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2022.10.03

Hidden Charms of Korea_sool

「甘い味がする紅色の露」という意味を持つ韓国伝統酒「甘紅露」

「甘い味がする紅色の露」という意味を持つ韓国伝統酒「甘紅露」


[坡州=ミン・イェジ]
[写真=キム・シュンジュ]
[映像=イ・ジュンヨン]

韓服のチマ(スカート)を連想させる陶器の瓶に入っている、紅色の甘い露のような味わいの酒。朝鮮時代のパンソリ小説 「鼈主簿伝(うさぎとすっぽん)」では、ウサギの肝を取るためにスッポンがウサギを竜宮城へ連れて行こうとする際に「竜宮城には甘紅露がある」と誘う場面がある。「春香伝」では、主人公の李夢龍と春香の別れのシーンで、飲む酒として甘紅露が登場する。 また、朝鮮時代の有名な芸妓ファン・ジニは、当時最高の儒学者だった徐敬徳(ソ・ギョンドク)の気概がまる甘露酒のようだと話した。

甘紅露は、朝鮮時代の小説や文献、韓国のことわざにも登場するほど、昔から名のある酒である。朝鮮時代の学者である柳得恭(ユ・ドゥッコン)の著書「京都雑誌」と、詩人であり歴史家の崔南善(チェ・ナムソン)の著書「朝鮮常識門答」では朝鮮時代の3大名酒であると記されている。甘紅露は韓国のことわざにも登場する。「素焼き瓶に甘紅露」ということわざで、「外見は素朴だが、中身は貴重で美しい」という意味。

現在、甘紅露が造られているところは京畿道(キョンギド)・坡州(パジュ)市にある醸造所。ここで李基淑(イ・ギスク)名人が甘紅露を再現し、今まで命脈を保っている。醸造所には、酒が発酵する香り以外にも、濃い薬材の香りも漂っていた。その香りが甘紅露を特別な酒であることを感じさせる。

米、うる粟、竜眼肉、陳皮、チョウジ、ショウガ、シナモン、甘草、紫根で造る甘紅露

米、うる粟、竜眼肉、陳皮、チョウジ、ショウガ、シナモン、甘草、紫根で造る甘紅露


米、うる粟を7:3の割合で混ぜた後、麹と水を入れて15日間発酵させて一番ベースとなる酒の「ミッスル」(韓国語で「ミッ」は「下」「根本、元、基礎」を、「スル」は「酒」を意味する)を造る。2回蒸留して味と香りに深みを加えた後、7種類の薬材(竜眼肉、陳皮、チョウジ、ショウガ、シナモン、甘草、紫根)を約2カ月間浸出する。その後、薬材を取り除き、また1年半~2年ほど熟成させると完成。元々の材料だったポウフウは、医薬品として分類されることになり、酒造りに使われないことになった。

李氏と一緒に醸造所を営む夫の李敏馨(イ・ミンヒョン)氏はKOREA.net取材班に、甘紅露で甘みを出す材料である竜眼肉を試食用として渡してくれた。ほのかな甘みが感じられる。イチジクの一種である竜眼肉は腸を温めてくれる。みかんの皮である陳皮は、ビタミンを豊富に含む薬材だ。スパイスの一つであるチョウジは気力や体力を回復する効果があり、シナモンは香りがとても良い。昔から山参より効果がある薬草といわれる紫根が赤色を、ショウガはエネルギーを担当する。甘草は全ての薬材をよく調和させる。

盃に甘紅露を注ぐと、かすかにシナモンの香りが鼻先をくすぐる。一口飲むと甘みが感じられ、薬材の風味が広がる。アルコール度数の高い酒ではあるが、数回蒸留過程を経たため、香り豊かであっさりとした味わいとなっていた。


李氏は「酒を飲むとお腹が冷たくなって病気になるが、色んなや薬材が入っている甘紅露は逆にお腹を温めてくれるので、昔は薬として使われた」とし、「『内局甘紅露』といって、宮殿内の医員たちが甘紅露を造った」と説明する。

また、「疲れた日は、甘紅露とお湯を1:2の割合で混ぜて、『少しずつ、ゆっくりと』お茶を飲むように楽しむ」という飲み方も教えてくれた。

甘紅露は、カクテルのベースとしても人気がある韓国伝統酒だ。今年5月28日に開かれた「第1回 韓国食品名人酒カクテル大会」で大賞と最優秀賞を獲得した。バニラアイスクリームに甘紅露を何適か垂らして食べる「甘紅露アフォガート」もおいしい。酒からヘーゼルナッツとチョコレートの匂いがするからだ。李氏は、よく合うおつまみとして、蜂蜜のたっぷり入った薬菓(ヤックァ:韓国の伝統的な菓子)をおすすめする。ダークチョコレートとも相性抜群だ。

甘紅露について説明する李基淑氏

甘紅露について説明する李基淑氏


甘紅露は2014年、韓国の伝統酒の中で初めて、スローフード協会(本部・イタリア)が展開する「味の箱船」に登録された。「味の箱船」は、食の世界遺産と呼ばれるもので、将来的に消滅する恐れがある小規模生産の食材を世界各地でカタログ化するプロジェクト。

1950年代、米で酒を造ることを禁止する糧穀管理法が制定されてから、多くの韓国伝統酒が次々と消えていき、甘紅露酒も消滅の危機を迎えていた。30年が過ぎた後、1988年ソウル夏季オリンピックを控え、韓国伝統酒の育成へと国の政策方向が転換し、李氏の父親イ・ギョンチャン氏が無形文化財に指定され、息子と娘に酒の造り方を伝授した。李氏の兄が2000年に急死し、甘紅露の造り方を知る人は李氏のみとなった。

李氏は「子どもの頃、父親が甘紅露を守るために甕のそばで居眠りをしながらも、こっそりと酒を造っていたことを胸に刻み、厳しい時期を乗り越えた」と話した。

KOREA.net読者に「甘紅露は、外国人にとっても馴染みのあるハーブの匂いがする上に、体を温めてくれる薬酒」とし、「この酒が持つストーリーにも興味を持ってほしい」と語った。

jesimin@korea.kr

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