京畿道・驪州市にある醸造所「スラウォン」の全景=キム・シュンジュ撮影
[驪州=ミン・イェジ ]
[映像=イ・ジュンヨン]
「伝統を保存・継承するだけでなく、新しい試みを継続して、これから100年、200年後に伝統になれるような酒を開発したいと思います」
文献の中でのみ存在していた韓国の伝統酒過夏酒(発酵酒に焼酎を少し入れた酒)をよみがえらせた醸造所として注目を浴びている「スラウォン」の代表を務めるカン・ジンヒ氏は自分の目標についてこう語った。
「夏をやり過ごせる酒」という意味から名付けられた「過夏酒」は、マッコリや清酒が発酵する途中にアルコール度数の高い蒸留酒を混合し、酒が腐敗せず、高温でも保てるようにした。アルコール度数が高いながら、甘みがあるのが特徴。
KOREA.net取材班は9月14日、京畿道(キョンギド)・驪州(ヨジュ)市にある「スラウォン」を訪問した。赤い瓦とレンガで作られた地中海風の建物が目に入る。駐車場を過ぎて全面に見える建物は、訪問客が酒造りの体験や試飲などができる「アジト」。隣にある2階建てのビル1階では酒が造られており、2階では新しい酒を開発する研究が行われている。
カン氏は、醸造所の娘でも、宿命的に受け継がなければならない父親の遺産があったわけでもない。普通の専業主婦だったカン氏は、伝統酒が好きで、酒を学ぶ中でもっとたくさんの人々と酒というものを分かち合いたいという思いから、2015年に醸造所をオープンした。
「韓国にはいい酒が多いのに、歴史の中に消えてしまうのがもったいないと思ったんです。そのきっかけとなったのが過夏酒でした。歴史の中に埋もれていたこの酒に光を当てたくて、この醸造所を始めることにしたんです」
醸造所「スラウォン」で造られる酒=キム・シュンジュ撮影
「ワン焼酎」で韓国の酒類市場で大ブレイクしているワンスピリットのパク・ジェボム代表が「焼酎の師匠」と仰ぐ人がいる。江原道(カンウォンド)の原州(ウォンジュ)市にある醸造所「モウォル」」を運営するキム・ウォンホ代表だ。モウォルは、原州で生産される「トト米」という米で作った焼酎で、2020年に大統領賞を受賞した。この米は、一般の焼酎に使われる輸入タピオカより10倍以上値段が高い。
金氏は20年以上、大企業でエンジニアとして働いていたが、2014年に自分の故郷である江原道(カンウォンド)の原州(ウォンジュ)市で醸造所を始めた。金氏は「農業科学院で開発した生米の発酵技術を導入し、韓国食品研究院で作った麹から採取した韓国産酵母を麹と一緒に使うことで、発酵期間の短縮、一定の質と味など、安定した結果物が得られる」と話した。また、麹の匂いをなくすために「1回目のミッスル( 国語で『ミッ』は『下』『根本、元、基礎』を、『スル』は『酒』を意味する)を造る際に麹で酵母を増殖させた後、2回目のドッスル(韓国語で『ドッ』は『加える』を意味する)を加える前、顕微鏡で酵母の数を確認し、多い場合は麹を少し入れ、少ない場合は多く入れるなどして、麹の量を調節する」と説明した。
2020年に大統領賞を受賞した「モウォル・イン」=協同組合モウォル公式ホームページ
韓国内の酒類市場には、カン氏や金氏のように、酒が好きで酒造りに飛び込んだ人が少なくない。この人たちは、伝統にとらわれず、実験的な酒の造り方や地域の特産物を酒に加えることで、これまでなかった新しい酒を造って注目されている。
2010年頃から、韓国伝統酒研究所やマッコリ学校など、民間の醸造教育機関で体系的な教育を受けた人が増えてきた。そういった人たちは、価値を消費することに重点を置いて、良質の材料で良質の酒を造ることを目指し、従来の醸造所とは異なる醸造所を設立した。いわゆる「プレミアム伝統酒醸造所」。プレミアムの伝統酒を造るという目標は同じだが、副材料から米の加工法、発酵・熟成の方法は、醸造所によって実に様々である。
これは、韓国の酒類市場の多角化へと繋がった。愛酒家の間で有名な、楓井四季(プンジョンサゲ)、千秘香(チョンビヒャン)、スラウォン、モウォル、ミルといった酒が「プレミアム伝統酒醸造所」で造られた酒だ。
「プレミアム伝統酒」は、専門家が先にその価値を認めた。 楓井四季・春(チュン)、モウォル・イン、ミル40は、農林畜産食品部と韓国農水産食品流通公社が実施する韓国酒品評会で大統領賞を獲得した。
2021年に大統領賞を受賞した「楓井四季・春」=楓井四季フェイスブック
韓国初のハチミツ酒「ハネムーン・ワイン」は、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の就任式で、乾杯酒として提供された。今年5月に行われた韓米首脳会談の乾杯酒としては、世界初の五味子ワインの「オミロゼ・ギョル」が採用された。オーク樽熟成は、韓国酒造りにはこれまで使われてこなかった方法であるため、新しく実験的だと評価されている。
2012年にソウルで開かれた核セキュリティ・サミット、2013年に青瓦台(旧大統領府)で行われた在外公館長の晩さん会で乾杯酒に使われた「福順都家(ボクスンドガ)ソン・マッコリ」は、若者を中心にシャンパン・マッコリと呼ばれ、人気を博している。自家製麹を使用し、伝統の甕で長時間発酵させて造るこの酒は、麹の発酵過程で生じる自然の炭酸のおかげで、シャンパンのような爽やかさを与える。スパークリングマッコリという新しいジャンルを作ったと評価される。
今年5月21日に行われた韓米首脳会談の公式晩さん会で、乾杯酒として提供されたスパークリングワイン「オミロゼ・ギョル」=第20代大統領室
農林畜産食品部が発刊した「2021酒類市場トレンド報告書」によると、韓国の酒類市場の全体規模は、出庫金額基準で2017年の9兆2000億ウォン(9421億7889万円)から2020年には約8兆8000億ウォン(9012億1459万円)に減った。一方、韓国伝統酒は、2017年の400億ウォン(41億円)から2020年には627億ウォン(64億2115万円)に増加した。
報告書には「伝統酒そのものが競争力を持っている」とし、「プレミアム伝統酒市場の可能性は高い」と分析されている。
伝統酒研究所のパク・ロクダム所長は「20~30代を中心に、体系的な酒造りの教育を受けた人が増えている」とし、「韓国の酒類市場の状況は、現在よりも10~20年先のほうが改善されているだろう」と期待を示した。
jesimin@korea.kr