人間は常に「なぜ」という問いを繰り返す。
不幸に見舞われたり、または幸運に出会ったとき、「なぜ」という問いは人生の大きな方向を決める要素となり得る。
生まれた直後から身体の障害と闘わないといけないとしたら、2本の脚でバランスをとって歩くのも、手も足も、口を動かすことすらままならず常に誰かの助けが必要だとしたら、「なぜ」という問いは人生と存在そのものに対する懐疑と悲観に繋がりかねない。
アレクサンドル・ジョリアン(Alexandre Jollien、法名:慧泉)の場合は違った。スイスで生まれたジョリアンはへその緒が首に絡まり窒息寸前に生まれ、後遺症で脳性麻痺を患った。身体的障害との闘いのなかで彼は存在に対する探求と省察、哲学研究に没頭した。また絶えず人々と会い、触れ合う経験のなかで自分の限界を見出し、反省し、客観的に見るという「悟り」の過程を繰り返した。

スイスの哲学者アレクサンドロル・ジョリアン
『なぜと問わない生き方』(Vivre Sans Pourquoi 2015)はジョリアンが追求する人生を一言で集約した言葉であり、そのようなライフスタイルの実践法について綴ったエッセイだ。彼はヨーロッパでは広く知られる哲学者でありベストセラー作家だが、富と名声、忙しい日常を後にして「本当の意味で心を楽にして生きる」人生を実践するために、2013年に家族と共に韓国行きの飛行機に乗った。この本には彼がソウルで生きるうえで深めた思索と、人生に対する考え方が盛り込まれている。
『なぜと問わない生き方』とは、自分に対する周囲の考え方や見方などから自ら脱すること、未来に対するストレスから脱することだ。それは、諦めてしまうのではなく、人生を積極的に肯定するものであって、他人に対する無条件の愛を実践するものだ。ジョリアンは『なぜかと問わない生き方』とは頭を空っぽにするわけではなく「未来にとらわれず、現在に忠実でいよう」という意味だと語る。また「なぜと問わない生き方をするのは何よりも自分の周りに目をやることであり、他人に献身することであり、この苦痛の海に愛と喜びを少しでも足せるよう努めること」と話している。

ジョリアンはエッセイ『なぜと問わない生き方』で自らが追求する人生について語った
ジョリアンの言う「苦痛の海」には、絶えず続く身体的障害との闘いも含まれる。彼はソウルに来てから前よりも健康になったそうだが、その秘訣として「治癒されようという考えからの治癒」を挙げた。ジョリアンは「私は障害者で、それはどうしようもないという事実が信じられないほど私を楽にしてくれる」と障害を客観的に受け入れる。「私を治癒してくれるのは医者ではない。本当の意味での健康とは自分の弱さ、疾病、ありとあらゆる傷を克服するうえで得られるもの」と彼は語る。
人生を積極的に肯定するためには、「ありのまま見る」ことが必要であり、このためには「観照」の修行が必要だ。ジョリアンにとって韓国は修行の空間。彼はソウルの繁華街のど真ん中、薄汚い路地裏、ぼろぼろの旅館、銭湯など場所を問わず瞑想と思索を実践し、とくに銭湯に特別な意味を与えた。彼は「観照するということは、自分のいない世界を見つめるということ。銭湯の脱衣場で裸になった自分を見つめるように、他人の視線と欲望から脱し、裸になって神を迎えなければならない」と話す。

ジョリアンはヨーロッパで得た名声と忙しい生活を後にしてソウルに渡った。韓国では思索と修行の日々を送っている
彼の言う「修行」とは求道者による自己修養と省察であり、宗教の区別は無意味だ。ジョリアンは自らを「禅を修行するクリスチャン」と呼び、自分をキリスト教や仏教でくくろうとしなかった。彼は「仏教徒とクリスチャンは互いに手を取り合い、軽快な足並みでいつでも小道を共に歩むことができる。遥か山頂を目指し共に進むことができる」と語る。
彼が最終的に追求するものとは人生における幸せだ。ジョリアンは「幸せとは何かを足すのではなく、現状から切り取り、削ることで単純にすること。ネガティブなものを見出し、脱ぎ捨て、前へと進むことだ」と話す。「ただごろごろしているのではなく、毅然として試練に立ち向かうこと」「何かすごいことをしようとするよりは、些細なことでも情熱を持って日常を送ること」が繰り返される日常こそが幸せを手にする方法だと彼は語った。
<作家紹介>
ジョリアンは23歳で書いた初の著作『弱者の賛歌』(1999)をはじめ、『人間という仕事』(2001)、『自我の構成』(2006)、『裸の哲学』『ありがとう、哲学婦人』(2010)、『私を苦しめるものが私を強くする』(2011)などを通じて身体障害に屈しない生き方を強調してきた。とくに『私を苦しめるものが私を強くする』はフランスのアマゾンで32週連続1位となった。読者らは、彼が肉体的な条件を克服し勝ち取った勝利、人生に対する率直な考え方に共感を抱いた。通称「幸せ伝道師」のジョリアンは、ヨーロッパ全域を渡りながらテレビ番組や講演などの活動を旺盛に繰り広げた。

ジョリアンは活発な執筆を通じて、読者に人生をありのまま受け入れ積極的に生きる方法について語り続けてきた。『弱者の賛歌』(1999)、『人間という仕事』(2001)、『ありがとう、哲学婦人』(2010)、『私を苦しめるものが私を強くする』(2011)など韓国で出版された彼の著書
※『人間という仕事』(2001)以外の著書の邦題は、訳者が韓国版のタイトルを日本語訳したもの。
コリアネット ユン・ソジョン記者
写真:インターハウス
翻訳:イ・ジンヒョン
arete@korea.kr