韓国文化が世界を熱狂させている。K-POPやドラマ、映画といった大衆文化から文学や公演などの純粋芸術まで、韓流の領域は広がりつつある。韓国フードは言うまでもない。精進料理やキムチ、プルコギ、ビビンパなど、様々な韓国料理が世界の人々の口を魅了している。
様々な分野の韓国文化が世界を席巻している。一方、韓国のお酒は、いまだその真価に気づかれていない。音楽と踊り、おいしい食べ物がある場に欠かせないのがお酒なのに。
韓国の映画やドラマを通じて「緑の瓶」で知られる韓国焼酎、またマッコリ以外にも、韓国には数えきれないほどの伝統酒がある。地域や季節によって、固有の食材を利用し、独特な手法で作られた酒が多い。
まだ広く知られていない韓国伝統の酒を探し、その魅力をKOREA.net読者の皆さんにお伝えする。
韓国人が好きな酒を紹介し、韓国伝統酒に合う料理や韓国ならではのお酒文化も取り上げる。また、韓国伝統酒に関わる人々のコメントも紹介する予定。読者には、これまで知らなかった韓国酒の魅力を発見してもらいたい。
酒造りが韓国の重要無形文化財に指定されているムンベ酒
[金浦=ミン・イェジ]
[写真=キム・シュンジュ]
[映像=イ・ジュンヨン]
京畿道(キョンギド)・金浦(キンポ)市にある「ムンベ酒醸造院」に入ると、まず、庭の一隅にある薪窯と、うる粟ともちモロコシが収穫できる土地が見えてくる。その反対側には、500平方メートル規模の醸造所が建っていた。キレイな現代式の建物。隣には甕(かめ)置き場や、ムンベ酒の香りを象徴するムンベ木の苗木3本があった。
この醸造院の李丞鏞(イ・スンヨン)代表は挨拶した後、「ちょうど今、うる粟を入れるところだった」と言いながら、醸造所の中へと案内してくれた。醸造所から酒の発酵するいい香りが漂い、鼻を刺激する。
ムンベ酒を造るには、まず、うる粟で一番ベースとなる酒の「ミッスル」(韓国語で「ミッ」は「下」「根本、元、基礎」を、「スル」は「酒」を意味する)を造る。その後、モロコシで「ドッスル」(韓国語で「ドッ」は「加える」を意味する)を作った後、翌日にモロコシでもう一度ドッスルを作る必要がある。「ドッスル」とは、穀物・麹・水の混合物、またはこの混合物をミッスルに加えることを意味する。ミッスルにドッスルを何回加えるかによって「二醸酒」「三醸酒」「四醸酒」に分ける。回数が増えるほど、酒の度数が高くなり、香りは濃くなる。ムンベ酒は、三醸酒の一種。
ムンベ酒は、雑穀で作った酒から不思議にも「ムンベ」の味と匂いがするということから名付けられた。「ムンベ」とは、韓国固有のヤマナシのこと。うる粟、モロコシ、麹以外の材料は入っていないにも関わらず、かすかにナシの香りがするムンベ酒は、花や果実の匂いがする韓国伝統酒 「芳香酒」を代表する酒のひとつだ。コメを主食とする韓国で、コメで作る伝統酒は多いが、うる粟やモロコシで作る酒はほとんどない。うる粟とモロコシは、ムンベ酒が始まった北朝鮮の平壌(ピョンヤン)一帯で多く栽培された穀物だ。
李代表は「酒の味を良くするためには原材料(うる粟、モロコシ)の品質が重要」とし、「国立食糧科学院と共にムンベ酒の醸造に適した品種の分析と品質管理を行っている」と明かした。基本的な管理がきちんとしていれば、現在の味を維持しながら、さらなる品質向上が期待できるからだ。李代表は、ムンベ酒造りの職人である父親のイ・ギチュン氏から酒造りの技術を伝授されている。ムンベ酒は約1000年の歴史を持ち、酒造りが韓国の重要無形文化財に指定されている。
伝統的な方法をそのまま、ソジュッコリ(つぼみの形をした、在来の焼酎蒸留装置)を利用してムンベ酒を抽出する様子を再現した後、李氏は私たちに一口飲ませてくれた。小さな杯に注がれた酒から漂うナシの香りが、鼻先をくすぐる。一般的なウイスキーと同じく、40度以上もするアルコール度数の高い酒であるが、のど越しがよく、さっぱりした味がした。
ムンベ酒は2000年と2007年、2018年に行われた「南北首脳会談」の夕食会で、乾杯酒として提供されて有名になった。度数が高い蒸留酒の一つで、好みによってカクテルや「オン・ザ・ロック(グラスに氷塊を入れて酒を注いだ飲み物)」にして楽しむことができる。
直接酒を醸す李氏が、ムンベ酒のおすすめの飲み方を紹介してくれた。高い度数の酒が苦手な人には、トニックウォーター(プレーン)とムンベ酒の割合を3:1程度に混ぜた後、グレープフルーツや柚子など、香りの強い果汁を入れて飲むのをおすすめする。食事と一緒に飲む際には、刺身やラム肉や牛肉のヒレによく合うらしい。軽くお酒を楽しみたいときは、ショウガの砂糖漬けをおつまみとしておすすめする。ピリッとした刺激と甘い味わいが、ムンベ酒の苦さと調和し、最高の味が感じられるという。
ソジュッコリで蒸留し、ムンベ酒を抽出する様子
海外のKOREA.netの読者に向けてのメッセージを李氏にお願いした。「ウィスキーやウォッカ、ワインなど、いい酒はたくさんある。だが、韓国の伝統酒も他の酒に負けないくらい素晴らしいので、ぜひ飲んでみてほしい」と話した。また、「韓国の酒が一番だとことさら主張したくはない。ただ言いたいのは、韓国伝統酒もなかなかいいものだ。ぜひ試してほしい」と語った。
jesimin@korea.kr