【文=いとう めぐみ】
【写真=いとう めぐみ、カンスク作家】
脚本がセリフによって作られる「物語の設計図」であるのに対し、絵コンテは俳優たちが重要なシーンを脚本に沿って忠実に再現するための「シーンの設計図」。
「愛の不時着」・「キム秘書はいったいなぜ?」など、数多くの大ヒット韓国ドラマの名シーンを生み出す絵コンテ作家 Kangsook(カンスク)作家。
今回は京都府中京区「同時代ギャラリー」で行われたカンスク作家の海外初個展「京都に不時着」の様子とインタビューをお届けします。
【展示会レポート】
韓国ドラマの制作現場は機密情報も多く、詳しい制作風景を知る機会がなかなかないものですが、展示室を入るとすぐに絵コンテ制作時の様子が分かるストーリーボード・クイックドローイング・カンスク作家の心境を綴ったボードがあり、これから絵コンテ作品を見るにあたっての事前知識と、さらに楽しむための見どころが分かるようになっていました。
制作時の様子が分かるストーリーボード」
「分析」・「分析」・「分析」・「分析」・・・
韓国ドラマ・映画の感動的で印象深いシーンや、抱腹絶倒のシーンはこれだけ多くの分析を経て作られているんですね。
絵コンテを一枚一枚じっくり見ていくと、よく韓国ドラマを見る方ならきっと一度は目にしたことがある有名ドラマ名シーンの絵コンテがたくさんありました。
その中から、一部を抜粋してご紹介します。
大ヒット韓国ドラマの絵コンテ作品たち。(左から時計回りに)「愛の不時着」より作品名「指ハート」、「キム秘書はいったい、なぜ?」より作品名「飲み過ぎたので」、「王になった男」よりコインを投げて願掛けしよう2
「愛の不時着」をご覧になった方なら思わず口角が上がってしまうユン・セリの指ハートシーンも、ソン・イェジンさんがカンスク作家の絵コンテを忠実に再現されながら演じていたことを伺い知ることができます。
さらに詳しい展示会の様子や絵コンテ作品をご覧になりたい方は、下記URLも併せてご覧ください。
https://honoraryreporters.korea.net/board/detail.do?pageidx=2&board_no=12512&tpln=8&articlecate=1&searchtp=&searchtxt=
そして今回の京都の個展のためにカンスク作家が描かれた「愛の不時着」にちなんだ躍動感ある素敵な絵画もありました。
展示会のために制作された絵画 「キャンドルシーン」(左)、展示会場に飾られた絵コンテ作品たち
コンパクトなギャラリーでしたが、一つ一つの絵コンテ作品が素晴らしく、ディテールやタイトルをじっくり拝見しているうちに、気が付けば日没近くになっていました。
カンスク作家の初海外個展「京都に不時着」は韓国ドラマがお好きな方にはたまらない、貴重で素晴らしい絵コンテ作品が数多くみられる展示会でした。
続いてカンスク作家インタビューの模様をお届けします。
【カンスク作家 インタビュー】
―カンスク作家はいつから絵を描き始められましたか。またそれはどのようなキッカケでしたか。
国民学校(日本の小学校)の間はソプラノ歌手になることが夢でした。しかしながら中学1年の時に成長によって声が男性のように低くなってしまって毎日、悲しんでいたんです。
そしたら担任の先生に「放課後の特別課外活動に美術関係のものがあるからやってみたら?」と教えていただき、そこで偶然、絵と出逢いました。
―第一線でご活躍されていて韓国のインターネットサイトで大学時代に東洋画を学ばれていたと拝見していたので、幼い頃からずっと絵の作家を目指されていたのかと思っていました。偶然だったとお伺いし、少し意外で驚きました。
ふふふ、驚かれたんですね(笑)。私の友人でもある俳優のムン・ソリさんがワンちゃんとの 感動的な話を書かれたので絵コンテだけじゃなく、その本のイラストを手がけたりもしています。
カンスク作家がイラストを手掛けた俳優ムン・ソリさんの著書「三本足の散歩」(左)、ムン・ソリさんの著書を手にポーズをするカンスク作家
―カンスク作家は大学で東洋画を学ばれていた時期、今の仕事をされている未来を想像していましたか?
全然、想像してなかったですよ(笑)。学生時代の専攻と今の仕事では「絵」という部分では同じですが、東洋画は「美術」であることに対して、絵コンテやストーリーボードは「商業美術」なので、学んだことと一致している仕事に就いたという感じではないのかもしれません。
私は絵コンテ作家以外にも実は様々な仕事を持っているんですよ。ストーリーボードアーティスト・カリグラフィスト、そして俳優とイラストレーターに香水ショップの経営もしています。
―アクションやラブコメで異なるとは思いますが、映画と16話まであるミニシリーズのドラマ。それぞれどれぐらいの枚数(の絵コンテ)を描かれますか?
映画の場合、全シーンを描くので2000~3000カットになります。一方、ドラマは(完結まで)長いので正確な枚数を数えたことがありません。ドラマの場合は全てのシーンは描かず、重要なシーンのみを描きます。
―今回の個展は「京都に不時着展」というタイトルですが、ドラマ「愛の不時着」の絵コンテを描かれた中で、カンスク作家が最も印象的だと感じたシーンはどこでしたか?
それはもう非常にエピソードも素敵なキャンドルシーンでしょう!
全てのシーンが大事で、大好きなシーンなので、一つだけに絞って選ぶことが非常に難しかったです。
―展示を拝見し、絵コンテの中の人物描写・人物の表情が実際に演技をされている俳優さんたちに非常に似ているなと感じたのですが、作品のシナリオを読んでストーリーを分析された後に俳優さんに実際にお会いしてから、絵コンテを描かれているのですか?
俳優さんたちは家でシナリオをみて、セリフを覚えてくるので、私がシナリオをみる段階ではお会いしません。シナリオを読み、俳優さんに「このシーンはこう演じて欲しい」と監督と話し合いながら絵コンテは完成させますので、制作の段階で俳優さんには会いません。でも撮影が始まった後、実際に再現していただきたい動作や仕草をお伝えする段階になってからお会いします。
―俳優さんには作品によって当たり役と残念ながらそうではなかった役というものも実際に存在すると思いますが、「この役はこの方にとって当たり役だ!」とこれまでに感じた俳優さんと、その作品名を差し支えなければ教えてください。
たくさんそのように感じることも多いですが、強いて例えて挙げるのでしたら「愛の不時着」の(ヒョンビンさん演じる)リ・ジョンヒョクと(ソン・イェジンさん演じる)ユン・セリですね。
本当によく合っていました。(ヒョンビンさんとソン・イェジンさんの)お二人は結婚もしたじゃないですか!本当に役柄もドンピシャだったので、結婚までされたんだなと思いました。
他にはキム・ナムギルさんの善徳女王のピダム役が本当に合っていました。そのキャラクターとキム・ナムギルさんが驚くほどに合っていて素敵でした。
花束を片手に会場で微笑むカンスク作家(左)、自画像と並んで微笑むカンスク作家
―日本では2020年に発生したコロナ禍でのステイホームをきっかけに韓国ドラマを見始めた方が増え、 それにより「愛の不時着」も話題となり、ドラマにまつわる展示会が全国4都市で開催されて人気を 博しました。今回カンスク作家の展示会は京都での開催でしたが今後、日本国内の他の都市でも 開催のご意向やご予定はありますか?
私も日本の他の都市での開催を非常に心から願っています。ただ今回の展示会は、ボランティアをはじめとした方々に多大な協力を得て開催に漕ぎつけましたが、ほとんど後援者がいなかったので、とても大変でした。そのような状況から現時点では今後の日本国内での開催は未定という状況です。
日本の他の都市での開催についても、ご要望があればお伺いしたいと思いますが、それには多くの韓国ドラマファンの方々のご声援がとても必要ですのでこれからもご声援のほど、よろしくお願い致します。
そして今回、北海道・千葉・東京をはじめとした遠い場所から大変な思いをして京都まで見に来てくださった方もいました。私の展示会のために遠くからいらっしゃることは本当に大変なことだと思いますので、できる限り私のほうから出向いて行けたらと思っています。
―ぜひまた日本の別の都市での開催が実現されますよう心より願っております。
先ほどもお伝えしましたが、絵コンテを少しでも多くの日本の皆さまに見ていただけたらと思います。そのためには韓国ドラマファンの方々を始めとしたご声援・ご後援が非常に重要です。これからも応援して頂けると嬉しいです。
今回、会場となった同時代ギャラリーのご厚意で会期終盤に実現したインタビューでしたが、カンスク作家はお疲れの様子を一切見せず終始穏やかに、時にはユニークに質問のひとつひとつに丁寧に答えてくださいました。絵コンテ作品が素晴らしいことはもちろんですが、数々の大ヒットドラマの絵コンテを手掛けられ、「韓国の宝石」とも言われているカンスク作家ご本人も非常に温かく気さくで、そして太陽のように明るく、多くの魅力を持つ素敵な方でした。
カンスク作家が絵コンテを手掛けた作品リストと会場となった同時代ギャラリー
そして京都でのインタビュー時「次の日本での開催は未定」とのお話でしたが、カンスク作家より京都の展示会参加者を始めとした韓国ドラマファンの方々から日本国内での再開催を望む声がカンスク作家へ非常に多くあったとのことで現在、東京での開催についても後援者を募りながら実現に向けて話し合いが進められているとのことです。
*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が制作しました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
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