「詩人キム・ソヨン 一文字の辞典」の韓国語版と日本語版=Maumsanchaek publishing company facebook
[大阪=本村沙也(日本)]
韓国の詩人キム・ソヨン氏の著書「詩人キム・ソヨン 一文字の辞典」(姜信子監訳)が第8回日本翻訳大賞を受賞しました。
キム・ソヨン氏は詩集「数学者の朝」や、エッセイ集「ㅅ(シオッ)の世界」の著者で知られています。
「詩人キム・ソヨン 一文字の辞典」は、キム・ソヨン氏が選んだ310個のハングル一文字を、辞典のように説明した本です。
「詩人キム・ソヨン 一文字の辞典」の本文=Maumsanchaek publishing company facebook
例えば、 「꿈(夢)」の説明は、「こちら側では夢の話を誰かにするが、夢の中ではこちらについて話さない」 「달(月)」は、「移ろいゆくあらゆる姿が「きれいだ」という言葉で語られる唯一無二の存在」 (「詩人キム・ソヨン 一文字の辞典」より引用) というように、ハングル一文字に含まれる意味を、キム・ソヨン氏の持つ言葉で表されています。
受賞後に放送された「TBSラジオ アフター6ジャンクション」内にて、選考委員の一人である柴田元幸氏は、大賞に選んだ理由として「文学とはこういうものだという思い込みを崩してくれた、変えてくれた作品である」とし、同じく選考委員の斎藤真理子氏は「共訳の楽しさが溢れかえるような一冊だ」とコメントしました。
6月2日、受賞記念のお祝いとして、東京・神保町にある韓国書籍専門のブックカフェ「CHEKCCORI」(チェッコリ)にて、オンラインイベントが開催されました。
一番左が監訳者の姜信子氏、翻訳委員会のメンバーの方々=2日、東京・神保、CHEKCCORI提供
参加者の方々=本村沙也撮影
辞典という形ではありますが、その説明文は、著者の過ごした人生の情景や感情が、詩的に織り込まれています。その一文字一文字を翻訳委員会のメンバーで振り分けながら、翻訳に取り組んだとのことでした。
姜氏は、イベント内で「簡単な一言でも、それがどういう背景を持って発せられた言葉なのか、最初のうちは皆目検討がつかなかった。英語の扱われ方が日本と韓国で違うことに気づき、著者とすり合わせをした」と述べられました。
他にも、日本語では「いちじくの木」という言葉に訳すものが、韓国では「締め殺しの木」という意味を持つこともあり、それをどこまで考慮して訳すべきなのか、「밭(畑)」という一文字で説明されている畑の種類(例えば「蜜畑」「順平畑」など)が、日本の辞書には存在しないものばかりなので、それをどう訳したら日本人に伝わるのか、「곁(側)」という一文字で説明されている距離感は、日本語の「側」に近いのか、それとも「隣」に近いのか。などの細かいニュアンスを考え、調整しながら翻訳されたとのことです。
また、姜氏は、キム・ソヨン氏の詩を読んだ時の気持ちについて、「旅に連れ出されて、帰って来られません。行間に溺れて、そこから出てこられません。(中略)もしかしたらこの世界は、私が今まで知っていた世界とは違うんじゃないかと思ってしまいます」と述べました。
たとえこれが、韓国語から日本語に翻訳された言葉だったとしても、というよりは、両方の文化のニュアンスを最大限に考えられて翻訳された言葉だからこそ、キム・ソヨン氏の持つ詩の純度と鮮烈さが、そのまま日本の読者に伝わっているのだと思います。
*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
eykim86@korea.kr