手数料も全額免除される。

「ボランティア実践学校」に指定された南崗(ナムガン)高校の生徒チェ・サンさんは「教師を目指している私と友達は世話教室でのボランティア経験から自分に誇りを感じるようになりました。誰かに力になれて嬉しいです」と話す。

貧困層の困難さが増す冬場に練炭を届けるボランティアは、一人暮らしの高齢者などに温もりを伝える

貧困層の困難さが増す冬場に練炭を届けるボランティアは、一人暮らしの高齢者などに温もりを伝える



冠岳区では形骸化している従来の青少年ボランティアのパラダイムを「自己主導型のボランティア」に切り替えた。「ボランティア実践学校」を指定・運営することによりボランティアプログラムを生徒が自ら開発できるように誘導している。「ボランティア教育奉仕団」では基本教育はもちろん足裏のマッサージ、染色、整理・収納などそれぞれの特性に合ったボランティア活動の教育を支援している。またボランティアに参加したくてもどうすればいいかわからない団体・クラブなどの小規模グループに対しては「新しくスタートするボランティア、セシボン」と引退したベビーブーム世代のためのソウル市初のボランティア生涯大学を運営している。
他にもソウル大学と協力して「冠岳区-ソウル大学SAMメンタリング」「@(コルベンイ)縁組」「炎のシュートバスケット団」の活動を展開している。

ボランティアで住民の所得水準を一気に引き上げることはできなくても暮らしの質を向上させることはできるというユ区長の哲学から現在の活動はスタートした。写真は地域の高齢者にマッサージサービスをしているユ区長

ボランティアで住民の所得水準を一気に引き上げることはできなくても暮らしの質を向上させることはできるというユ区長の哲学から現在の活動はスタートした。写真は地域の高齢者にマッサージサービスをしているユ区長





ボランティアを活性化させるための様々な努力と輝かしい成果は外部からも認められれている。昨年は「2015大韓民国ボランティア大賞」で行政自治部長官賞を受賞し、「大韓民国社会奉仕大賞」でも功績共有部門に選ばれる快挙を遂げた。「2016全国基礎団体長マニフェスト優秀事例コンペティション」では「住民5人に1人が参加するボランティア天国」のケースを発表して最優秀賞を受賞した。

コリアネット ウィ・テックァン
写真:冠岳区庁
翻訳:イム・ユジン
whan23@korea.kr