食・旅行

2022.09.01

Hidden Charms of Korea_sool

コソリ酒(左)と済州オメギ澄んだ酒

コソリ酒(左)と済州オメギ澄んだ酒


[済州=ミン・イェジ]
[写真=ミン・イェジ]

済州(チェジュ)島でよく目にする玄武岩で作られた垣根。その中に入ると、外からでは木に隠れて見えなかった、まったく違う世界が広がっている。済州伝統の家屋の向こう側には、美しい庭園がある。4代目として済州の伝統酒を造る醸造所「チェジュスルイクヌンチプ(韓国語で『済州、酒が熟成する家』という意味)」。

代表の金希淑(キム・ヒスク)氏は「私の母親が住んでいた家で、耽羅(タムラ:済州島の古名)時代から受け継いできた造り方で醸造している」とした。大型設備や工場が必要ではないため、伝統家屋を保存することができたのだ。金氏は、済州無形文化財第11号であるコソリ酒の継承に寄与した功労が認められ、2018年に酒類分野の食品名人と指定された。

金氏の一日は、朝3時に始まる。まだ誰も目を覚ましていない、一日のうちで最も静かな時間。まるで、世の中には酒を造る音と金氏以外には何も存在しないかのように。神経をとがらせ、非常に集中して酒を造るという。

「人が行き来したり、心が複雑だったりすると酒造りは台無しになるんです。静けさと、ちょうどいい気温、一日の始まりに真心を込めて造ります」

ここで造る酒とは、済州の伝統酒「オメギ澄んだ酒(清酒)」「コソリ酒(焼酎)」の2種類。済州地域の方言で、オメギは粟を、コソリはソジュッコリ(つぼみの形をした、在来の焼酎蒸留装置)を意味する。

済州は土地がやせているため、コメ農業が発達できず、主に粟が栽培された。酒造りも、珍しい米の代わりに粟を使った。

まず、粟でオメギ餅(粟粉をこねて作った済州伝統の餅)を作って、ここに粟と麦を炊いた強飯を入れて酒の材料として使った。15~20日間の発酵が終わった後、上の澄んだ酒だけを汲み出して熟成させたのが済州の伝統清酒「オメギ澄んだ酒」だ。

オメギ酒は、薄い金色と緑色が微妙に調和しており、見る人の目を奪う。粟で造った発酵酒は、舌を刺激するような酸味が感じられるのが特徴。

アルコール度数16度のオメギ酒は、さっぱりした味わいと甘い果実の香りが認められ、2019年4月に行われた韓国・チリ首脳会談の夕食会で、乾杯酒として提供された。2017年と2021年には、大韓民国酒類大賞「薬酒・清酒部門」で2回も大賞を獲得した。

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の全景

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の全景


濁酒は農作業する庶民の喉の渇きをいやす食事のような酒であった。一方、清酒は丁寧に仕込んで祖先の祭祀などで使われた。清酒の「清」は澄んでいるという意味だけでなく、天の祖先に届くような最も清らかで新鮮な、美しい香り、つまり「清香」の意味も持っている。生計に余裕のない家でも、名節や祭祀の時はもち米やうるちで澄んだ酒を造った。

大きな酒杯でゴクゴク飲むのが濁酒の魅力だとしたら、清酒は香りを楽しむため、小さな酒杯で飲むのがいい。清酒は晩酌にうってつけの酒である。

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の内部

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の内部


済州は、台風のような自然災害が多いため、民間信仰が盛んな地域だった。祭祀を行うためには酒が必要で、酒を造るのはだいたい母親たちの担当だった。

コソリ酒は、母親の香りが漂う酒といって「母香酒」と言われる。また、酒を飲んでいると母親が酒を造る様子が目の前に浮かぶといって「思母酒」とも呼ばれる。貧しかった時代、やせた地で勤勉に働き、生の喜びをかみしめながら生きてきた母親たちの姿が感じられる。

金氏は「このように、地元の風土に合う食材とストーリーを持つのが伝統酒」と強調した。 v
また「済州を訪れる方には、済州産の粟と麦で造った伝統酒を楽しむことを観光の一つとして認識してほしい」とし、「長い間、喜びと悲しみが溶け込んでいる酒を飲むことで、韓国固有の精神と文化遺産を経験してほしい」と話した。

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の金希淑代表

チェジュスルイクヌンチプ醸造所の金希淑代表


jesimin@korea.kr

関連コンテンツ